第十一話 キスを教えて
━━━━━━
「公開プロポーズした紀京の奢りってことでいいよな?俺一文無しだし」
みんなで揃ってやってきたオムライス屋さん……。いただきますの後、清白が肘でつついてきた。イテテ。
「プロポーズしたの俺じゃなかったと思うんだけど。別にいいけどさ」
そもそもそのつもりで資金残してたからな。清白も養ってやろう。
「同じようなもんだ。嫁を養うんだろ?結婚もするんだし。はーやれやれ。せいぜい幸せになれよ。俺の古傷とともに」
「清白氏、普通におめでとうって言えばいいのに。天邪鬼ッスね」
「美海さんに言われると認めるしかなくなる」
「オイラは結婚式の時に言いたいからまだ言わないッスよ!
紀京氏、巫女の事いつから好きなんッスか?」
完全に話題がそっち系に行ってる。どうしたらいいんだ!?
オムライスの味がわからん。
「美海さん、おかしいんだ。
俺は出会って一日目で恋に落ちて、さっき自覚して、俺の事情を踏まえて巫女とくっつく予定じゃなかった。二日目で結婚決めるとか、俺の決心どこいった?」
「なんでよぉ。いいじゃん。予定が覆ったならよかったなぁ♪」
清白の反対側で、くっつきなからオムライス食べてる巫女がニコニコしてる。
ポニーテールを解いていつものふわふわ髪の毛だ。
「俺の嫁可愛い」
「紀京氏、手のひらくるっくるしてますが情緒大丈夫ッスか?」
「うぐぅ」
「紀京、あーんする?」
「うぐぐ、そ、そういうのはお家でしよう」
「そうなの?わかったぁ」
オムライスをつつきながら呻く自分と、巫女のご機嫌な調子の温度差が酷い。
あーんはしたいけど二人の時がいいです。
巫女はオムライスでもテンションが上がってるからめちゃくちゃご機嫌だ。
「おい待て、二日?紀京二日っつったか?」
「え?二日ですよ。北原天満宮の初回潜ったのが昨日で、そこで巫女に……」
「いや、ゲーム内ではそうなのか?お前らの反応からして、そう言われりゃ納得するな」
「だが二日はおかしい」
「おかしいですね」
マスター三人が眉を顰める。
なんだなんだ?
「どうなっているんでしょうか。
ゲームとリアルはリンクしているはずでしたが。
私たちが巫女を調べ出してからログインしなくなったのは、約一週間でした。皇のことがあったのは今朝のことですし、そこは一致しているのに」
「えっ?な、何ですかそれ?どういう事?」
「それもおかしい。元マスターの凍結があってから俺は五日経ってるぞ。
凍結後に俺達は恋愛関係を解消したんだ。リアルを整理してから清白としてログインして来たんだぞ。
凍結前の反省なしメッセージも五日前だ。だから遅くなったって言ったろ?美海さんは?いつ知った?」
「オイラは昨日からログインしてたッス。皇氏の事件があったのは昨日の話では?そこからギルメンの愚痴合戦が始まって、清白氏が来るまではほとんど脱退してたッスよ」
えぇ?何が起きてるんだこれ?
時系列がめちゃくちゃじゃないか。ログイン自体が一週間経ってる獄炎さんと殺氷さん、五日だという清白、元マスターの事件は今朝のはずなのに昨日だという美海さん。俺達にはたった二日間の出来事なのに。
確かに二日間の出来事にしては濃かったけどさ。
「うーん。現実とここが、ええと、繋がり始めていて、時空が歪んでるというか。うーん、うーん。
実質それぞれの体感した時間が正解で、みんな間違ってるって感じ。説明難しいなあ。」
「巫女は把握してるのか?」
「一応ねぇ。ただ、説明が難しいのと、まだ言えないからなぁ。時間軸がおかしいって、信じるに足る証拠としてはあれ見て」
巫女が窓の外の桜をゆびさす。
桜がどうした?ヒラヒラと舞い散る花びら。
ん……あれ?桜っ!?
「あっ!!!季節変わってない!!!」
違和感の正体はこれだ!!
巫女と会った翌日、季節が変わるはずだった。今はひまわりが咲いているはずだ。
…なんで?
「ねっ?」
「いや流石にわからんて」
「んふふ。旦那さんはそのうちわかるよぉ」
「だ、旦那さんはまだちょっと、早いのでは?」
「なんで?結婚するでしょ?紀京は嘘つかないでしょ?」
「う、嘘なんかじゃないよ。結婚はしたい」
「んふふ。ボクの紀京になるんだもんねぇ」
「もう巫女のだよ。巫女も俺のだ」
「そ、そうなの?えへへぇ……」
ううん、このホワホワたまらん、巫女が照れるのが本当にいい。癖になってきたな。
「あ゛ーーーッ!!クソっ。座る場所間違えた!
粗塩に黒胡椒と一味唐辛子が混じった気がする。古傷が痛い!!」
「お察しするッス。その調味料は美味しそうッスね?」
「お前ら呑気すぎるだろ。でもこのくれぇでいいのかもな。真面目に考えるのもバカバカしい」
「きちんと最後まで話していないので私はモヤモヤしています。推測して結論まで出してるんですが」
きそれぞれに複雑な物が浮かんでくる。
俺も複雑だよ。いったい何が起きてるんだ。
全てを把握しているのは巫女だけって事か。
「心配しなくてもいいよぉ。でも、みんなもログアウトは…あ、ごめん。もう始まってる」
システムを見て巫女が苦笑いになった。
「何が始まったんだ?」
「ログアウトボタン押せなくなってると思う。どう?」
全員でシステムを開く。
あれっ?ボタン自体ないんだが?
えっどこいった???
「ログアウト押せねぇな」
「私たちはロックされている可能性がありますよ。清白は?」
「押せないな」
「ありゃ、オイラも押せないッス。明日から出張なんスけどおおぉ」
清白が青ざめ、美海さんが頭を抱える。
…みんなはボタンあるの?俺ないんだけど。
「巫女、俺のは?」
「うん、内緒」
「わかった」
うーん。なにが起きてるんだ……???
「あのね、すべてが解るのはまだ時間が掛かります。お仕事ある人はその問題自体が無くなるから、安心して欲しいなぁ。
とりあえず目下の悩みはスズの背負った借金だけだよ。ちゃっちゃと返済して早く結婚式したいからねぇ」
「んぐ。そ、そうだな」
問題自体が無くなる。リアルでなんか起きるのかな?俺はもう起きてる?
みんなに起きてるなら病気関連では無いのか。うーん?
「俺の古傷以下略」
「略すなよ清白」
「巫女がそう言うなら、仕事のことは考えるの辞めるッス。どうにでもなあれ☆お二人はどちらで式を挙げるんッスか?」
美海さんの順応の早さは何なんだ???
諦めがいいってことなのかな。
普通に話題が戻ってきたの怖いんだが。
「選択肢があるの?ボクそれも知らないなぁ」
「ありますよ、私は沖縄で浜辺の結婚式でした」
「ヒョウ結婚してたの!?」
「はい。獄炎もしていますよ」
「おう。リアルとは繋がってねえがな。俺は東京の神社で神前式やったぜ」
「美海さんもしてたよな?」
あっ、そうだよな?たしかそう言っていた気がする。
「イージーに離婚できるッスよ。ここは。フッ」
「なんだ、仲間か。俺自身ゲームで結婚云々はしてないけど」
「そッスね。ただ、オイラもリアルとは繋がってません。惚れた腫れたの話では無かったので、そこまでダメージはないッス」
「くっ…俺だけか」
清白、ドンマイ。
「海はどこでしたの?」
「オイラは広島です。厳島神社ッスよ。海上の式もなかなかロマンがあるッス」
「美海だもんねぇ。でも、縁結びの神様に誓ったのに離婚したのぉ?」
「巫女。それはそれ、これはこれッス。現実は厳しいんスよ」
「ボク離婚したくない」
「まだ結婚してないだろ?俺だって嫌だよ」
「そだよねぇ。んふふ」
うーん、可愛い。とにかく可愛い。
頬に落ちてきた髪を耳にかける。
すまん、勝手に手が。
巫女がちょっとびっくりして、ほんのり頬をピンクにする。ヤバいな、巫女を触り倒したい。
「さっさと結婚すればいいだろ。散々イチャつきやがって」
「そうッスねぇ。そんだけラブラブなのに夫婦じゃないのもおかしいッス」
「そ、そうなのか?」
なるほど。これがラブラブか。
なにぶん初めてなもので。
「先に籍だけ入れようか?巫女が嫌じゃなければ」
「そういう事もできるの?」
「うん、まぁ。式はいつでも何回でもできるから」
「そうなの!?じゃあそうしよ!どうすればいいのぉ?」
「あんだよ、お祝いしてやりてぇのにお預けか?」
「まぁまぁ。式は落ち着いてからの方がいいでしょう。夫婦になるには特定ダンジョンの報酬である指輪を交わせばいいんですよ。見届け人が複数いれば契約がなされます」
「指輪かぁ。旦那が一人で潜るんでしたよねぇ…死神の館に」
「紀京は悪霊と相性いいじゃねえか。そもそもあそこのモブはそういうもんじゃねえだろ?男を見せろ!」
獄炎さんが背中を叩く。イテテ。
うん、お陰で覚悟は決まった。
「おし、行くか」
「えっ!?今から行くの?ボク一緒に潜れないトコ?」
「ん、そうなんだ。待っててくれよな」
「………………」
巫女がしゅんとしてる。本当は置いていきたくないけど、これをしないと結婚できないしなぁ。
「巫女は留守番だ。出口で待ってりゃいい。どうせログアウト出来ねぇんだからみんなで着いてってやるよ。な?」
「オイラもログアウト出来ないなら付き合うッス。熱烈なキッスを拝見したいッスね」
美海さんがニヤリ、と笑う。あれー。式の時じゃないのか?き、キスは。
「あの、籍入れるだけでもするんでしたっけ?」
「結婚契約は指輪の交換とキスが条件。立会人は必要だから諦めろ。俺の古傷を存分に抉ってくれ」
「ぬ、ぬう……」
なんということでしょう。俺たち超絶スピード婚の上にもう手出しするのか?良いのかな。清白がなんとも言えない顔してる。
「キスってなぁに?」
「おっふ。ええと、ええと、なんと言えば良いんだ?せ、接吻?」
「ああ!わかったぁ!した事ないから紀京が潜ってる間に、みんなにやり方聞いておくねぇ」
一斉に目をそらす皆さん。
……頼みましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます