log38...もう一つの決着(記録者:YUKI)

 負けた負けた。盛大に負けた。

 アタシとしても、人生で一番の花火を上げた心境だよ。色んな意味でね。

 とりあえず、今や別々の勢力になっちまったアタシたちは、仮想端末ウインドウのビデオチャットでしかコンタクトが取れないんで、ソレ使って顔を突き合わせていたが。

「感想を訊いても?」

《……勝つまでやる》

 ……極めてシンプルなコメントだね。

「先に説明した通り、アタシには当分、アウトレット・モールのミサイルとかニードルの弾薬費を払うカネは無いよ」

《……引き続き、付き合ってはくれるのか。恩に着る》

 だーめだこりゃ。

 アタシのほうに見放す気も起きなければ、この男が引き下がる気も無い。泥沼だ。

 アウトレット・モールって、あんなデカブツを大破させられた。

 といっても、実際のところそれ自体は時間もカネも、思ったよりはかからない。

 SBのパーツを所有するってのは、その設計図を所有するってのが正確だ。

 修理ってか新調自体は機械が全自動でやってくれるから、手間賃はゼロ。最低限度の材料費だけでいい。

 SBスペアボディってのは、ちょっと傷ついただけで保険だのなんだの騒ぐ乗用車とは違う。

 破損する頻度が段違いである。

 撃墜されるごとに一機ぶんのフルプライスを取られてりゃ、やってられない。

 どんな高価な武器だって、やむを得ずパージして現場に置き去りにするコトもごまんとあるしね。

 それを差し引いても、アウトレット・モールが本調子で動けるようになるのは、何ヶ月後の話かわかったものではない。

「エナジー武器だけでやる分には、カネはかからないんだけど……ミサイルなしじゃ、あそこまで粘れなかったしね」

《……KANONカノンも言っていた。何時いつも満足の行く武装が手元に舞い込んで来るとは限らない》

 この男、また小賢しい屁理屈をぬかしおる。

 てか、アタシが善意で協力してやってるコトも頭から吹っ飛んでないですかね!?

 こんなバカ行為に真面目に付き合うヤツ、そうそういないよ。

 ま。

 お寒いにもほどがあるが、大見得切って返り討ちにあって、カネが無くなったんでコロッセオとかでちまちま稼いで、再戦の時に備えるって感じかねぇ。

 この記録読んでくれてる人からしたら、ホントにつまんないオチなんだけど。

 

 ――ってなコトを、あーでもないこーでもないと考えてたある日。

 やっぱり、居住区でも、運営AIに楯突いて返り討ちにあったアタシらの噂や陰口は嫌でも耳にしたんだけど。

 その中に、どうも見過ごせないものがあった。

 アタシらのマヌ襲撃ってネット上でどんな風に言われてるのか、今さら好奇心がわいたのもあり、検索してみたんだけどさ。

 

【マヌ襲撃まとめ】

 

 ナニコレ。

 開いてみると、なんか、どこぞの不特定多数の有志が作ったネットコミュニティみたいなんだが。

 

【どの企業所属でも大歓迎! アルバス・サタンとアーテル・セラフ、そしてアウトレット・モールに続け!】

 って、デカデカとしたキャプションの下に“祭り”とやらの決行日が。

 11月4日。

 ……明日じゃんか!?

 

 そして。

 KANONカノン嬢から、通信あり。

 お嬢から寄越されたライブ映像を突きつけられたアタシは、呆然とするしかなかった。

《いよいよ“祭り”の決行だァ!》

 KANONカノンと肩を並べてそうブチあげたこの男――あれだろ。例の“演説”のあと、お嬢の眉間に拳銃突き付けて脅してたヤツじゃん!?

 あそこから、どうやってここまでの仲良しになったんだよ……。

 いや、それよりも。

 高高度の人工大陸とも言うべきマヌの上空を、イナゴの大群みたいに埋め尽くす機影が、無数。

 その、ひとつひとつが、

 まるで、

 

 アタシのアウトレット・モールよろしく、SBをコアとして巨大アームドベースをひっさげた代物だった。

 

 アタシの黒歴史が、大量生産されてる……。

 ど、どうして、こんなコトに。

《こちらのKANONカノン女史が開発した反物質兵器により、SBのトレンドは変わった!》

 お嬢に感化されたらしい、天権ティエンクァンの男が懇切丁寧に説明してくれた。

《そのエネルギーと推力に飽かせて、信頼と安心・お値段以上のブラフマー武器を山積みにした移動要塞こそが! SBの新たなる理想形ッ!》

 ……若い頃に、そのプロトタイプをふざけ半分に作った身としては、頭がクラクラする光景だよ。

 ま。

 早くもイイ副官を得たようで?

 アンタ、やっぱそっちの才能もあるよ。お嬢。

 これはさながら、アウトレット・モールの大放出。

 いや、アウトレット・モール“が”アウトレット大セールってか。

 そんな移動要塞・目算何百機かが、ブラフマー財団をペンペン草も残さない勢いで蹂躙していく。

 アタシらが、散々苦労した局面を……。

 そして、アルダーナーリーのおでましだが。

《警告します。直ちに武装解除し――》

 

 最後まで口上を述べさせてもらうコトもなく。

 運営AIスジャータの駆る、スペックおばけ機体は、数の暴力による光と火と煙の中に四散した。

 ホント。

 なんだこりゃ。

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