第八話 新ギルド設立とプロポーズ(仮)

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 結局ギルドの社は、俺の店がある蔵屋敷街の近くに建てることになった。これで清白の同居も確定だな。

 街を出てすぐそばの草原に、桃の木を見つけた。何ともいい場所を見つけられたもんだ。

 巫女の由来があるって聞いてから……俺の中では桃が特別なものになった。



 獄炎さんが初期に使っていたギルド用の建物を中古で譲り受け、小さな箱から取り出せば直ぐにぽん、と社を建てられる。

 却って中古で助かったな。新築だと時間かかるんだ。

 少し離れたところから、笑顔で獄炎さんと殺氷さんが見守ってる。あの辺まで結界を貼ることになるから目印になってくれてる。気が利いて優しくてイケメンだ。羨ましい…。


 小さな社は10畳二間の大きさで縁側付き。ツヤツヤの朱塗りで、権現造という形の建物。

 本殿の前に拝殿がある感じのエの字型に部屋が作られている。

 日光東照宮とかがこの造りだったな。


 奥の本殿をぐるっと取り囲んだ縁側から桃の木が眺められる素敵な社だ。

 前の城みたいな建物より俺はこっちの方が好きだな。

 社と言うだけあって後で神様が降りてくるけど、誰が来るのかは分からないんだ。

 もう巫女が居るから来なかったりして…ハハッ。

 入口に狛犬を置いたりもできる。楽しみの一つだな。のちのちになるけど。


 


「あの、本当にボクが書いていいのぉ?」


 巫女が筆を持って、社の前の立て札を撫でてる。立て札は看板のようなもので、ギルド名を書くと結界が張られて侵入者も防げるしマップに表示される。


「お前が決めた名前だからな」


 清白が言い、美海さんと頷き、巫女を見つめる。



「わかった。んじゃ書くよぉ!紀京、御札と同じ書き方するからよぉく見ておいてね」

「おっ!了解」


 そういやまだちゃんと習ってなかったな。

 見てもスキルに追加されるはずだからしっかり見ておこう。




 深呼吸した巫女が大きく柏手を打つ。

 パァン!と綺麗な破裂音が広がり、ふわりと冷たい風が頬を撫でた。

 


「柏手でここまでの結界ッスか」

「美海さん、ダンジョンでは目玉が飛び出るぞ。覚悟しておいた方がいい」


「はぁ…もう飛びそうッス」


 巫女は筆を持ったまま目を閉じて、集中している。




「なぁ、御札ってなんちゃってスキルじゃなかったか?」

「俺が売ってる札、作り方が違うって言われたぞ。巫女は本職だから、もしかしたら強いのが作れるのかもしれないな」


「俺も見ておく」

「オイラも」


 お店はそろそろ臨時休業の看板立てとこうかな。しばらくかかりっきりになるだろうし。お札の作成も当分練習になるだろうしな。今あるやつは処分しておかないと。


 みんなで注視していると、巫女が持った筆が光り出す。赤い光─俺の店に張った結界の回路図と同じ色だ。

 キラキラ輝いて、その光を筆に染めていく。


 目を開いた巫女が筆を立て札に滑らせる。

 少しずつ書かれていく文字から回路図の線が広がり、ギルドの社にまで繋がって複雑に絡まっていく。


 書きながら巫女が微笑み始める。


「ふふ…」




「神様みたいッス」

「正しくな」

「巫女…キレイだな」




 す、と筆を離すとビシッと回路図が整い、ボックス型に社を包んで赤い光が消えていく。

 すんごい結界だ。立て札にまで効能がありそう。


「うむ、会心の出来です!どぉ?」

「「「すごい」」」


 思わずハモリながら立て札を見る。

 達筆。めちゃくちゃきれいな字。

 殺氷さんが走ってきた。後からのんびり獄炎さんが歩いてくる。


 


「い、今のは!?」

「すげぇ結界じゃねえか!どうなってんだ」


 鼻の下を擦りながら巫女が得意げな顔になった。


「ふふん。スキルで書く札は書き方が間違ってるんだよぉ。正しくはこう。神力を込めながら書くの。札用の文字はなんでもいいけど本来は古文かなぁ」


「はぁ、言葉になりませんね。うちのギルドより強い結界だ。しかも、自然治癒、状態異常回復が着いていますよ。ダンジョン内にある、生命の泉のような効果があります!」


「ヤベーな。俺もこっちに入り浸ってやろ」

「私もそうしたいです。入館証下さい」

「はいはい」




 ついでに御札のスキルも確認。いつも通りの???表記だ。うん、よしこれも後回し。


 システムをポチポチして、入館証を取り出す。木の札で書かれたそれを二人に手渡した。

 これで中にいつでも入れるはずだ。

 ギルドメンバー以外は基本的に入れないからな。


「うし、次はサブマス任命」

「ほいほい、しょーにん」



《清白 が あなたをサブマスターに任命しました》とメッセージ画面がポップして、承認を押す。

 頭の上のギルド名が変わり、闇の三貴士の横に陰陽インヤンマークが表示される。

 マスターの清白は白と黒、俺は黒の勾玉のみ表示だ。ギルド名の文字も黒にしたみたいだな。黒だらけ。



「紀京、ギルドの印黒いね!」

「そう言やそうだな?ふふん」

「紀京、交換しようぜ」


「ヤダよ!三日は変えられないだろ!!!三日後もやだけどなっ!真っ黒は俺もの!」

「くっ…」


「マスター押し付け合わないでくださいッス。これでギルド仲間になりましたね。皆さん、よろしくッス!」


 美海さんの頭の上にもギルド名が着いた。


「ボクもおそろい!よろしくねぇ」


 ぴょんぴょんしながら巫女が手を繋いでくる。巫女の上にもギルド名が着いた。

 全部の文字が真っ黒だな。巫女が一番まっくろくろすけだ。


「ほんじゃ寄附しておくぜー」

「私もしますね」

「ちょ、二人とも!いらないって!」


「「四の五の言うな」」

「くっ…!」




 獄炎さんと殺氷さんが立て札に触れて、寄付金を入れてくれる。巫女が言った説教のセリフ言われて清白はタジタジだ。

 

「多い。ゼロが多い」

「オイラも入れるッス」

「美海さん、程々にしてくれ」


 金額を見ないふりして、俺も入れとこ。

 ポチポチして、全財産の半分ほどを入金する。ダンジョン報酬でまた足せばいいな。

 巫女と清白の生活費もあるし、ちゃんと取っておかないと。




「ねぇ、お金を寄附できるの?」

「ん?そうだよ。ギルドメンバーはギルドの運営の為に、余ったお金を定期的に寄付するんだ。

 社を大きくしたり、倉庫を作ったりできる。今回は借金返済の為だけどな」

「ほほぉ?」


 巫女が立て札に触れる。

 清白がマスター二人に怒ってるから、今なら隙ありだな。巫女のやりそうなことはわかるぞ。清白の反応が楽しみだ。

「出来たぁ!!!」

 



「ちょっ!!!巫女ーーー!!!!!おま、お前なんて金額入れてんだ!!バカっ!!返すからっ!!!」

「ゼロがかなり増えたッスね?」

「俺は何も見てない。そして期待通りの反応」

「全部ぶちこんだからぁ」



「やめろっ!紀京!なんで止めないんだ!お前も入れすぎ!!」

「巫女がいいならいいんだ。俺はそういう方針だから。巫女は俺が養う」

「紀京、お夕飯オムライス食べたいな!」


「おお、そうしよう!エビフライもつけような」

「エビフライ?美味しそうな名前だね…」

「美味しいぞ。んふふ」

「だろ…」


 ガックリ項垂れた清白の周りでみんな吹き出してしまった。


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「エン!当たりが浅い!刃がくい込んだら引き抜かないで押し込んで!」

「応!」


 ただいま北原天満宮内部、最下層なう。

 刃がキンキン音を立てて戦闘中。

 俺は手に持った扇でヒラヒラしながら、みんながガンガン減らす体力回復に追われている。


 ひいひい言う訳には行かないが、そろそろ神力回復のお薬中毒になりそう。レベル上がったら神力に振らないとダメだな。

 モブ湧きは固くないが攻撃力が高い。

 体力ゲージが減ってないのは巫女だけだ。



 

「ヒョウ、タイミングずらして!エンが一撃入れてから、ノックバックが戻る一瞬前に氷漬けね!」

「はい!」


 完全に巫女の独壇場。それぞれ二手に分かれて戦うメンバーたちを見守りながら、数をサクサク減らして戦闘指南所と化している。


「海、スズの行先に立ったらダメ。動き始めに風が起こるから、それを感じて、斜めに構えて。

 盾の持ち方が違う。盾ヒモじゃなくて紐の根元を巻き込んで。逆手じゃなくて順手。手首痛めるから。

 攻撃の向きをよく見て、受け止めるんじゃなく受け流す」

「おぉ!了解ッス!」



 スズと美海さんも連携プレーだ。

 巫女は海って呼ぶことにしたみたいだな。

 素早い動きの清白を活かせるように戦闘姿勢を変えていく。

 巫女はソロやってるだけあって、何でも出来るな。

 ナチュラルボーンならではの戦いがスキルの効力を底上げしている。


「紀京、神力上限いくつ?」

「おん。四千ちょい」

「これ渡しとく」

「おっ!ありがとな」

 巫女の回復薬頂きました!これでも多い方だけど、周回するなら底上げも必要だし。装備見直しだなこりゃ。

 紙装甲で神力全振りかなぁ。


 チョビ、と薬を舐めると全てのパラメータがマックスゲージまで戻る。神力回復薬の中毒数値もゼロになった。

 わー、凄いなこりゃ。なんか甘い液体だな。


 最後の一匹を清白が断ち切った。

 はいはい、焚き火炊きましょうねー。

部屋の真ん中に焚き火を炊いて、みんなが集まってくる。全員地面に寝っ転がる。

 息を荒くして胸が大きく上下して、お疲れ様だなぁ。




 焚き火はグループを組んでいると、回復薬や体力回復の法術効果が上がる。

 知覚がある以上休憩も必要だからな。扇を翻して回復しまくりまーす。


「紀京の回復効果数値がおかしい」

「聖職者の称号効果ッスか?」

「はいそうですー。術効果四倍だからな」


「「マジかよ」」

「おおう、仲良しだな」


 獄炎さんと清白がハモる。

 こうなると取っておいて…いや、取らせてもらって良かった。

 巫女には感謝するしかない。




「巫女、そういえば裁定者称号でダンジョン内効果は無いのか?」

「んー?」


 巫女が真横にちょこんと座り、ステータスをポチポチし出す。

 頭のてっぺんにかわいいつむじが見える。つつきたい。



 

「ないねっ!なんもない!!わはは!」

「ありゃ、そうなのか」

 おー、なるほどな。そうなるとやはりゲームマスターアクセス権がメインの称号だな。

 

 それはそれとしてだ。…くっ、我慢できない!


「デュクシ」

「ひゃっ!な、何すんのさぁ!」


 つむじをつつくと巫女がびっくりして目を合わせてくる。

 ダンジョンの中で動き回るから、髪の毛を美海さんとお揃いのポニーテールに結んでるんだ。

 めちゃくちゃ似合ってます。顔が動くとぷりぷり揺れるのがいいな。すんごいかわいい。

 ちょいちょい見える項は注視しては行けない。これは危険だ。


「いや、あんまり綺麗なつむじだからつい」

「なあにそれ…んふふ」


 もう慣れてきた胸の中のほわほわがまた生まれてくる。

 なるほどなー。頭の中で理解してはいけないと思いつつも、こう言うものって思いどおりにはいかないものなんだな。やれやれ。




「俺の傷に粗塩が塗られていくぜー染みるー」

「オイラも嫁御がほしいッス」


 清白、すまんて。ついやっちまったんだ。


 美海さんも嫁居なかったっけ?はて。

 このゲームは性別関係なく結婚できるから、たしか可愛い人と結婚してたような??あれ?

 美海さんの顔を見ながら巫女がハッとしてる。


 


「あっ!もしかしてカノジョって嫁御の事?」

「...ちょっと違うッスけど、同じようなもんッスね!」


 いかん。知られてしまった。

 嫌な予感がしているんだが。巫女がキラキラした目で見てるし。

 現代の言葉よりちょい昔の言葉ならわかる感じか。なるほど。


「紀京お嫁さんいるの?」

「い、居ません」

「ボクをお嫁さんにしてよぉ」


 くっ…こうなると思った!!!

 皆してニヤニヤしないで!!!


 


「あの、そのな、ゲームでも結婚は結婚だぞ。ハラスメントシステムが結婚相手限定で解除できるようになっちゃうし、ええと…ちゃんと好きな人が出来たら困るだろ?ステータスにも紀京の嫁ってつくんだぞ?」


「何か問題でもあるの?紀京のことが好きなのに?」

「…あ、ある!」


「なんでよぉ。ボクのこと嫌いなの?」

「そ、そうじゃなくて!そもそも巫女の好きはどういう好きなんだ?ダメだよそんな簡単に言ったら」


「なんだか難しいんだなぁ…うーん。どういう?うーんうーん……」




「俺の傷に黒胡椒が塗りたくられているんだが美海さん」

「お気持ちお察しするッス…」


「紀京は男らしくねぇな。いいじゃねえか別に。結婚すりゃいい事づくめだぞ?」

「夫婦になるとステータスもプラスされますよ。神力がかなり上がるはずですし。能力共有も出来た筈ですが」


 んもう!ダメでしょ。巫女に大切にして欲しいのはそういう事じゃないの!


 

「やめてください。そう言う話じゃないし、簡単な問題ではないです。巫女にそういう情報与えんでください」


 真面目な顔して言うと、二人とも眉を下げる。巫女の事だ。利益で恩返しとか言い出しそう。


 


 能力共有も困る事の一つなんだよ。

 巫女の能力や神力を分けられるのはどうなんだ?好きの種類が違うなら奪っているようなもんだろ。

 そもそも、巫女の好きが違う好きなら心を傷つけてしまう。あの性格じゃ離婚なんか出来ない。


 


 一番問題なのは本当に好きな人が出来たらどうするんだ。

 好きな人との狭間で苦しませるなんて、そんなのは嫌だ。それだけはしたくない。

 巫女はまだ、世の中に出たばかりだ。

 好きの種類がわかっているとは思えない。

 だから、こんな衝動的なのはダメだろ。



「とにかく!今はそういう話はやめましょう!天満宮二周するんですからっ!ボス戦これからなんですよ!気を引き締めてくださいっ!」

「紀京が言うセリフか?信じられん」


 清白は酷いこと言うな。全くもう。




 腕を組んでうんうん唸ってる巫女。

 俺もちゃんと考えないといけないのかもな。怖いけど。 巫女を傷つけないのが一番だから...それだけ気をつければいい。

 俺自身もびっくりしてるよ。

 出会ってまだ二日目だぞ?こんなに大切な人になるなんて、思ってもいなかった。


「うーん?はっ!ボス倒しに行かなきゃ!後でお話しよ。紀京」

「はい……」


 キラキラのエフェクトをまとった巫女が、ふんわりと微笑んだ。






 

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