第3話契約結婚3
数日後――
私は今、ブリトニー伯爵様の屋敷で彼と向かい合っております。
勿論、二人っきりではありません。
部屋の中には執事長とメイド長がいます。
「君がアリックス嬢か……。アルテルから聞いてはいたが……。本当に私と結婚する気かい?」
「勿論ですわ」
「……アルテルは妹は社交界にあまり顔を出さない。仕事一筋だと聞いていた。私の事は知っているのかな?」
「はい、伯爵様は女性に大変人気だというのは有名な話ですから」
笑顔を浮かべていますが、私に値踏みする視線を向けて来られます。
「結婚条件は聞いているかい?」
「はい、了承してますわ」
私がそう言うと、伯爵は「へぇ」と言ってニヤリと笑いました。
何がおかしいのでしょうか?
「自らお飾り妻に志願するなんて珍しいね」
「お褒め頂けて光栄ですわ」
「それで?子爵家は兎も角、君に私との結婚にメリットがあるとは思えないが?」
「そうですか?」
「ああ、自分で言うのも何だかこの結婚条件は酷いだろう?それとも伯爵夫人という肩書が欲しいのかな?金はあるが私は無駄金は使わない主義だ」
「まぁ……。確かに伯爵夫人の座は魅力的ですわね。ですが」
「なんだい?」
「上の身分の方は沢山いらっしゃいますから。それを考えますと私にはあまり魅力は感じません」
「ほう……」
「それと、お金の件でも私は困っておりません。これでも高給取りですから」
「確かに。君は王妃様付きの女官だ。だが、ならば尚更私と結婚なんて有り得ないと思うが?」
伯爵様は心底不思議そうな表情で首を傾げました。
まぁ、普通はそうですね。
彼が求める妻。
ある意味で理想の妻。
ただし女性側からすれば「そんな女は存在しないし、女を馬鹿にするのもいい加減にしろ」と誰もが思う事でしょう。
「ご安心ください。私にも結婚のメリットはあります」
「ふむ……?それはどんな?」
「まず、私はお飾りとは言え、貴方の正妻となります」
「うん」
「それも子供を生む必要もない」
「……」
「私が仕事を辞める必要もない」
「つまり、君は仕事を続けられればいいと?」
「はい、それに加えて私の仕事でお願いする事もあると思いますので……」
「お願い?それはなんだい?」
「ふふっ。それは後々」
「成程」
「伯爵様、もしよければ契約書を交わしませんか?その方がお互いの為でしょう」
私は鞄の中から一枚の契約用紙を取り出しました。そこには今回の結婚契約内容が書かれております。お互いに利益があり、尚且つ双方が同意している事を明記しなければいけません。
「これは……」
「先ほど申し上げた条件を記しております。どうぞお目通しを」
伯爵様は契約書を手に取るとじっくり読み込んでおりました。
ご自分の不利になりかねない案件を探しているのでしょう。
適当に読んでさして考えもせずにサインするどこぞのバカとは大違いです。何故、あのバカと友人などしているのか見当もつきません。やはり、学友だったからでしょうか?バカは勉強だけはできましたからね。上位クラスで家の対立派閥でもない。
格好つけで見栄っ張りの兄は単純な思考回路をしてますからね。バカ騒ぎをするメンバーとしては持ってこいでしょう。保身的な典型的な貴族の坊ちゃんですから、掌で転がしやすいという面もあります。伯爵家の威光に逆らわないという点も加えて学生時代の友人という観点では合格ラインだったと思いますもの。
アレコレ考えているうちに、契約内容を読み終えた伯爵様は、私に質問をしてきました。
「随分と細かく書かれているね」
「ええ、伯爵様は女性の扱いに長けていらっしゃると聞き及んでおります。故に細かい事も気にしないかと存じますが」
「そんな事はないさ。女性は大切に扱うべきだ。君が望むなら、私も出来る限り努力しよう」
「あら……」
意外でしたわ。
問答無用で契約を結ばれると思っていたのに……。
こうもすんなりと契約内容を受け入れられるのは想定外でした。
「伯爵様は女性に大変優しい方とお伺いしております。そして実業家としても大変なご活躍だとも……」
「……そう、かな?」
「はい、ですので私達はきっと良い夫婦になれますわ」
私は伯爵様に笑顔でそう告げました。
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