第4話

□□□


「まず、自己紹介をしましょうか。私は冒険者組合ポポル支部の臨時支部長のホグウィード・ファフニール。以後宜しく」

「「……臨時?」」

「にゃ?」

「ええ。ポポルの街近郊のダンジョンを本格調査する、と組合本部から派遣されてきたのですよ」

「ダンジョン?」

「にゃにゃ!?」


 ダンジョン!!やっぱりあるのか!


 ……って能天気に思わせてほしいところだけど、それよりもこの臨時の支部長のことに少し安心した。


 この支部長のファフニールとやら、見た目というかなんというか、私の魔力の百分の一どころか、それ以下、メアリーちゃんの十分の一あるかないかくらいなのがなんとなく分かる。

 

 だから魔力総量でいえば私から見れば道端のふん、どころか道端に落ちているハエの死骸ほども気にも止めないくらいの少なさだ。


 その一方でこの人は私にも勝てそうな雰囲気がある。


 要因は私の、【ケット・シー】としての素質以外のところ。


 つまるところ、戦闘経験と魔術だろう。


 私の戦闘といえば今のところ大量の魔力にいわせたパワーッ!!な感じの暴力を振るいまくるだけ。


 もちろん今まではその『パワーこそが全て理論』で十分に通用してきたけど、この人みたいな歴戦の猛者の雰囲気を垂れ流している人には軽くあしらわれるだろう。


 それこそ過剰なパワー特化型がバランス型に一発も当てれず負けるみたいに。


 そこに追加で、魔術の有無。


 この街までの道中メアリーちゃんが使っていたのを見たけど、同じだけの魔力を使ったとき、魔術は魔法の倍以上の出力をしていた。


 そうなると場合によっては陽属性魔法、つまりバフを自前でかけれない私の身体は元々の身体的な固さしか頼ることしか出来ずに貫通される危険が十二分にある。

 

 そんなこんなでこの臨時支部長には負けるかもしれないと思ったわけだけど。まぁ、安心した。こんなのが普通に街に一人はいるってなったら怖かったわ。


 これで多少はメアリーちゃんの安全が確保されたな。この支部長も敵対心とかは感じられないし。でも早めに技術とか魔術を学んでおかないといけないかな。


 …………あと全然別の話だけど、ファフニールって名前はネタバレが過ぎるよね?


「それで、こちらが本来のポポル支部の支部長です」

「はーい、どうもー。この支部が寂れていた時代の支部長、ホノル・ポポルですー。よろしくどうぞー」

「えーと、こちらこそ、よろしくお願いします?」

「にゃ?」


 私たちをここまで案内してきた制服のお嬢さんがぺこっとお辞儀した。


 この人が元、というか本来の支部長?


 なんか、似合わない、というかなんというか……


 というか、この人、確か受付してた人だよね?そんな元支部長なのに雑用させられるの?


「ポポル君は私が派遣されるまで一人でこの支部を回していましてそれを見込んで、申し訳ないのですが事務仕事を任せています」

「私としてはー、仕事が減ったので嬉しいんですけどねー」

 

 ひ、一人で?


 どういうこと…………っていうか、あれ?


 そういえば、この部屋にくるまでこのポポルさん以外に制服着た人を見かけなかった気が……?


 本当に一人で運営してるの?


 人は見かけによらずってことか……


「それで本題だが、君たち、身分を証明出来るものは?」

「んっ……!?もっ、持ってません……」

「ふむ。では、出自は?」

「えぇ、と……エルフの村、です」

「成る程。……ここの付近で迷いの森はあったかな、ポポル君?」

「はーい、ありますよー。ただ付近、というほど付近ではないですけどねー。ポポルの街北西の、【大毒蜘蛛】の住処の森を抜けた先にあると報告がありましたねー。ただー、随分前のものでー、しかもその一つしか報告がないのでー、信憑性は薄かったんですけどねー」


 ……その情報、メアリーちゃんのお父さんとお母さんからのやつじゃね?


 メアリーちゃんは気付いて……ないな。


 教えた方がいいよね。


「にゃ!」

「…………」

「にゃにゃ!!」

「…………」


 んなっ!?


 ノーブル、こいつ、無視しやがった!


「にゃにゃにゃっ!!」

「…………」

「はいはい、どうしたのかな、パール?」


 あっ、ちょっ、違う!!


 抱き抱えるのは嬉しいけど、今は違う!!違う!!そうじゃ、そうじゃない!!


 あっ!!なんか、力が、抜けてく……


「にゃふぅぅ…………」

「ふふっ、よーしよし~、静かにしてようね~~」

「……随分懐いているようで。そちらの二体は貴女の従魔だということで間違いないですか?」

「はい、そうです!可愛いですよね!」


 にゃふぅっ……メアリーちゃんの太もも、あったかくて、きもちいい……それに、マシュマロみたいにやわらかいし……ふへへっ


「ふむ。ちなみに種族名を聞いても?」

「こっちの子が【貴族鳥】で、こっちの子が【ケット・シー】です」

「成る程、やはりそうですか……」


 あぁ、そこそこ、掻いてください……


「世界に名だたる最強種と二体も契約しているとは。貴女は素晴らしい才能をお持ちのようですね」

「…………?」

「世界において最強種といえば大きく分けて四種」

「他一切の生物に勝る最高の肉体を持つ神狼種」

「膨大な魔力と属性適性を持つ虚猫種」

「魔術でも再現不可能な特殊能力を保有する霊鳥種」

「そして、名実ともに世界最強の生物、古竜種」

「【貴族鳥】は霊鳥種に、【ケット・シー】は虚猫種に分類されますから」

「へぇ……?そうなんですか?」

「…………ご存知でなかったので?」

「はい」


 ほっぺた、つんつんするの止めてぇ……くすぐったいぃ……!


「ハハハっ!!聞いたかい、ポポル君!?知らずのうちに最強種を二体も契約していたそうだよ、彼女!」 

「えぇと?く、口調が変わってますけど……?」

「将来有望ですねー。もしかするとドラクシア王国二番目のSランク冒険者になっちゃうかもですねー」

「Sランク?」

「あぁ、失礼。長年生きていてもこんなことは初めてでね。少し興奮してしまった」


 ゴロンゴロンしても怒られない。


 ふふふっ、合法ひざ枕とか最高やわ。


 長年生きていても初めての興奮!!


「それで、貴女は冒険者志望ということで合っていますよね?」

「はい…………私、言いましたっけ、それ?」

「いいえ。しかし、身分証を一切持たない人が冒険者組合に来てる場合は依頼か登録かのどちらかで殆どですから。貴女の場合、そちらの二体と契約してらっしゃるので依頼なぞ出さずとも大抵の問題は解決出来るでしょうから依頼ではないと推量しただけです」

「ほぇ……なるほど……」


 ふぁぁ…………


 ……なんか眠くなってきた。


「それでは、登録の方を済ませましょうか。ポポル君、水晶玉持ってきてくれるかい?」

「もうありますよー」

「……流石だね。それではこちらに手をかざしてくれますか?」

「はい!」


 んぅ……眩しっ……


 ゴロっと寝っ転がえりメアリーちゃんの身体の方に顔を向ける。


 芳醇な香りがする……うへへ


「名前、メアリー・グローリア。年齢、百八十九歳。種族、【ハーフエルフ】。犯罪歴は無し。色は『白』と……」

「白?」

「ん?あぁ、この水晶玉は手をかざした人物の名前と年齢、種族、そして犯罪歴の有無を確かめる効果とは別に人の本質を見抜く効果があるのですよ。例えば、『赤』なら、自分の腕っぷしを過信して実力以上の依頼を受けてしまう傾向がある、などです」

「へぇー、そんなのがあるんですね」


 ふぁ……あ……もう……寝る……


「えぇ。ちなみにこの水晶玉はダンジョンで発見されたものを解析して量産されたものだったはずです。ダンジョンには失われた技術が使われた遺物が度々出土して、大幅な技術革新をすることも多々あります。それだけダンジョンは重要視されているのです」

「すごいですね……」

「しかし、それだけ危険もある、ということでして。私が任されたダンジョンは元々探索しつくされたと思われていたものだったのですが、最近新たな道が発見されたは良いもののB級以上の魔物が巣食っていまして…………失礼。話が逸れましたね」


 ………………うにゃ…………ぅぅ……


「本当ですねー。はいー、それではー、こちらが臨時支部長が時間稼ぎしている間にできた組合員証、基本的にカードって呼ばれてるやつですねー。どうぞー」

「…………」

「あっ、ありがとうございます」

「いえいえー。このカードで任務の受注、達成確認、その他諸々のために使いますのでー、失くさないように気を付けてくださいねー。再発行に銀貨十枚かかりますのでー」

「本来なら登録料として同じく銀貨十枚かかるのですが、グローリア君はエルフの村出身で貨幣経済に疎遠だと思いますので、例外措置として無償で組合に登録していただきます」

「ありがたいんですけど……良いんですか?私、今銀貨十枚分ちょうど持ってるんですけど……」

「……?」


 …………ちゃん…でかメロン…おぃちぃ………


「あっ、えぇと……この街に入るときにノエルさんっていう人が通行料を払ってくれて。その時に間違っちゃったのか分かんないですけど、余分に払ってたみたいで、守衛さんがお釣りを返そうにもそのときにはもういなくなってて、それでお釣りを私にくれた……んですけど……」

「ノエル君がですか。珍しいですね?…………いや、それでも結構です。宿を取るなりご飯を買うなりお金はかかってしまいますから。手元にお金があった方が安心でしょう」

「……本当に良いんですか?」

「ええ、勿論です。というよりここまで才能のある方を万が一にも怒らせて見逃したとなれば私が上司から怒られますから」

「……そこまで私なんかに価値がありますか」

「……ん?何かおっしゃいましたか?」

「いや、何でもないです」


 …………ぱふ…ふっ………ふへっ……


「そうですか?……それで、登録に必要な最低限のことは終わらせたのですが……そろそろかな」

「そうですねー。警護団の方々が来たみたいですねー」

「えぇと……それじゃあ、私たちはそっち行ったほうが良いですか?」

「はい。聴取が終わったら出来ればもう一度ここに来てください。残りの組合の規則や仕組みについて説明しなければならないので。恐らく聴取はすぐに終わると思いますが、今日は時間が遅くなってしまうでしょうから明日ですね、もう一度来てください」

「分かりました」


 ……ぁむ…………じゅるり………


「それでは……何か質問、ありますか?」

「いえ、無い……?いや、どこか安い宿とかってありますか?」

「それならー、私が紹介しますよー。どうせ今日の業務はほぼ終わりで暇ですしー、聴取のところまでメアリーちゃんについていきますねー。その後、宿の方を案内しますー」

「えっ、そんな……迷惑じゃないですか?」

「いえいえー、ちょっとした休憩みたいなものですよー。こっちが感謝したいくらいですー」

「そうです。ポポル君がこう言うのだから、そこまで気を遣わなくて結構ですよ。グローリア君も街に来て早々絡まれて少しは不安でしょうし、一緒に誰かいた方が良いでしょう」

「……それじゃあ、遠慮なく?」

「ありがとうございます。それではポポル君、彼女達を連れていってくれるかな」

「はーい、了解ですー。それではー、ついてきてくれますかー?」

「はいっ!ほら、パール、行くよ……って、あれ?」


 ……………………………ぅにゃふふ


「寝ちゃってる……」

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