008 必要以上に怯えなくても良い

昨日は合計226匹の【小兎スモールラビット】を討伐したが次のレベルアップには、あと88匹の小兎を狩る必要がある。昨日までの探索の結果から一度の探索で撃破することができる小兎の数は凡そ75匹ほどだろう。レベルアップまで十数匹を残して帰還する意味はあまりないため今回の1回目の探索はレベルが上がるまで行うつもりだ。


レベルが上がればスキルポイントを使ってスキル面の強化をして2回目の探索で【ラビット】に挑むことになる。取り敢えずは昨日までと同じ探索になるが油断はせずに安全な探索を心がけてレベルアップを目指す。


早くレベル4に上がりたい気持ちはあるが焦っても良いことは起こらない。なるべく効率を上げることを意識はしつつも何時も通りを心がけて小兎達を屠っていく。特にトラブルが起きることもなく無事に88匹の小兎を倒し僕はレベル4に上がった。


さて、入手したスキルポイントだが何に使用するか。正直な話、今からレベル1のスキルを2個取得しても戦闘能力は大きく変わることはないだろう。そもそも狩人という職業が戦闘特化の職業ではないため取得ができるスキルにわかりやすい戦闘スキルがない。


これが戦士であったならば【身体強化】や【筋力強化】といった分かりやすく戦闘に貢献するスキルがある。やはり戦闘のスペシャリストは戦士なのだ。


とは言えダンジョンは何も戦闘だけが全てではない。ソロでやる以上、戦闘一本で探索を行うのは危険だ。階級が低いうちならば戦闘だけでも大した問題はないだろうが下級ダンジョンからトラップが存在したり察知感知系のスキルが無ければ気づくことができないモンスターが現れたりもする。


だから僕は狩人を選択したことを間違ったことだとは思わないのだが、こうして戦闘力を求められた時に戦士の戦闘力の利点が良く見えてしまう。隣の芝は青いというやつだ。


ここまで狩人がロクな戦闘スキルが無いように聞こえたかもしれないが近接戦闘を行うのであれば取っていて損のないスキルがある。それは【歩法】というスキルで探索面でも戦闘面でも使える優秀なスキルだ。


基本的には【投石】と【奇襲】のコンビネーションで撃破できるとは思うのだが万が一がある。兎は侮れないほどに素早い。脚力が強くライオットシールドを構えていても最悪、蹴り殺されるかもしれない。


...。


いや考えすぎだな。自分が凡人であることを改めて突きつけられて少しネガティブになり過ぎている気がする。探索者はレベルを上げることで超常の力を得る。


それはスキルだけか?否。探索者にはステータスという恩恵がある。スキルはその恩恵の一部に過ぎない。兎の脚力が優れているのもレベルが上がっていないステータスを得ていない人間の場合の話だ。


人はステータスを得た時点でアスリート並みの身体能力を獲得する。職業レベルが1上がるごとに見習いであれば10%ほど総合的な能力が上がると言われている。職業ごとに上がり安い項目は違うが狩人は敏捷と器用さが最も上がりやすく次点で筋力や体力、抵抗力が上昇する。


僕のレベルは今、4に上昇しており総合的な能力がレベル1の時点の1.5倍近くまで上昇している。装備もこのレベル帯よりも2段階は上の装備を身につけている。正直な話、負ける道理はない。


さっきまで兎に手を出していなかったのも飽くまで念のためだ。ダンジョンでは極々稀にイレギュラーな事態が起きる。僕はそれに対応できるような準備をしてきた。兎如きに負けることはないのだ。


これは油断ではない。確かに僕がしてきた努力や得た知識から断言できる。兎には負けない。イレギュラーへの対策のための道具を沢山持っているのも道具を駆使すれば逃げるなり倒すなりをするためだ。


僕は予めそこまでの準備をして挑んでいるに過ぎない。同格か若しくは格下である兎に遅れをとるつもりはないのだ。


僕はスキルポイントを使用して【歩法】スキルを取得し【投石】のスキルレベルを一つ上げる。


なんだか少しすっきりした。同格や格下のモンスターには過剰に怯える必要はない。勿論、油断して怪我をする様なことにはしてはいけないので気を抜くことはないのだが少なくとも死ぬ心配はない。


無駄な心配があるとストレスを感じてパフォーマンスが低下する。兎相手に油断はしないが恐れることもない。


おっと。色々考え事をしていて換金をするのを忘れていた。休憩時間を少しだけ伸ばして万全の状態で兎を狩ることにしよう。

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