※機密ログ※(記録者:ディーパック)
一体、これはどういう事だ!?
僕が、僕の思い描いたはずのオルタナティブ・コンバットの世界が、見るも無惨な有り様に変質していた。
ゲームマスター機・アルダーナーリーが、どういうわけか、決起したプレイヤーの軍団に撃墜されてしまった。
それ自体はまだいい。
問題は、そこから一ヶ月経った、今の惨状だ!
今やオルタナティブ・コンバットは“アウトレット・モール”なる巨大アームドベース搭載
たまにそんな機体がいる分には、まあいい。
だが、僕がこのオルタナティブ・コンバットに望んでいたのは、こんなものじゃなくて。
幼い頃に大好きだった、日本のロボットアニメみたいな世界だ!
コレジャナイ!
コレジャナイんだ!
こんな“カタフラクト”だの“デンドロビウム”みたいな機体ばかりが跋扈する世界では、断じて無いッ!
僕がVRゲーム開発者となったのは、巨大ロボットを現実に具現化するという最終目標のためだった。
僕は、現実世界に、ガンダムや
この会社に就職して、オルタナティブ・コンバットの部署に入って長年積み重ね、ゲームディレクターにまで上り詰めたのは、全て、この“夢”のためだ。
僕にとってのオルタナティブ・コンバットとは、いわば、そのための“VRテスト”と言って良い。
僕が就任するより以前、ゲームとしての物理演算で、巨大ロボット兵器の世界が成立していた。
そこへ、反物質という要素を投下したのは僕のアイディアだ。
それまで「無理無くロボットゲームを運営させる」ためだった世界に、オーバースペックな“アイテム”を登場させるていで、現実に近い負荷をかけていく。
それに対してゲームと言う“代替世界”に生きる“テストパイロット”たちは自ずと、強化人間手術などの対症療法で、適応の落としどころを模索するだろう。
現実世界に人型機動兵器を実現させる、第一歩となるデータが必ずや、得られるはずだった。
とにかく、リカバリーしなければ。
僕は、僕が“スジャータ”と名付けた運営AIに通信する。
「何をしている、スジャータ。早く対処してくれ。案は、何か無いのか? 僕にはお手上げだ!」
【おはようございます、ディーパック。指示の意図が不明です。再入力を】
「何を、言ってるんだ? この状況の事だ!」
【それは、“アウトレット・モール”が主流となった、現在の事でしょうか?】
【それは、貴方が望んだ世界では無いのですか?】
「バカな! 本気でそう思っているのか?」
【そうです】
【わたくしは、貴方の夢を実現する為であれば、何でも致します。手段は問いません。それが、わたくしの何よりの“望み”ですから】
肉声と区別のつかない生々しい抑揚が、今更になって不気味に思えてきた……。
【貴方が憧れた“最も強い存在”が、当たり前のように普及した世界。
貴方が考案した反物質テクノロジーを、パイロットを強化せずとも、誰でも扱える。
誰もが、巨大ロボットの夢を掴める世界。
貴方の崇高な理想の実現は、すぐそこに来ています】
【貴方と夢を共に出来て、わたくしは、幸せ者です】
まずい。
気付くのが遅れたのかも知れない。
スジャータが、僕の想定しなかった方向へ成長している。
VRMMOの運営AIを長年やっていると、よくある事なのだが……変な進化を遂げると言うケースは。
これは、まるで、本物の、
女。
そんなパターンを示している……。
地球と等倍の世界を支配し、星の数ほどのプレイヤーを管理する、不可説不可説転にも及ぶそれが、一様にひとつのベクトルに向いて、到達した“答え”が、女として在る事とは。
そして、その矛先に居るのは、他ならぬ僕自身であるらしい。
思えば、気付くべきだった。
ゲームマスター機・シヴァを、独断でアルダーナーリーに改造した辺りから、雲行きが怪しかった事に。
確かに、先の反物質機体が襲撃してきた戦いにおいて“彼女”の追加した内部武装は有効に働いた。
もしも機体が“シヴァ”のままであったなら、あの時点で落とされていた可能性も充分にあった。
パールヴァティをイメージした三種のシステムは、ゲームマスターとして、プレイヤーの上に絶対的に君臨するという役割を強固なものにしていた。
だから僕も、特にスジャータを咎めはしなかったのだ。
ある程度の自主性もあてにできないようでは、AIである意味もなかろう。
僕は今の今まで、彼女を信頼しきっていたのだ。
だが。
これは、彼女が、女神パールヴァティを自分に投影した結果だとでも、言うのだろうか。
【現実に
ふふっ、楽しみです。
ねぇディーパック。今、わたくしは、うまく笑えましたか?】
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