第4話契約結婚4

 

「よし!」


 自宅の部屋に戻ると思わず拳を作りました。

 私はやりました!


「どうでしたか?」


「問題ないわ。全ては私の思い通りよ!」


 隣で見守っていた執事が問いかけてきた言葉に私は満面の笑みを浮かべて答えました。

 まだ胸の高鳴りが止まりません。

 まったく、碌な事をしない兄ですが、今回の話は感謝しなくてはいけませんね。

 まぁ、直接伝える気はありませんが。絶対に調子に乗りますから。

 私と伯爵様の結婚式まで残り一週間を切りました。

 本日は伯爵様のお屋敷へと招待されました。そこで最後の打ち合わせをするのです。伯爵様と初めてお会いしてから半年近く経ちましたが未だに顔を合わせるだけでドキドキします。

 だってとっても美しいんですもん!!


 本当にこの話が転がり込んできたのは、幸運以外の何物でもございません!!!


 伯爵様は私のインスピレーションを刺激する存在です!


 私と伯爵様の結婚は社交界を騒がせました。

 それも当然の事。

 行き遅れの平凡な子爵令嬢と社交界の貴公子と謳われる伯爵様が結婚するなんて誰も予想してなかった筈です。

 もっとも、私達の結婚は多くの人に祝福されたとは言い難い状況でした。

 口さがない人は「偽装結婚だ」と言ってくる人もいましたが、まぁ事実なので微笑み返しておきましたわ。その時に「貴族の大半は政略結婚です」と付け加えておきましたのでこれ以上何か言ってくることはないでしょう。


 それに嘘ではありませんからね。

 家同士の繋がりを求めた結果です。


 結婚式が終わり、伯爵邸の一室で再度確認された契約内容に私はサインを致しました。これで正式な契約成立です。


「では、私は失礼いたします」


 契約書を手にした私は伯爵様…いいえ、旦那様に頭を下げて退出しようと踵を返したのです。

 旦那様は何か言いたそうな顔でした。

 寝室を別にするのは契約に入っていますからね。何も不思議な事はないと思うのですが、どうやら旦那様の頭の中では私という新妻が契約を反故にして迫るとでも考えていたようです。

 そんな事はしませんのに。


 晴れてブリトニー伯爵夫人となれば今まで以上に仕事の幅が広がるというものです。

 茶会や夜会で女性達からの洗礼を受けるでしょうからそれを生かした作品を作るのもまた一興。

 最近、マンネリ化していたのも確かなのでとても良い刺激を受ける事でしょう。気分転換にもなるでしょうから良い作品ができそうですね。


 旦那様は何も聞いてこなかったので言ってませんが、私の今人気の作家の一人。

 女官と兼業している形になりますが、最大の支援者のお陰で仕事は捗ってます。


 まぁ、私が作家の『フェイクス・ピア』だと知るのは極少数。旦那様とは契約期間がありますのでお知らせする必要はないでしょう。


 寝室のベッドに横になると今後の予定を考えながら眠りにつきました。



 その日の夜に見た夢は懐かしい夢でした。



「僕には愛する恋人がいる。彼女を妻に迎える。なのでアリックスとの婚約をなかったことにしたい」


 婚約者のジェフリーは腕に美少女を侍らせて宣った。





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