第3話 紅い気配
◇
「はぁ……今日も散々だったな」
オレは東京都内にある一軒家の自宅へ帰宅すると、靴を脱ぎながら愚痴る。
すると玄関前を通り過ぎる途中だったようで――。
「お帰り、お兄ちゃん。どうしたの? なんかあったの?」
「ただいま
「は? いきなり、なに? キモいんだけど」
一歳年下にして紅眼・白銀長髪の美少女。彼女からツンとした態度で言われる。
どっかの竹なんとかという有名女性声優のようなツンデレボイスで。
これがオレと二人暮らしをしている義理の妹・
もちろん義理なので血は繋がっていないが、せめて仲良くしてほしいものだ。
「それより、あたしアイス食べてくる」
「春からアイスだと? 早過ぎやしないか? いくらスタイル抜群の白愛でも太るぞ?」
「うっさい! アイスで太んないし! 死ね!」
放送禁止用語を叫び、彼女はスタスタと廊下の奥へ逃げるように去った。
オレは溜め息を吐き、リビングに行った。そこで待っているオレの彼女に一秒でも早く会いたくなったのだ。
「オレを癒してくれるのはお前だけだ、ミク!」
ソファに座り、オレの帰りを待つ健気な彼女の姿に思わず感動。
「やっぱりオレにはお前しかいない。ミク」
彼女ははっきり言って可愛い。誰よりも可愛い。世界一可愛い。
クリクリな目に、素晴らしい黒毛。
ああ、なんて可愛いんだ。
「オレは一生お前を養っていくからな!」
「ミャアー」
オレの家で飼っている黒猫(メス)のミクを撫でて、ひたすらに可愛がった。
そうしてミクの癒しによって、損傷したメンタルは無事完全回復を果たしたのだった。
◇
食後の19時34分。
オレは月虹高校からの「戦闘陣形4」という課題を適当に終わらせ、そろそろ風呂に入ろうか、と考える。
自室を出て、隣の「はくあ」と書かれたドアの前で止まった。これは毎日恒例だ。
「白愛ー! 風呂入っていいかー?」
大きめの声で訊くと、
「え? わぁっ! なに、なになに!」
変な鈍い音と共に何かにぶつかる音が聞こえる。
ゴトンッ――、ドン――。
「いたたたたた……」
アイツ、中で何やってるんだ?と思い、
「大丈夫か――」
言ってドアノブに手をかけるが――。
「入ってこないで! 絶対に入ってこないで!!」
「でも……」
「大丈夫……大丈夫だから!」
早くどっか行って、と言いたげな口振りで言われてしまったので仕方なく開けるのをやめる。というかオレは一度もこのドアを開けたことがないのだ。
嫌われている? そ、そんなことは……分かっているさ!
「あのさお兄ちゃん……毎日毎日、お風呂に入る報告しに来ないでくれる?? ウザいし、別に勝手に入っていいから!」
「そうか。ごめんな」
難しい年ごろだ。
彼女と出会ったのは数年前という事情もオレ達が不仲な一因か。さすがに物心ついてから兄妹になれと言われても無理があるよな。
そもそもオレと白愛が初めて会った日、過失でオレはシャワーを浴びる彼女の裸を覗いてしまった。
あの時は悪いことをした……。
それ以降こうやって風呂に入っていいか確認を取っているが、決してその仲が改善されることはなかった。
数年前。
――――――
「きゃあああああああああ!! 変態! 痴漢! 泥棒!! 出てけ!!」
白銀の長い髪を真っ直ぐと伸ばした紅眼の美少女が湯気に巻かれ、びしょ濡れでそこに居た。
陶器のように白い肌を濡らし、胸元をしっかり隠し、絵に描いたような赤面でオレにプラスティックの洗面器を投げてきた。
「いや待て、これは……違うんだ!」
何も知らなかったオレは誰かの気配を察知し、浴室の引き戸を開けるとこの通りである。
「違くない!! あたしの
「無理うな!」
「ここから出ないと後悔するわよ!! この家がどこだか分かってるの、泥棒!? ここの当主は――」
言いながら白く明滅するプラズマを身体から発生させる。
ビリビリビリィィィ!!
感電するはずの濡れた身体でもこれが出来るのは―――異能『
まずい、電気系攻撃の放電兆候……!! これを食らったら丸焦げになる!
「――それはオレだ!!」
告げた瞬間、今にも放出しかけた白熱電気のアーク放電が治まり、オレは安堵する。
「え……どゆこと……?」
放心する彼女。
「オレが
「う、そ……」
「ほんとだ」
「あたし……引き取ってくれた当主様になんてこと……」
裸のまま俯き、大変反省している様子。
しおらしくなった様子がオレの性癖を刺激してしまい、オレは調子に乗った。
「それより、綺麗な
オレは彼女の艶めかしい女体の感想を述べたが――彼女は見る見るうちに顔を赤らめ――瞬間とてつもない白のスパークが眼前で起こった。
「ばかぁぁぁぁ!!」
戦闘体勢じゃなかったオレは電気性質の迅雷疾風で吹き飛ばされ、遥か遠くの廊下の壁に衝突する。
「いでっ!」
壁との衝突で背中を強打したあと、落下して尻もちをついた。
身体にあの電気体がぶつかる直前で『境界』の障壁を展開したからいいものの、普通なら確実に死んでいた……。
高貴な見た目に反して、だいぶ乱暴な少女だな。……まあいい。
それにしてもあの「紅い瞳」……彼女がオレの義理の妹になる白愛さんか。
今まで大変辛い思いをしただろう。
もう大丈夫。君は今日から柊 白愛だ。オレの妹だ。
――――――
◇
妹と出会った当時を回想しながら玄関の前を通り過ぎ、るんるんで浴室に向かっている、その時だった。
白愛の裸を思い出し、良からぬことを考えていた脳内は、突として集中させられた。
オレは玄関先にて立ち止まり、身構える。
「はぁ?」
この気配……かなり強い……一級異能士?
いや、それ以上……『特級』?
あり得ない、この世界に八人しかいない、特級だぞ?
「お茶しに来てくれたのか……なんつって。なわけないよな」
特級異能士――それはこう説明された。
世界に存在すること自体を危ぶまれ、都市さえも破壊可能なその力は一個軍隊と同格またはそれ以上。国家間問題や戦争の抑止力となる他、戦略兵器として扱われる彼らは、まさに特別な等級の異能士。
通常の能力レベル「1~7」を遥かに超えた彼らは「10」と認定を受ける最強。
つまり能力値「-1」のオレなどゴミ以下同然なのだ。
「今日はなんだ? 厄日か? なんでこんなについてないないんだ」
急ぎマナを目に溜め、
これは神々が持つとされる特殊な眼の一種。今ではもうオレしか持っていないもの。
「……赤いオーラ? これは……なんだ? 見たことないな」
ドアの外から滲み出る、オレの眼でしか視認できない赤い思念……それが外に居る存在自らを特級相当であると語っていた。
もう、嫌な予感しかしない。
普通、思念は「濁った何か」程度にしか見えない。モヤのようなモノ。
それがこんなに冴え冴えとしているなどあり得ない。明らかに異常だった。
「本格的に笑えない。とんでもないヤツが外に居る……」
オレはお茶らけた自分を抑制し、緊張感を身に纏った。
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