諸国漫遊怪異鬼譚
うめもも さくら
はじまりはじまり
今は昔、未だ西洋の足音さえ聞こえてこない頃。
此処に一人の若者と三体の人ならざる者がともに旅をしていた。
若者はとても真面目で心優しい男であった。
彼は若いながらに旅に出た。
それと決まった何かを求めてのことではない。
彼はただ様々な土地に足を運び、その土地を見て回っていた。
日記程度にその土地の事を紙にしたためては、また各地をめぐる放浪の旅。
その道中、偶然か必然か、彼は三体のなんとも癖の強い、人ならざる者に出逢ってしまった。
そのあげく、若者は大層気に入られてしまったから三体は彼からいっこうに離れようとしない。
若者に許可をとることもなく、旅についてきた三体のせいで彼の穏やかな一人旅は騒がしいものとなってしまった。
とても賑やかで騒がしく、異常にて非凡、
若者はそのせいで、迷惑を
それ故、彼は全てを運命と受け入れ、彼なりに癖のあるこの旅を楽しんでいるのだ。
少々諦めているふしがあるとも言える。来るもの拒まず去るもの追わず。
彼は流れ行くまま、見ず知らずの誰かが決めた思想に囚われることなく、絶え間なく訪れる変化も受け入れ、その中で小さな物事にも価値を見出す。
そんな非常に風変わりでお人好しな男であった。
そんな若者の事を三体は、先生や旦那と呼んで慕っていた。
三体の人ならざる者。
一体は、他の二体から「キツネズミ」と呼ばれいる顔を薄い布で隠した青年の姿をしている。
髪は月明かりの如き白、顔の両側にある髪だけを三編みにして、肩までかかる後ろの髪はそのまま。
まだうら若き青年の姿でありながら、腰を曲げて歩く。
その手には
他の二体とは違い、若者からは自身が名乗った名前「ヨミ」の名で呼ばれている。
彼は若者を先生と呼び
けれど基本は先生と慕う若者にも、人を小馬鹿にしたような話し方をしている彼は、煮ても焼いても食えない性格をした曲者だ。
もう一体は「お
切れ長の美しい瞳、口元にひかれた紅、巧みな弁舌、彼女の見目や立ち振る舞い全てが妖艶なものになる。
髪は長い黒髪をそのまま風に揺らしている。
意図的に、はだけられた着物は絶妙に胸を隠しているが、それ故に胸が強調されている。
男でなくとも、彼女の色香に惑うほどに、彼女は妖しく艶めいている。
若者のことを旦那と呼んで、しょっちゅう誘惑している。
なかなかその誘惑にのってくれない若者に軽く苛立ちを見せるものの、その関係を楽しんでいる。
ヨミとは折り合いが悪く、言い争いや小競り合いも度々をしている。
ヨミのことは普段キツネズミと呼んでいるが、口喧嘩をしている時はネズミ野郎と口汚く呼び、ヨミもまた彼女を普段はお銀と呼んでいるが、喧嘩中は女狐、性悪ギツネと呼んでいる。
二体は
彼女は人間なんぞに興味などないと口では言っているが、実際はこの三体の中では一番に情に厚い。
そしてもう一体は「
目元ははちまきのような布で覆っているため前が見えず壁などにぶつかりはしないかと、よく若者に心配されている。
けれど本人は慣れている為、実際にぶつかったことはない。
目元は見ることは出来ないが、美しくとおった鼻筋と形の良い唇から端正な顔立ちであることは見て取れる。
長い黒髪を後ろに一つでまとめ、きっちりとした出で立ち。
若者を旦那と呼んで、慕っている。
基本は温厚な性格で、話し方も柔らかい。
しかしヨミたちいわく、彼を怒らせてはならないそうだ。
怒らせたら、彼が一番、厄介なのだと彼を知るものは皆、口を揃えて言う。
それ故か、ヨミとお銀が言い争いをした時の仲裁役は彼が担っている。
そんな人ならざる者たち。
三体は三様に美しい人間の姿をしており、若者には自身が人ではないとは明かしていない。
しかし決して鈍感というわけでもない若者は三体の人ならざる者を、人間ではないのではないか?と薄々勘付いてはいるが、だからといって彼は三体に対して態度を変えたりはしない。
この若者という男は、相手の心を想い、重んじ、寄り添おうとする。
そして、自身の信念に従い、当たり前に有限である命を真っ当し、自らの力で進もうとする。
性格は、優しくおおらかで、素直で、見て見ぬ振りなどするわけもなく弱き者にも簡単に手を差し伸べる。
もし人の道を外れそうな者がいれば、全力で引き止める。
人を傷つける
蜜菓子のように甘いだけでなく、時に、冬の寒空のような厳しさを持ち合わせる。
どちらが欠けても成り立つことのない大切な優しさを、きちんと
おそらく、人が善人だと思うものを、あれやこれや詰め込んだような男がこの若者なのだろう。
そんな真面目を絵に書いたような男が何故、定まった職にもつかず、ただ一人、行くあてのない旅に出たのか。
それはおそらく彼にしかわからない。
わかるのは彼が一人、旅に出たという事実だけ。
そしてその旅の道中で彼と人ならざる者たちが出逢った。
もし本当に運命とやらがあるのなら、この出逢いは間違いなく運命の出逢いだったのだろう。
その運命の行き着く先が幸福か悲劇か。
それはこの話を読み終わった時のあなたにお任せしたい。
それでは、根無し草のように旅をする若者と癖の強い三体の人ならざる者たち。
つまるところ、風来坊の集まりである。
そんな風来坊たちの
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