第2話 すれ違い
私とアレンは幼馴染だ。
この町で生まれて、生まれたときも同じで、家が隣同士だったのでよく遊んでいる。私は追いかけっこやかくれんぼが好きだけど、アレンは家の中で本を読んだり、積み木で遊んだりするのが好きみたい。
今日はなにか教会で祝福の儀っていうのが行われるみたい。
毎年子供たちが五歳になるころに教会の司祭の人が、加護?というものを与えてくれるんだって。アレンが細かいことを言ってた気がするけどよく覚えていない。
その司祭の人に加護を与えられた。私の加護は”勇敢な心”らしい。よくわからないけど、なんか強そうだった。アレンは”えいちの器”っていうのらしい。頭のいいアレンのことだから多分なんか賢い加護なんだろう。
「これで僕もすごい魔法が使えるんだ!」
アレンが嬉しそうにそう言っていた。魔法って生活魔法だけじゃないの?私たちが使っている魔法と違って色々難しいことが出来るらしいんだって、アレンはすごいなぁ。
僕が10歳になったころ、町では一番の魔法使いになっていた。小さな町だけど生活魔法を含めて僕に敵うものはいない。害獣の駆除や、狩猟、畑の管理など、僕の仕事は多い。
中でも動物の狩りはエミリと一緒に行うことがほとんどだ。彼女は勇敢な心という加護を得て、優秀な剣士として育っている。元々活発だった彼女は、さらに外で活動するようになり、町の荒事をその強い心で解決している。
ある日、僕は狩猟の時に失敗をしてしまって、足にケガを負ってしまったことがある。僕が打ったウインドアローが外れて、その隙を狙われてしまった。いつもなら守ってくれるエミリが僕の魔法のせいで遅れてしまったからだ。皆で帰る中、彼女は僕を背負いながら、半べそになり謝ってくる。
「ごめんね、ボクがもっとしっかりしてればアレンがケガすることなんてなかったのに」
「そんなことないよ!」
僕がどんくさいのがいけないんだ、魔法が使えるからって慢心して体を鍛えてこなかった。気の利いた言葉が言えなくて、ごめんねごめんね、と繰り返す彼女の背中で涙をこらえることしかできなかった。
ボクの周りで女の子が恋愛話で盛り上がるようになったのは15歳になったくらいの頃だ。やれあの子が好きだ、タイプの子はとか、あんまり興味のない話ばかりだった。
そんなことよりボクは外で遊ぶことが好きだったので、皆で狩猟や畑仕事に精を出した。
加護のおかげか分からないけど、ボクの力はすごく強くなっていた。年上の男の人との腕相撲なんか負け知らず、狩猟の成果もボクがダントツ、アレンも同じくらい獲物を狩ってきてたけど。
ある日町の中で女の子の会話が聞こえてきた。
「アレン君ってかっこいいよね」
「知的だし、他の男たちとは違うよね~」
アレンのことだ。なんかアレンが褒められてるとボクもうれしい。
そこに会話をしていた女の子たちがボクを見つけてアレンについて聞いてくる。
「エミリとアレンって幼馴染だけど、もしかして好きだったりしない~?」
好き?うーん好きと言えば好きだけど、皆が言う好きと違う気もする。アレンとは家族って感じだし。
「アレンのことは弟みたいに思ってるよ。それよりもボクより強い人が好きかな、あと守ってくれる人」
「エミリより強い人ってこの街にいなくない?王都の騎士様くらいじゃないとそんな人いないよ~」
「え~そうかなあ」
ああ見えてアレンって鍛えてるし、魔法も使えて強いんだよね。
あれ、ボクってアレンのこと好き?なのかな?
「アレン君ってかっこいいよね」
「知的だし、他の男たちとは違うよね~」
僕が町を歩いていると僕の噂をしている女子がいた。その前を堂々と通るわけにもいかず、僕は聞き耳を立てつつ建物の陰に隠れる。
「エミリとアレンって幼馴染だけど、もしかして好きだったりしない~?」
エミリの好きな人!?それは聞きたい、僕はエミリの口から出る言葉を待った。
そしてその言葉に打ちひしがれることになる。
「アレンのことは弟みたいに思ってるよ。それよりもボクより強い人が好きかな、あと守ってくれる人」
エミリより強い…、10歳の頃、彼女に背負われた時から鍛錬は欠かしていない。魔法もたくさん覚えたし、知恵に関しては充分に基準に達していると思う。でも彼女を守れるか、そう言われると自信がない。
どうしよう。こんなんじゃエミリの隣に立つことが出来ない。ひざを折って顔を伏せて落ち込んでいるとエミリに声を掛けられた。
「あ、アレンだ、今そこの女の子と好きな人の話してたんだけど、アレンの好きな人っている?いるならどんな人?」
無邪気に聞いてくるエミリに、僕は少し意固地になって答えてしまう。
「好きな人はいないけど、おとなしい子がいいな。清楚な子だと尚いい」
僕はまるっきりエミリの性格と正反対の事を答える。そっかーと興味なさそうに答えるエミリに寂しい思いをする。そうか、僕ってエミリを守れる強い男じゃないもんな。弟みたいだって言ってたし
「エミリもそのガサツさ直さないと、お嫁さんにいけないよ」
「別にいいよ、ボクは家でお母さんみたいなこと向いてなさそうだし」
独りよがりな僕の初恋はこの時に終わってしまった。
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