第6話 キノコ狩り

 コスモスのシーズンも終わり、晩秋。


「森へ行きましょう」

「森ですか? 危ないですよ」

「リーチェお願い、お父様を説得して」

「エルダ様、そうですね、善処します」

「頼んだわよ」


 とまぁ、リーチェにおねだりをした。

 秋だもん。キノコが食べたい。


 こういうものは農村で採れてほとんど自分たちで消費してしまう。

 だから貴族の市場まで出てこなくて、なかなか食べられない。

 悔しいので、自分たちで採りにいきたい。


「エルダ、キノコ狩りだったかな?」

「そうです! キノコ美味しいよ」


 お父様だ。どうやら行ってくれるらしい。


「絶対に側を離れないこと」

「わかってますわ」

「モンスターが出たらすみやかに撤退すること」

「もちろんですよ」


 注意事項は多い。

 モンスターが徘徊しているからだ。

 それから森のルールなんかもある。

 例えば、火には気をつける。山火事注意とか。


 雨が降った数日後。


「エルダ、リーチェ、今日は森へ行く」

「やった!」

「エルダ様、そんなにはしゃいで」

「だって、キノコよ、キノコ」

「うふふふ」


 お父様、リーチェ、私の三人はマリアランドの城壁の外へと向かった。

 街の壁のすぐ横には辺境伯様の森があった。

 ここは資源林といって、意図的に木が残され、森を保っている。

 街の近くではだいぶ伐採されて周りは平原になっていた。


 モンスターは出るものの、弱いのしか出ない。

 森が繋がっていないからで、初心者冒険者がよく素材を取りにくる。


「森っ、森っ」

「ふふっ、エルダ様たっら」


 ちなみにリーチェも水魔法が少し使える。

 普段は炊事や洗濯に使っているらしいけど、攻撃にももちろん有効だ。


「スライム君!!」

「そうね」


 リーチェが身構える。

 まぁね、ネバネバして襲ってくるので婦女子には怖い。

 私はもちろん興味津々でスライムを眺めた。

 どこが目かな。口とか腕とかも気になる。


 私の初めてのモンスターだ。


「どれ、一刀両断!」


 お父様が得意げに剣を振るうと、あっという間にスライムはバラバラになり、中央には魔石が落ちていた。

 すごい。


「お父様、すごい、すごい」

「まあな」


 かわいい娘に褒められれば、お父様だって鼻の下を伸ばす。


 魔石を拾う。

 前見たワイルドボアのとはだいぶ違う。

 まず色が水色だ。

 大きさは二センチくらい。

 手の上で転がして観察する。

 くんくんしてみるが臭いは特にない。


「まぁクズ魔石だな」

「そうですか?」


「手で持ったまま、魔力を流してごらん。火がいいかな」

「わかりました」


「ファイア!!」


 ボワアアアア。


 私の手から火炎放射みたいな炎が出て、魔石が色を失い白い半透明に変色していく。

 色が全てなくなると火炎放射も止まった。


「エルダ様!」

「ほう、エルダすごいな」

「私……」

「少なくとも火魔法の適性はあるようだ、あはははは」

「旦那様、危ないですよ」

「リーチェ、シエルには秘密だ。俺が怒られてしまう」

「かしこまりました」


 お父様が口に指を一本立ててウィンクしてみせる。

 リーチェは苦笑いでそれに頷く。

 この二人、今日は共犯だな。まぁ私も怒られると思うので、黙っていよう。


 しばらく歩く。


「ありました、キノコ!」

「うむ、ブラウンマッシュルームだな」


 茶色いキノコ。

 シメジみたいなタイプだ。

 株になっていて小さめのキノコが何本も密集している。


「お父様、これは美味しいのですか」

「ああ、かなり美味い」

「やりました!」

「ふふ、エルダ様ったら」

「リーチェ、今日はキノコスープにしましょ」

「そうですね」


 さて一株採れると欲が膨らんでくる。


「他にも、何かないかしら」

「もうエルダたっら、食いしん坊だな」

「だってキノコですよ、キノコ」


 再び歩いていく。


「これは?」


 そこには赤い笠のキノコが何本か周りに生えている。

 円状に並んでいた。


「これは、フェアリーリング」

「おおう、よく知ってるな、エルダ」

「はい、本で読んだんです」

「そんなに読んでいたかな?」

「た、たまに」

「ふむ。これはタマゴタケだな」


 書斎には新しいものから古いものまで本が並んでいる。

 文官のお父様は雑多な知識をよく本で勉強しているようだった。

 私もたまに本を読む。

 まぁ、不自然ではないだろう、たぶん。


「書斎の本ではエルダには難しいかもしれんな」

「まあ、多少は、勘ですよ勘」

「そうだろうな、うんうん」


 ごまかしておこう、うん。


 こうしてキノコ狩りを成功させた私たちは家に帰ってきた。


「カメル、ただいま」

「エル姉様、エル姉様!」

「いいこ、いいこ」


 カメルとしばし戯れる。


「キノコですよ」

「キノコ!!」


 カメルが目を大きくして観察していた。

 珍しいといえば珍しい。


 小さなキノコなら庭に生えることもある。

 でもこんな大きな株を見るのは初めてだろう。


「エル姉様、キノコ!」

「はいっ。晩ご飯にしましょうね」

「やったぁ!!」


 本当にカメルはかわいい。


 夕方、リーチェにキノコスープを作ってもらう。

 それから大きいタマゴタケを焼く。


「キノコ! キノコ!」


 カメルが騒いでいる。

 キノコの焼ける香ばしい匂いがしていた。


「いただきます」

 

 みんなでキノコを食べる。


「美味しい!」

「おいち! おいち!」


 カメルもニッコリこの通りだ。

 お兄様もよろこんでくれて、キノコ料理に満足したのだった。

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