第十八話 ゲームマスターへのアクセス


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「アタイは炎に華でほのか!獄炎の妻だ!よろぴこ!」

「んもぉ!炎華は変な言葉使わないの!巫女ちゃん!初めまして。殺氷の妻、貝が着く方の櫻子です。いつも夫がお世話になっておりますぅ~」

「は、はい!」


 現在地、ギルドの社なう。

 みんなお風呂を済ませて集合したんだが、獄炎さんと殺氷さんの奥さんがやってきた。


 獄炎さんの奥さんはキャミソールに短パン。その、だいぶグラマラスな方だ。腰が細い方の。背が高い。

 違うぞ!俺は…巫女が好きだ。


俺は何言ってんだ…マジでわからん。


 炎華さんは頭のてっぺんでお団子にして、赤い琥珀の簪をつけてる。

 髪の毛は真っ赤。瞳も真っ赤。

 つり目で大きな口を開けて快活に笑ってる。

俺の周りはキャラメイク運ある人しか居ないのか?


 対して殺氷さんの奥さんは浴衣姿。雪の結晶の模様が施されてるんだが、キラキラしてる。

ラメって言うんだっけ?

 殺氷さんとお揃いのシルバーの髪の毛で、長い髪を三つ編みにして脇に流してる。

 目が青い。優しげな表情だけど、この人もつり目。


二組とも色がほとんどお揃いだな。

染色してる可能性もあるけど。

 キャラも色も濃いめの人達だ。目がチカチカする。


 


「炎華、デカい声出すなよ。巫女がびっくりしてるだろ」

「櫻子、その浴衣は止めなさいと言ったのに…」


「うっせーな!妻放置でこんな可愛い子といたんだろ!なんでもっと早く連れてきてくんねーんだよ!アタイも愛でてぇ!」

「やめろ。巫女も奥さんなんだから愛でるな」


「ラメがダメなんですか~?それを言う前に褒めてくれないのかしら~?」

「き、綺麗ですよ、櫻子。泊まるのに困るでしょうそれは。布団につくじゃないですか」


 二人とも冷や汗たらたらで奥さんを諌めてる。なるほど、そう言う力関係か。




「お前ら全員うるさい。ったく。説明するんだから静かにしろ」

「スズは久しぶりに会うのにつれねぇなぁ」

「夫とキャラ被るから静かにしててくれ」

「うはは!メタい!」

「巫女ちゃん、もっとお声が聞きたいわ~、お姉さんとお話しましょう?」


「は、はぇ、あの」


 俺の後ろで小さくなってる巫女。ううん、かわいい。




「櫻子さん勘弁してください。巫女はあんまり人馴れしてないんですよ」


「あらっ!紀京くん。前からそうだったけど男前になったわねぇ!」

「あ!紀京?!髪の色どうした!?おめーも妻帯者か?おめっとさん!」


「お二人とも、ありがとうございます。髪の色はまた後で説明しますから。とりあえず座って下さい」



 はーい!と元気な返事が返って来る。

 んふふ、いいな。二人の奥さんのお陰で変な雰囲気が吹き飛んだな。

 ボス周回は毎回最後の一撃を交代でやって、染色落ちるから、途中からめんどくさくてそのままにしてました、はい。


「紀京!ぼ、ボクも挨拶する。ボクだって妻だし!」

「おん?大丈夫か?」

「うん!」



 巫女が浴衣の裾を捌き、正座に座る。

 ふわり、と長い髪が床に広がる。

 何となく横に座ってみたけど、挨拶って何するんだろう?



 

「お初にお目にかかります。巫女と申します。先ごろ紀京の妻となりました。

 今後とも、夫共々よろしくお願い申し上げます」


 三指を着いてぺこりと頭を下げる。

 俺も何となく倣ってぺこり。相変わらず綺麗な所作だ。惚れ惚れする。




「「貞淑な妻」」

「お前らも見習え」

「本当にそうして欲しいですね」


 炎華さんも櫻子さんもびっくりしてるな。俺もびっくりだが。

 巫女が顔を上げて、俺の顔を見上げてくる。


「巫女、足崩しなよ。痛くなるからさ」

「うん。ご挨拶の本読んだの。大丈夫だった?」

「可愛いって言ったらおかしいかな?とっても綺麗だったよ。惚れ惚れした」

「そう?それなら良かった」

巫女の手を握り、微笑み合う。


「アンタも見習え」

「まぁ~紀京くん!スパダリだわ~!

殺氷も見習ってくださいね」

「「…………」」


 な、なんだよ。そんな目で見ないでください。




「チッ。そこらじゅうでイチャイチャしてんじゃねぇ!さっさと話すぞ。巫女、任せてもらっていいか?紀京の話も含めて」

「うん、お願いします」

「すっかり説明キャラッスね、清白氏」


 美海さんが呟くと、清白につつかれて。和やかな感じだ。

 このままの雰囲気で話が進めばいいが。




「まずはこの世界の話からだ。リアルの日本がどうなってるか、なぜそうなったかはもう聞いてるんだろ?」

「聞いた」

「ええ、お聞きしたわ」


 奥さんたちも真剣な顔になったな。


「で、だ。巫女が最後の力で転生をするよう仕掛けを作って、俺達の身辺でそれが済んだのは巫女だけだ。

 見た目はリアルと同一になる。

 明日の朝リアルの紀京が亡くなる。俺たちの周りでは二人目の転生が起こる。

 これからゲーム内で徐々にリアル化が広まるだろう。

 俺と紀京、巫女が所持している称号を使ってみて上手く行けばだが…転生の事についてはこのゲーム内の人達に知らせなければならない。

 もう既に転生して来ているやつもいるだろ。皇も、過去に凍結されたやつも復活する。その事も教えないとな」


「そうね。私たちは心の整理がすんでいるけれど、混乱が予想されるわね。」

「自警団を動かす手筈は整ってるぜ。炎華も手伝ってくれるだろ」


「あぁ。まぁ一応自警団の長の妻で、トップギルドのサブマスですし?仕方ないから手伝ってやるよ。これから先も妻でいるからな!」


「あらっ、炎華ちゃん!そうなったの?」

「櫻子もだろ。いちいちうるせぇ。先に進めろ」


 


 へぇ!そうなのか。

 どういう話をしたかは分からないけど、炎華さんは真っ赤だな。

殺氷さんは苦い顔してるし、獄炎さんは無になってる。大丈夫か?


 櫻子さんはニコニコしてるけど、全然わかんない。

 うん、関与しないでおこう。夫婦間はそれぞれの問題だ。




「とりあえず転生についてゲームの中全体に知らせる、自警団を動かして警戒。乱闘騒ぎが起こるかどうかはわからんが、何か起きたら鎮圧出来るようにしておいた方がいいな」


 そうだなぁ。その辺は起きてみないと分からないもんなぁ。


「紀京の転生によって、俺たちがどう変化するのかが分かるだろう。

 巫女のスキルはそのまま所持してる状態だが、人間はどうなるかわからん。現人神だったからな。

 スキルがなくなった場合の身の振り方も考えておいた方がいいだろう。そして、一番の問題が皇だ」


 奥様達が眉を顰める。

 巫女はしょんぼりしてしまった。

握ったままの手のひらを撫でて、肩を抱き寄せる。

「巫女」

「ん……」


 


「イチャつくなとは言えんな。俺にも責任がある。

 凍結が解除された奴らが徒党を組んでいると俺のフレンドから報告があった。

 皇はログインしてないが、復活しているかもしれない。

 あいつが住んでいたのは東北地方だが、東京にもきていた。どっちにいるかはわからないからいつ転生するか不明だし、巫女の身辺の警備は俺たちでやりたい」


「そうだな。自警団もそれぞれ師長がいる。合間を見てこっちに来る。何かあればすぐ連絡しろ。」


「転移結界をここに開いておきましょう。

巫女に頂いた薬を持ち歩くのを忘れずに。

 すぐ連絡が着くように、避難信号を用意しました。何かあれば全員がその場に召喚されるようになっていますから」


 殺氷さんが御札を全員に手渡してくる。

 ふーむ、こう言うのもできるんだな。流通してないと言うことは殺氷さんのギルドで開発したのかな。



 

 殺氷さんから札を受け取った巫女は難しい顔だ。

握りあった手に力が入り、それを握り返す。

 巫女は俺が守る。そのために新スキルをカンストしておいたんだ。

絶対、大丈夫。


「巫女、リアルはどんな感じになってる?」

「もう、北方はほとんど崩壊したよ。関東の北まではそれが来てるね。

九州と、関西、四国は元々神様たちがいる場所だからもしかしたら残るかもしれないけど、関東は明日の夜まで。

 紀京の方が先に転生して、追いかけるようにして沢山の命が押し寄せてくると思う」


「オイラは東京ッスから、紀京氏の後かな?清白氏は?」

「俺も東京だ」

「私達も東京です。警察庁に留置されて居ますから。警察官が獄死とは皮肉なものですね」


「あぁ、俺の家族は実家に行ってるからあいつらはもしかしたら生き残るかもしれねぇな」


 遠い目をする獄炎さんに、炎華さんが切なそうな顔してる。

そうか、炎華さんは、獄炎さんが好きなんだな。



 

「私は東北にいた筈なのだけれどまだなのかしら~?」

「櫻子さんは……今、長野の病院に移送されてるよ。炎華さんは九州だけど、守りがない地方だから近いうちに転生するねぇ」


「あら~巫女ちゃん、すごいわ!あっちが見えるのねぇ。長野はどこかしら?ヒョウ」

「ああもう!長野県は北関東です!」

「あら〜わかんないわ。…進めてちょうだい」

「アタイも先を聞きたい」


「調子が狂うな。まぁ何だ、深く考えることは無い。ログアウトボタンが消えれば転生確定っぽいからな。そうだろ?」

「おー。オムライス食べてる時にはもうなかったぞ」

「そういうことだ。とりあえずは紀京の転生待ち。皇に関してはしばらく警戒して外に出なければいいか。ここは巫女の結界があるしな」


「結界すごいわよね~。こんなの初めて見たわ~」

「アタイもここまで堅牢なのは見たことがねぇ。巫女、すげえな?」


「はわわ!と、とんでもございません」

「今話せるのはそん位か。さて、裁定者に切り替えろ」


 


 清白に言われて、称号を切り替える。

 でも、どうすればいいんだろうな?これ。


「やり方わからんなぁ」

「俺もほうぼう調べたが、わからん。最初に取得した巫女が代表的なものなんじゃないかと思ってるが。巫女、どうなんだ?」


 ステータス画面を開いて、巫女が眺めてるのを覗き込む。んん?????なんか説明の文字が増えてきたぞ。


「うわっ!とと様!」

 

 巫女がしがみついてくる。

 称号の説明欄に、文字が打ち込まれてる。


意富加牟豆美命オオカムズミノミコトよい、吾が元に来たまへ。侍りし月と共に語らひせばや。一刻も疾くこなたに来。だってよ」

「なんだそりゃ?」


「巫女にお父さんが早くこっち来い、話しようって。侍りし月って、月読命のことかな?

ゲームマスターは天照大神に変わったのか?」


「うん、そうみたい、月読命はとと様の兄弟だからずっと一緒に居るんだぁ。

 ゲームマスターに会うなら、とと様にやっぱり会わなきゃなんだねぇ」

 

巫女が眉毛を下げてる。よっぽど嫌なんだな。


「とと様に会いに行く方法は、わかるよぉ。紀京、スズ、俳句は得意?」

「うわ、それか!ついに来たのか!正直自信ない」

「紀京に自信が無いものが俺に出来ると思うか?」


 


 うーん。暗記は得意だから組み合わせて何とかするしかないか。

 古典俳句は一応全部暗記してきたぞ。

意味は多分わかる。多分。


「紀京は大丈夫な気がするけど。やって見るしかないね。

エン、ヒョウ、海、櫻子さん、炎華さん。ボク達はゲームマスターになった天照大神に会いに行くはめになりました。魂が抜けでるから、体は眠った状態になる。もどるまで、お願いします」

 全員がこくり、と頷く。


「皆は何か聞きたいことあるかなぁ?」

「あっ、アタイ聞きたいことがあるんだ」

「私もあるわぁ」



 

 奥様方が巫女を手招きして、こしょこしょと何か話してる。

 獄炎さんと殺氷さんが真っ赤になってるし。なんだろ?

 巫女がはてなマークを浮かべながら戻ってくる。


「何を聞くって?」

「よくわかんないけど、内緒にしてくれって言われたの」

「なんとなく俺は察した。さっさと行くぞ。」

 

 えぇ?なんだよぅ。俺だけ除け者か?

 でも後で聞けるならいいか。




 あー、行きたいような行きたくないような。いや、夫として妻の父には挨拶をしなければいかんな。よし、腹をくくろう。


「巫女、行こうか。俺が巫女を守るからな」

「ボクも紀京を守る!」

「おい。除け者にすんなし」

「余裕があったら清白も守るからな」

「うっせぇ!俺は1人寂しく自分で身を守るから!二人で勝手にやってろっ!」



 くすくす、笑いが落ちる。

 うん、どうにかなる。


 巫女が手を差し伸べて、目を合わせてくる。

 こうか?

 巫女の手のひらに俺の手を重ね、その上に溜息をつきながら清白が更に手を重ねる。

 無言の意思疎通してしまった。すまんて。


 


「はじめるよぉ!吾が血盟により、天照大神のお傍へ呼びたまへ。名を意富加牟豆美命おおかむづみのみこと、紀京、清白が参ります」


 巫女が言葉を言い終わる瞬間、とんでもない勢いで目の前が真っ白になる。

ら、乱暴だなあ!!!!

 ギュンギュン引っ張られて、光の中で意識を手放した。




 

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