第5話 サツマイモ

「で、これがそうなの?」

「はい」


 バレル商会のレオ・バレル会長がにっこりと私にイモを献上した。


「食べてみてもいい?」

「もちろんです。いくつか取り寄せましたので」


 私は以前からお世話になっているバレル商会にひとつ依頼をしていた。

 報酬はないが、商売になるよとは言っておいた。

 さすがにハーブオイルに目を付けた私たちをないがしろにするほど商会はバカではないらしい。

 ちゃんと見つけてきたのだ。


 サツマイモの甘い品種。

 領内でも細々とサツマイモは以前から栽培されていた。

 しかし味がいまいちなのだ。

 全然甘くなくて茹でたイモは塩を掛けて食べるのが主流だ。


 しかし見つけてきた異国のサツマイモは全然違った。

 黄色いイモはいかにも蜜が入って甘そうだ。


「いただきます。んんっ、甘い!」

「でしょう。私も初めて食べたとき、びっくりしました」

「ですよね」

「こんなサツマイモがあるとは。人伝に探してみるものですな」


 商人にもネットワークがある。

 探してもらったのだ。遠い異国まで。

 そうしたら見つかったんだから、ラッキーだった。


 そもそものきっかけは蜂蜜だった。


「蜂蜜あまーい」

「そうですね。でも甘味は高級品だから」

「そうなんですか?」

「そうよ。砂糖はもっと高いですよ」


 レッドハーブのオイルで一儲けしたので蜂蜜を買って貰ったのだ。

 それで瓶一杯、色々料理に使ったりと美味しくいただいた。

 でもこれは高級品で、貴族だから食べられるという。

 普通は庶民ではとても手が出なくて、蜂蜜が特産の農村ですらほとんど食べないのだそうだ。

 庶民に甘味を広げたい。

 そこで頭をひねった。何かないか、何か。


 そこで閃いたのが甘いサツマイモだった。


 日本では手軽に手に入るために忘れかかっていた。

 異世界にもどこかにはあるかもしれないと思ったのだ。

 そこで探してもらっていたというわけだ。


 これを領内で栽培し増やして、商売にしようというわけ。

 庶民でも食べられる甘味となれば万々歳でしょう。


「民のことを考えてくださる。それだけでうれしいのですよ」

「そうだよね、ありがとうレオ会長」

「いえ、お手伝いができて、光栄です」


 お母様と私で対応しているけれど、その中心が私になっているのにも、薄々気が付いているだろう。

 一応、我がバーグマン男爵家が動いていることは秘密ではないけれど、その中の私エルダが中心だとは思われていないのだ。

 子供が金になるなんてわかったら人さらいにあってもおかしくはない。

 この商人はそういうことを分かっていて、全部黙っていてくれている。

 信頼できる。


 子供相手だからと主導権を握ろうと暗躍するバカも中にはいるが、この人は違うようだ。


 ということがあって、今、あちこちでサツマイモを育てているというわけ。


 秋の終わり。


「コスモスいっぱい」

「これでもオイルを作るの?」

「うん」


 コスモスは甘いような匂いがする。

 多少は好き嫌いがあるものの、あまり匂いものが多くない世界なので、珍しさからもウケると思う。


 せこせこと庭のコスモスを回収した。

 また蒸留器を使ってコスモスオイルを生産する。


 できたオイルはバレル商会へと渡しておいた。

 これでまた商会も私も一儲けできる。

 面倒な作業はみんなアウトソーシングだ。

 子供だしまだ出来ることが少ないので矢面に立つ人は重要なのだ。


「領主様と女王様それから王女つまり姫様たちだね」


 女王様には子供がいるので、姫様たちも興味を持ったらしい。

 ということで関係各所にちょっとずつだけど配っておいた。

 名目上はバレル商会が納品したことになっているので、これも問題ない。

 手紙もバレル商会へ行くので事務作業も全部丸投げで楽ちんだ。


 春のときに手に入れられなくて怒っていた人たちも、夏のレッドハーブや秋のコスモスどちらかは手に入るだろう。

 実は蒸留器はうちにしかないのだけど、畑は増やしてもらったのだ。

 領都内で採算が悪そうな畑をレンタルして、栽培面積を増やしている。

 それでコスモスはかなりの出荷量が見込めていた。


 お父様もよく娘のわがままを聞いて高い蒸留器なんて買ってくれたものだ。

 まだ五歳の娘を甘やかしすぎにも見える。

 こちらとしては助かるからいいけど、親バカだよなぁ。あはは。


「それでサツマイモができました」

「やったじゃん」


 領内でも栽培も成功した。

 これで甘いサツマイモが沢山食べられる。


「甘い!」

「おいち!」

「私の分までありますね」


 私、カメル、リーチェとみんなで美味しくサツマイモをいただいた。

 砂糖不使用だけどバターを使ったスイートポテトも作ったらヤバイ美味しい。

 一家みんなでもぐもぐと食べる。

 これは幸せの味だ!


 太ったら大変だ。

 領民はみんな痩せている人ばかりなので、少しは栄養つけてもらわないとね。


 おイモ大作戦はこうして成功をおさめつつあった。

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