第7話 魔物の鑑定
「以降のヘブンゲームは参加せず、今所持しているSPを消費して異世界転生を希望する方はいらっしゃいますか? 希望する方は手を上げて下さい」
30日ぶりに皆の前に登場したルマロスさんは、思いがけないことを聞いてきた。
しかし、よく考えてみれば色々な状況があるかもしれない。
例えばもう1SPしか持っていない場合、次のゲームで敗者になれば地獄行きが決まる。その場合、地獄行きの可能性があるなら、モンスターや動物になるのでもいいから転生したいと願う人もいるだろう。
あとは、2SP以上持っているが、次のヘブンゲームに参加する気持ちを失った人もいるかも。それ程「夏休みの宿題」はハードだった。
10人程手が上がった。
「他の希望者はいませんか?……それでは手を上げた希望者の方、これからSPを消費して、個々の転生後のステータスに修正します。人種の場合は『種族、性別、職業』を変更、『取得スキル、境遇』を追加、変更することが可能です。ただし、転生用に1SPは残して下さい。10分後に自動的に転生が始まりますので、それまでに決めて下さい。なお、これから先、転生のキャンセルはできません。それでは、各自ステータスウィンドウを表示して確認して下さい」
転生希望者達が、ステータスウィンドウを開いていく。その中身は見えないが、表情は皆芳しくない。
「う……うぅ……うぅ…………」
女性のすすり泣く声が聞こえる。おそらく、転生後の酷い現実を突き付けられたのだろう。
「クラーケンって何なのよーーーー! 私の種族! 誰か教えてよーーーー!」
泣いていた女性が突然叫んだ。
で、でかいイカだっけ?
「海にいる巨大な頭足類のモンスターですね。イカかタコかは諸説あるけど」
真面目そうな高校生ぐらいの短髪の男子が答えた。
「タコは絶対イヤ! 形がキモイのがイヤ! イカがいい!」
イカならいいんかい!
「あ、あと、私のスキルは雷魔法。海で雷撃出したら自分が痺れるじゃないの!」
「自分自身の攻撃は、影響を受けないことも考えられますよ。転生したら出力を最小にして、試してみたらどうでしょう」
短髪男子がアドバイスする。
「わ、わかったわ……グㇲ……ありがとう……」
落ち着いたのか女性は目を閉じて、祈る様に両手を合わせてじっとしていた。
やがて、転生希望者の足元に魔法陣が現れ、体が光の粒子となり消えていった。
それにしても、女性の訴えに答えた短髪男子には感心した。
皆が注目している中、感情的にならず淡々と知識を示して、対処法を教えていた。女性はそれで落ち着きを取り戻して、冷静な状態で転生できた。
俺だったら人が沢山いる所で、あんなに堂々と振舞うことはできないだろう。その行動に、キラキラしたものを感じた。
◇
「では、2回目の『転生の3試練』を始めます」
ルマロスさんが杖を掲げ、唱える。
≪精霊よヘブンゲーム[転生の3試練2]に誘え≫
ルマロスさんの杖に埋め込まれた、青い宝玉が輝いた。
そして足元に魔法陣が現れ、体が光に包まれた。
◇
今度のヘブンゲームの場所は、広い草原の中だった。遠くに山々があり囲まれているようだ。空は一変して雲一つない青空で、太陽が地表を照らしている。
少し離れた場所に、5m程の高さの灰色の壁が立っている。その壁はとても長く広がっていて、端が把握できない程だった。壁には、白いドアが一つぽつんと付いていた。
皆は無暗にその壁に近づいたりはしなかった。流石にここまで残った人達は慎重なようだ。
突然きらきらする光の粒子が空中で集まり、羽の生えた茶色の子豚が登場した。宙に浮かぶたれ目でぽっちゃり系の子豚は、恥ずかしそうに手をもじもじしている。
「みなさ~ん。はじめまして~。おれっちはタリムって名前なんだ~。このヘブンゲームの審判をするからね~」
言い方がゆっくりだな。
「みんなは~メタから話を聞いてるよね~。メタのゲームのルールと同じところは~面倒だから画面に映すよ~」
えらい横着だ。話が速くていいけど。
基本ルール
〇質問は受け付けないからね~
〇死んでも魂は消滅しないよ~
〇悪意を持った他者への物理的、精神的な攻撃は禁止~
〇死亡やルール違反は退場になり、敗者になるよ~
SPルール
〇最初にSPをベットしてね~
〇 課題をクリアしたら勝者で、ベット数の2倍のSPがもらえるよ~
〇課題をクリアできなかったら敗者で、ベットしたSPは没収だよ~
〇ゲームに参加せず棄権は1SP支払いだからね~
空中に大きな画面が現れ、ルールの一覧が表示された。
「それじゃあ、違うところを説明するよ~。ゲームのタイトルは『鑑定のアルバイト』。指定した魔物のオスとメスを区別してもらうよ~。3m以内に近寄って、指を指してオスかメスか発声してね~。5回連続で区別できたら勝者、区別できないか、区別を失敗したら敗者だよ~。鑑定する魔物の数は充分いるから、心配しないでね~」
か、鑑定……って、ピヨピヨするヒヨコを掴んで、瞬時にオスメスを区別して放り投げるアッチの方ですか?何の魔物を鑑定するんでしょう。イヤな予感が……
「鑑定するのは可愛いコカトリスの子供だよ~。成体、つまり大人のコカトリスもいるからね~。子供の方は体が小さいからすぐわかるよ~」
それって鶏とか蛇とかが合体したモンスターじゃねーか! 可愛くねー!
「ちょっとじゃれて皆ケガするかもしれないけど~ゲームが終われば治ってるから気にしないでね~。『リタイア』と宣言すればゲームから離脱もできるけど、敗者になるよ~」
気にするわ! ケガしたくねーよ! あとリタイアもしないからな!
「今回の勝者特典は、皆さん待望の『鑑定』スキルだよ~。ゲームの制限時間は4時間。コカトリスは壁の向こうにいるから、白いドアから入ってね~。それでは、3分間でベット数を決めたら始まるよ~」
「鑑定」スキルキターーーー!!
異世界にいったら必須の「鑑定」スキル。見るだけで名前や特徴がわかって便利だよね。
テンション爆上がりの俺の前に、SPをベットするためのウィンドウが表示される。
うーーーーん、初回と同じ3SPのベットだと、勝っても増える量が少ない。「天素魔力変換」は既に取得済みだし、ベット数を1SP増やすか……よし、4SPをベット! 2SPを残す!
俺は賭けるSP数を決めて、「参加する」ボタンを選んだ。
やがて<「鑑定のアルバイト」スタート>と宙に表示された。
顔の前の右上に、残り時間のカウントが浮かんで表示されている。
前回が30日間あったので、4時間のリミットは短く感じるな。
俺は普通に歩いてドアに向かった。ドアの前の列に並んでいると、俺の順が来た。恐る恐るドアを開き壁の向こう側へ入ると、入り口側と同じく草原が広がっていた。
草原には、大きな2足歩行の鳥型のモンスターが沢山いた。体高が3m程のでかい個体は大人、それより低い体高2m程なのが子供だと思われる。
1羽1羽が大体10~30m位離れて立っていて、群れている感じはしない。その場でじっとしていて、あまり動かない様子だ。
頭は鋭い目つきの鶏、羽は兇悪な爪のあるドラゴン、尻尾が恐ろしい蛇の頭の、どう見ても近寄りたくない可愛げのカケラもない姿だ。
日本で見かけたら速攻で逃げ出して、警察、いや自衛隊を呼ぶだろう。
こいつらがコカトリス。その内の子供が今回のターゲットだ。
これのオスメスを、どうやって区別するんですかねタリムさん。
大人のコカトリスは、トサカが大きいのがオス、トサカが小さいのがメスだろうか。
様子を見ていると、しゃがんでいた大人のトサカの小さいコカトリスが立ち上がった。そこには卵があった。
ということは、トサカの小さい方がメスでほぼ確定だろう。そして、トサカが大きい方がオスということだ。
しかし、子供のコカトリスにはトサカが生えていないから、区別ができない。
こんなことになるなら、前世でヒヨコ鑑定士の資格を取得しておくべきだった。
俺は今ここで前世に戻ったとしても、絶対に行わないであろう後悔をした。
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