第二十話 世界の理と波乱の予感
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「ボクは受け止められないよぉ。紀京ぁ」
「そうだよな、よしよし。手握るか?」
「うん」
「はぁーん、ラブラブぢゃん。紀京さぁ、桃ちゃんの事好きなんだねぇ」
「はい。大好きです」
「うぅ」
んふふ。巫女が照れてる。
清白はまだ呆然とお父さんを見てるな。
「はい、粗茶ですが。サクヤ、お茶いるか?」
コトコト、と人数分の湯のみが卓上に並べられる。
緑茶だ。普通にお茶のいい匂いしてるし湯気がほわほわ漂ってる。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
うん、美味しい。
神様も緑茶飲むんだな。
「わたくしは結構ですわ。お話を進めてくださいまし」
「そお?んじゃお話するか」
ツクヨミも座布団持ってきて座った。
あれぇ?どうしてこうなった???
「清白っちはさぁ、大根は考えた方が良かったんぢゃね?清くて白い大根だよ?」
「すいません」
「んはは!いいけどさぁ。紀京はリアルネームなわけ?いい名前ぢゃん?」
「そうですね、確か父方の祖母が名付け親だったかな?自分でも好きですよ」
「ばあちゃんいいセンス。紀京頭いいよね?古語勉強したのぉ?」
「どうなんですかねぇ?記憶力はいいかもしれません。
お父さんが俳句で話すって巫女から聞いてから昔の俳句暗記して、そこから推測して喋りました。でも、俺は名乗っただけですよ」
「へぇー。いや、それ凄いぢゃん。将来有望!俳句は飽きたからもうしないよぉ。それにしてもツクヨミに似てんね?生き写し!」
「俺としては複雑ですけどね」
「なんだよ、いいだろ?私は偉い神様でランク的に上から数えた方が早いし、色男で有名だぞ」
「ぷっ」
あっ、姉姫様が笑ってる。このふたりの話も聞いてみたいなぁ。どういうふうにくっついたのかな。
ツクヨミは色男か。自分にそっくりな人に対してイケメンとか言えないよ。
「サクヤ酷くない?一応さ、桃ちゃん…現世では巫女か?巫女はうちの親族だし。
ご挨拶も兼ねて引越しもそろそろ終わりそうなんでお呼びしたわけ。そっちも話したかったんでしょ?」
「あの!!!!」
おおう、びっくりした……。清白が叫んだぞ。
「ふつーーーーに話してますけど!本当にいいんですね??俺、タメ語喋りますけど!」
「問題ないぞ。好きにしてくれ。大根ちゃん」
「ツクヨミ、大根はやめろ」
おう、早速だな。さすがスピード特化の清白。
「あと、なんで巫女が桃なんだ?紀京知ってるだろその顔。さっきなんか言ってたな。」
「くっ。二人の秘密だったのに。
巫女は桃の神様なんだ。ここに来る前神様としての名前、言ってただろ?イザナギを助けた桃が神様になったの。そこが由来らしい」
「そんな史実があったような?ギルドの社に桃の木があるのはそれか。はぁ…まったくよぉ。」
「す、すみません。あっ!!!そうだ!イザナギに文句言いたい。お父さん。ここに居ますか?」
「なんとなく言いたい事分かるけどぉ。そのうち会えるよ。ここにはいないんだぁ。ははっ。」
「会えるの?本当ですか?会ったら絶対一言言ってやる。世界の人を助けろとか、そんな事簡単に言うのをやめてもらいたいんだ。そういうのは自由意志があるべきです。俺は好きでやってるけど」
「自由意志か…。私達も同じような事、君たちに言うからなんも言えないなぁ」
「そうなんですか?」
うーむ。どうしたもんか。神様ってもしかしてそういう役目なの?
はっ!……巫女が静かだ。
「巫女?大丈夫か?」
黙り込んでる巫女の顔をのぞき込む。
わー、苦い顔してるなぁ。
「ボクの常識の地盤が崩れたので、ほっといてくださぁい」
「巫女の事放っておけないよ。さすがにここでとんとんは無理だな」
頬をさすって、瞳を見つめる。
「お話して、早く帰って、とんとんしてくれる?」
「わかった」
「お前らが慎むつもりがない事が、俺にもよく分かった。だが敢えて言う。…慎めっ!!!」
「「おもしろっ」」
うーんこのなんとも言えない雰囲気。
悪くない。巫女ファミリー好きだ。
思っていたより和やかでよかったな。
「ではでは、私ツクヨミがご説明しよう。紀京は明日転生するだろ?この世界の基盤はゲームだから、そっくりそのままシステムが残るよ。
スキルもそうだし、ダンジョンとかも残るし殆ど変わらない。
死亡については巫女の言った通りだ。
現実世界のサーバーとか機械類はもう無くなってて、兄上の頭の中に入ってる。
メンテナンスいらないし、エンジニアも必要ない。永久不滅機関だな。
日本をちょっとでも残そうとしたんだけど、もう無駄っぽいからさっさと引っ越してきたっけわけさ。たまには見に行くし残ったところは見守るが」
「あに様、カタカナ行けるんだねぇ」
「ゲーム世界のマスターとその一味だからね。現世の知識は手に入れてるよ。だから兄上はこうなった。 」
なるほど。ギャル文化に触れてハマったのか。最近リバイバルしてるって聞いたことある。
「八百万の神々は自分の意思で、こっちかあっちか選んで好きにしろって形にした。
ゲームの中に来たらそれぞれ好き勝手にキャラになるから、NPCも居なくなるだろうな。エビスとかは店やりそうだけど。
ゲーム内は神界、
今いる海外の人たちはログインできなくなる。
鎖国みたいなもんかな。
ここが神界、基本的には力の強い神様の寄り合い所。現世は君たちがいる所。黄泉の国はイザナミの領域、所謂あの世。
君たちのギルドには、私たちが降りるからね」
お茶をすすったツクヨミと、ピカピカしてるお父さんが微笑む。
「「「えっ!?」」」
まさかギルドの神棚に?嘘でしょ??
「ギルドの神様って象徴なんだろ?親類がいるところがいいしさぁ。黎明期の扉を開くのは裁定者だし。
実質君たちが国造りをして行くわけだ。裁定者ってのはそういう意味だよ」
「取るんじゃなかった。称号」
「み、巫女」
「もう、こうなったらやるしかないだろ。諦めろ」
「だいこ……清白は潔くていいな!清白の借金返済は前のゲームマスターが決めたことだから、私たちは関与できないけど、もう終わるんだろ?」
ツクヨミ、大根と言いかけて清白に睨まれてるし。威厳ってなんだっけ。
「あぁ、あと僅かだ。もう殆ど終わったようなもん。...二人と、みんなのおかげでな。」
「いいね、そういうの。ワクワクするぽよ!」
「兄上、調子が狂うのでおやめ下さい」
「はい」
なるほど、兄弟間の力関係は把握した。
「あとは寿命やその他のリアルはほとんど適用になる。
髪の毛や髭も伸びるし、歳を取ればシワシワになるし、日焼けもするぞ。
見た目、年齢、あとリアルの取得技術はそのまま生かせるから。
強くてニューゲームと言うよりは魂のお引越しだな。
それから、寿命についてだが、君たち転生終わったら神様になるからね。
私たちみたいに、死ねずに働くことになるよ。年は今のまま止まる。社畜戦士誕生って訳だ」
えっ!?神様になる???何それ?
「は?俺も神になるってか?どういうことだよ」
「私たちに接触出来る時点でもう人ではない。これも決定事項だ。
転生者からも神さま募集すると思うよ。社員募集的なね。
だが、気をつけて欲しいことが一つある。現世からゲーム世界に転生する時は魂がうつろい、そして迷う。
体に魂がローディングされるまでにタイムラグがある。巫女みたいに最初から魂と体をわけられていないだろう?
紀京はちょっと特殊かもしれんな。ほとんどこっちに魂がある。
それで、そのローディング中に殺されると危ないことになる」
「危ない事?」
こくり、とツクヨミが頷く。
「イザナミの母上がさぁ…あの人、人の魂が好きだから。隙さえあれば冥界に連れていこうとしてる。
あそこも万年人手不足だし、今回、転生が一気に来るだろ?
書類整理で人が欲しいんだって。
だから、そういう事があれば連れていかれるかも知れない」
要するにスカウトされて、強制的に死ぬってことか?なんか生死が会社就職みたいな話になってるの怖いな。
「冥界に行ったら死ぬんですかね?」
「その辺は曖昧。
転生ローディング中に刺される、魂が体と分かれる、冥界に引っ張られてその後黄泉竈食で死が確定、しなくても一週間で体が死ぬ」
黄泉竈食は、黄泉の国の食べ物を食べることだな。生きたままあの世に行ってもあっちの世界のものを食べると死んじゃうらしい。
「俺たちに起きた場合どうなる?」
「清白、転生し終わらないと神じゃないから、まだ君は人だ。人としてのルールが適用になるから問題ない。
紀京は何故かリアルの姿ってことは…勝手な想像だけど、病で死にかけてここに来ただろ?巫女と同じで魂のほとんどがここにいて、半分ローディング終わってるんだろうな。
だから紀京が刺されたら、確率的には正直わからん。タイムカウントが起きないと思うんだ。
清白は正式な手順だからカウントが適用されるな。
黄泉の国に行った紀京が戻らず、巫女が紀京の命の中に潜ったとして…黄泉の国から引き上げるには、紀京が黄泉竈食をしていない事が最重要事項。
そして、巫女と心の繋がりが切れていないことが必要だ」
ツクヨミはずっと俺を見たまま話してる。
真剣な顔してるんだが。
なぁ。やけに詳しく説明してくるな。
特に俺について。
めーちゃくちゃ嫌な予感してるんだけど。
確定してない未来は話せないんだったよな?
て事は確定事項か、ただ単に懸念してるか。
どちらにしても、俺の転生時になにか起きるのは確実ってことか。
「あ、あに様?もしかして」
「巫女、これ以上は答えられないよ。分かるだろう?」
「…………」
握られた手に力が篭もる。
…巫女が不安そうに瞳を揺らしてる。
「巫女、大丈夫だ。今のゲーム内で俺たちより強い人なんか、居ないだろ?しかも俺は巫女に体力とか神力とか沢山分けてもらってる」
「うん…」
「注意しておけばいい。わざわざ教えるなんて、随分親切なんだな。神様ってのは」
「清白が言う通りだよ。備えておこう」
そう言うしか、ないんだよな。
清白と眼を合わせてお互い苦い顔になる。
その様子を見て、アマテラスの眉毛がへにゃりとさがる。
「私たちは紀京の振る舞いを、見てきたんだ。巫女を通して何もかも。
ギャル語すっ飛ぶくらい紀京が好きだよ。紀京の清い心はとてもいい。 巫女のことを大切にしてくれているだろう?
娘を大切にしてくれる婿殿を同じように大切にしてやりたいのだ」
お父さんが眉毛を下げたまま微笑む。光ってるから顔かたちは見えないけどな。
巫女の家族だな、って思うよ。暖かい心を持った神様だ。
「清いかどうかはわからんけど、巫女が一番大切なのはそうです。大好きだし。例え黄泉の国に行ったって、巫女との繋がりはなくならない自信がある」
満足気に頷くお父さんとツクヨミ。
これは二人の忠告だな。俺のためにここに呼んでくれたんだ。
「あとはそうだな、清白も気をつけろ。こっちからは以上。なんか質問あるか?」
「俺に対してだけ雑だな」
「ちっがーうの!まだ言えないの!」
逆に俺のことが確定事項って言ってますけど。大丈夫か?
はーあ、また一波乱か。いや、これからずっとこうなのかな?
巫女が一緒ならなんでもいいけどさ。
平和になるのはいつなんだ?
「あに様、ひとつ聞きたいことがあるの」
「おん?なんだ?」
「エンとヒョウの奥様たちに聞いてくれって言われたんだけど。子供は産めるのか?だって」
一斉にお茶を吹き出す、俺と巫女以外の人と神様。姉姫様も蹲ってるし……。
何事??
「その反応なんなのぉ?エンとヒョウも同じ感じだったんだけど、紀京分かる?」
「子供を産めるかどうか?人ならそうなんじゃないか?あ、でも新しい生命って事か?システム的にどうなんです?お父さん」
お父さんとツクヨミが顔を見合せてる。
「紀京、突っ込むのはそっちなの?恋愛した事ないのか?」
「巫女がはじめてですけど何でですか?」
「キスの先って知ってる?」
またその質問?さっきの質問と、なんの関係があるんだ?
「それ獄炎さんにも言われたけど、なんなんです?子供となんの関係があるんですか?
くっつくだけでもこんなに幸せなのに、必要なのかなと思ってました。な?巫女」
「そうだねぇ。とんとん好きだし。ボクも幸せだから、知らなくてもいいかなぁ」
そうだよな。二人でニコニコ微笑み合う。
「すっ、清白!?嘘だよね?巫女はわかるけど、紀京のこれはマジなの?」
「マジだ。本当に知らないしイチャイチャしてはいるがキスまでだ。しかも接触のみの方」
「「…………」」
ええい、なんなんだっ!皆その顔するな。
「紀京殿はイザナミ様に気に入られてしまいますわね、お気をつけあそばせ」
「へ?は、はい」
姉姫様が喋ってくれた。
イザナミに会うのこりゃ確定かぁ。
うわーやだな〜!!!はあぁ……。
「子供は出来ると思うよ。ふつうのやり方でそうなるし、出産もあるよ。そう伝えてくれ」
「はぁい。紀京、子供ってどうやるのかなぁ?欲しい?」
「うーん。未だそんなふうに思ったことないなぁ。俺自身成人するの明日だし。
子供はコウノトリっていう鳥が運んでくるんだって聞いたぞ。どうやって頼むのかは知らないけど、当分先でいいだろ?」
まさか古代の神様みたいにお互い勝手に産める訳じゃなさそうだし。
どういうシステムなのかな。でも、俺はまだ巫女と二人でいたいな。
「そだねぇ。ボクも紀京独り占めしたいからまだいい。」
「そ、そうかぁ…嬉しいな。早く帰ってとんとんしよう」
「うん!」
「清白、あとは頼んだ」
ツクヨミが眉間を抑えて、呻いてる。そんなに変なこと言ったか?
「とと様は胸が痛い。娘夫婦が清すぎる」
「頼まれたくねぇ!!どいつもこいつも俺の傷えぐりやがって!!デスソース塗られた気分だ。カーッ!!!」
あはは、と笑いが落ちる。
遂に調味料がデスソースになったか。
すごい辛いらしいな。食べたことないけど。
でもさ、こうやって俺たちはいつも笑顔で終わるんだ。これでいいんだよ。
明日のことは明日考えよう。どうにかなるさ。
「んじゃ帰るか。お父さん、ツクヨミ兄さん、姉姫様、またな」
「またねぇ」
「……はぁ」
手をフリフリされて、来た道をもどる。
さて、ついに転生だ!
帰ったら作戦会議かな?
がんばるぞーい。
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ツクヨミside
「兄上、どう転びますかね」
「紀京を見ていると、上手く運んで貰えるように祈るしかあるまい。良い子だったな本当に。
だからこそ巫女が心配だ。二人を見ていると涙が出そうだった」
「なにか手助けはできないのですか?あのように清い子達が…わたくしはこの先を見たくありません」
サクヤが閉じた瞼からハラハラと涙を零す。細い肩に手を置き、静かに撫でる。
君が泣くのは久しぶりに見たな。
私だって泣きそうだ。
今まで苦労して、苦痛に耐えて生きてきた彼が、どうしてさらなる試練を迎えねばならないのか。
神として生きていても助けられないものがある。今回はただ見守るしかできない。
「祈ろう。我々が出来る事はそれだけだ。心から幸せを祈るしかない。我々の本分だからな」
「はい……」
「父神としても私が祈りを捧げよう。
紀京が、巫女が、周りの者達が試練に立ち向かえるように」
瞳を閉じ、紀京の姿を瞼にうかべる。
私の生き写しの姿、その清い心。
巫女ばかり見ていたな。
ずっとそのまま、ずっと居られればいいのに……。
ただその若人の幸せを心から祈ろう。
それしか、出来ないから。
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