ゲームクリアで異世界転生!~天職は転生先で探します~
三角 四角
第1章 異世界へ至る道編
第1話 プロローグ
ふと気が付くと、俺は長い列に並んで歩いていた。見覚えのない無地の灰色のズボンとシャツを着ていて、布の靴を履いている。俺の前後には同様の恰好で青ざめた顔をした人々が、列をなしてゆっくりと進んでいた。
周りは白い霧に包まれ地面も白いため、感覚が失われて広さの検討もつかない。キョロキョロとあたりを見回したが、ここが何処なのか、何故俺がここにいるのかもわからなかった。
「あの、ええか」
後ろにいた、背の高いギョロっとした目付きの男が、遠慮がちに俺に声をかけてきた。
「あ、は、ハイ」
返事がキョドってしまった。不審に思われないだろうか。長く家にひきこもっていたせいで、リアルで他人と話すのも久しぶりだ。
とくに気にしたそぶりもなく男は話をする。
「戸惑うのもわかるで。オレもさっき気が付いて、こんな場所におんのに驚いたんや」
「こ、ここって何処だかわかりますか? 何が何だか理解できなくて……」
「まあな、なんとなくなら想像できるで。たぶんな、天国か地獄かどっちかやで」
天国……? 地獄……?
男はここに来る直前までのことを教えてくれた。自宅の部屋でネトゲを不眠不休で3日間プレイしていたら、突然心臓が潰れたかと思うほど痛くなり、そのまま意識を失ったという。
「さすがに3日の完徹は無茶やったわ。運営もクソやな。SSRアイテム入手のハードル高すぎやわ」
男は自嘲気味に笑った。
「ほんでな、気が付いたら家で寝とんのとも、病院に入院しとんのともちゃうやろ。やったら死んどるとしか思えへんな」
俺も少しずつ思い出してきた。この場所に来る前のことを。そういえば、家の階段を踏み外して、転げ落ちてしたたか頭を打ったな。それが俺の最後か。
それから二人で歩きながら、ぽつぽつと話をした。
男はタナカと名乗った。いかつい顔から俺より結構年上に見えたけど、一つ上だった。
中学入学後すぐに勉強が面倒になり、なんとなくずる休みしていたら学校に行けなくなったそうだ。バイトは気が向いた時にするぐらいで、いつもは自宅の部屋に引きこもり、ネットゲームに打ち込んできたという。
「え、タナカさんて、あのニャアゴさんですか!」
話のトーンが変わったのは、タナカさんがSF系のネトゲ上で、俺と会ったことのあるプレイヤーだとわかった時だ。何度かチャットで会話をしたことがあり、レアなアイテムをもらったこともある。
なんで「ニャアゴ」というハンドルネームだったかというと、飼い猫の名前から付けたそうだ。
「あいつのことだけが心残りやな。ホンマ、オレになついとったからな」
そう言うタナカさんは寂しげだった。
その後はお互いに読んだことがある好きなラノベや、どんな異世界転生をしたいかの話で盛り上がった。
「オレは前世で怠け者のアカン奴やったからな。異世界では赤ん坊の頃から猛烈に修行して、世界最強になるんや」
タナカさんの転生後の希望は、結構ワイルドだった。
しばらくして俺は列の様子が気になり、後ろを確認した。変わらず長い列。そして俺は視線を戻した。
横にいたはずのタナカさんは、いつの間にかいなくなっていた。
あれ……タナカさん?
そして、周りに並んでいた人達も消えていた。
10m程先、白い机の奥に座っている女性が手を上げて言った。
「次の方どうぞ。お待たせしました」
◇
「天界魂送センター受付、地球日本国担当のリエラと申します」
促されて椅子に座ると、ニコリともせず対面の女性が名乗った。
白いスカートスーツ姿で、クールな印象だ。ショートの青い髪が煌めき、引き込まれるような水色の瞳が目を引く。右目の下には小さな蝶のタトゥーが入っている。
リエラさんは、宙に浮かんだタブレットのような板状の端末を、指で操作しながら言った。
「GH-19AF95D649番、
「は、はい。魂の行先……」
「まず、光木さんの人生を確認させていただきますね」
「ど、どうぞ」
「幼少時代、光木さんの両親は事件に巻き込まれて死去。家族を失った光木さんは、叔母夫妻により引き取られる。しかし、心を閉ざした光木さんは友達もできず、学校での勉強も身に付かなくなった。そして不本意な大学に入った」
その通りですが……
「何とか大学を卒業するが、就職活動には連戦連敗。仕方なくアルバイトを始めるも、人間関係になじめず失敗続きでクビ。やる気をなくしニートになり、家に引きこもった。そして、不甲斐ない光木さんに怒った叔母から自宅を追い出される際に、家の階段で事故となり死去。享年25才。以上でよろしいですか?」
「……はい」
俺の人生、最低最悪だな。それにしても、オブラートに包むという言葉はご存じないんでしょうか、リエラさん。
「それでは、光木さんのこれまでの人生での行い、能力等を評価し、魂の行先を選定します」
リエラさんが指を素早く動かし、端末を操作する。
「候補が決まりました。行先を選択してもらえますか」
そう言ってリエラさんは端末の画面を回転させ、3つの選択肢を提示した。
①個人を保った輪廻から外れる。他の魂達と融合。
②地球の裕福な家庭の、ペットの犬として転生。
③地球の豊かな森で、周囲を支配する熊として転生。
うむむむ……
それは到底俺に受け入れられるものではなかった。
「人間にはなれないんですか? 何とかなりませんか」
「残念ながら魂の格が足りず、人間への転生はできません。ただ、動物としては幸せな生涯を送ることができます」
「俺は自分なりに一生懸命生きてきました。それだけじゃダメなんですか」
「より良い転生には、社会や環境への貢献が評価されます。光木さんが10才の時、拾った財布を警察に届けた功績が反映されていますよ」
「ちっさ。俺の社会や環境への貢献ちっさすぎね?」
俺は思わず頭を抱えた。
「もしこの功績がなければ、極寒の地のミノムシが転生候補でした」
「ミノムシから熊にアップ! 財布届けた評価が高すぎな件について!」
「そういえば13才の時、部屋にいたクモを助けて外に逃がした功績もありましたね。さらにそれがなければ、深海の熱水噴出孔に生息する、超好熱メタン菌になるところでした」
「ちょうこうねつめたんきんって何? それって生物!?」
くっそ、好き放題言いやがって!
俺は叫んだ
「全部ナシだ。代わりに剣と魔法の異世界への転生を要求する。俺は人として、異世界で楽して稼げるホワイトな仕事に就く。もちろんチート付きだ!!」
氷のような冷たい目で俺を見るリエラさん。
お、俺だって負けないぞ!
真っ直ぐな目線でリエラさんを見返す。これが通らなきゃ俺の来世は森の熊さんだ。
やがてリエラさんはため息をついて言った。
「これまで大した社会・環境への貢献や、困難の克服もしていない貴方は、異世界へ人として転生するには魂の格が足りません。しかし、可能性がないわけではありません」
リエラさんが仕方なさそうな様子で、端末を操作する。
「条件はある特別なゲームに参加してクリアすることです。貴方は意図しない事故により亡くなったため、参加資格はあります。もし参加希望であれば、こちらの契約書をよく読んで、理解した上で最後のページにサインをしてもらえますか」
ゲームのクリアが異世界転生の条件。上等だ!
俺はリエラさんから向けられた、宙に浮いた端末の画面を見た。小さな文字で、びっしりと何やら規約らしきものが書いてある。
俺は説明書を読まない派、そして契約書も読まない派に属している。早々に読むのを止め、画面を手早くフリックし、最後のページを表示させる。サインの欄があったので、指先を動かしサインした。
急に目の前が霧に覆われ、俺は白い空間に包まれていく。
最後にちらりと見えたリエラさんの顔には、ニヤリとした笑みが浮かんでいた。
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