log34...運営AIスジャータ排除に向けて(記録者:YUKI)
《コード42・“イレギュラー”発生。総員退却》
聞こえよがしにブラフマーどもの無差別通信が入って。
《侵入者三機に警告します。直ちに武装解除し、このマヌから撤退して下さい》
女の声が、明確にアタシたち目掛けて飛んできた。
声にかかったブレスまでも、精巧に再現されてるねぇ。感心するよ。
《警告に従わない場合、強制処置を行います》
天地両方でブラフマーのSBどもがスゴスゴと逃げ帰る中、逆にこちらへ向かってくる機影があった。
《……それは、運営AIとしての発言か》
《いいえ。ブラフマー財団CEOスジャータとしての発言です》
つまり、この警告はゲームの演出上のフレーバーテキストですよって意味だね。
なら問題ない。現実の法律的にはオッケーなんだろ。
そして、そいつは単身、アタシらの有効射程距離に舞い降りた。
一応、こちらから手出しするまでは、何もしないようだ。
情報分析&共有ターイム。
まず、肉眼でわかる情報を言うよ。
元々重量機体だったアルバスが、バージョンアップして更に肥大化した……そのアルバスをもってしても見上げるような、ガチムチ体躯にした感じだね。
どうにも、表面のデザインが妙だ。光沢のある赤と青を基調とした二種の装甲が、お互いちょくちょく絡み合っているような……。
腕は、さも当然のように四本あるね。
武器は、右上手にタケノコみたいな漫画ドリル――正確にはこの形状はステップドリルって言うんだが――が三連並んだモノ。“持ってる”と言うよりは、もはやそれ自体が肥大化した右腕だ。コイツもシオマネキが好きなのかなんなのか。
対する左上手は、SB用のジェネレータを二基、剥き出しで誇示した砲身ってか、恐らくレーザーブレードだろ、アレ。
あんなものが許されては、近接武器って言葉の意味もわからなくなっちまうが。
次、下段の腕。(ってのも大概パワーワードだが)
右下の手は、あからさまな大型ミサイルの弾頭が三本ばかり格納されてるね。これも手ってより武器腕っぽい。
左下の手が、どう見ても、ミサイルの推進部位の格納場所+極太の発射装置っぽいんだが……嫌な予感しかしない。ってか、右上のドリル腕も大概だが、ちょうどそいつと対になるこの左下腕もデカすぎて、そう言う意味ではバランスが取れてるのか。
もう何がなんだか、だ。
肩の武装は完全に不明。
左のヤツは、でんでん太鼓っぽい、ずんぐりとしたモノ。
右のヤツに関してはお手上げだ。箱状の、何らかの装置としか言えない。
アタシの目では、これが限界か。
SBの目を借りる。
もしや、と思って、一応ブラフマーのデータベースにハッキングをかけてみる。
やっぱりだ。形だけのセキュリティを剥ぐと、あの機体の情報が赤裸々に書かれていた。
……見られても余裕、って含みがあるんだろうが、最大限利用させてもらう。
機体名:アルダーナーリー
【武装】
・三連ドリルアーム“トリシューラ”
・ヒュージブレード“クンダリニー”
・大型弾道ミサイル“ピナーカ”
・音響兵器“ダマル”
・リペアシステム“ウマー”
・バリアシステム“ドゥルガー”
・合体ユニット“チャンディー”
なるほどねぇ。
自分は反物質武器を使わないあたりは、誉めてやってもいいかな。運営権限で「反物質テクノロジーは、私どもが源流なのですよ!」とか言っても構わないハズなのにね。
次に。
このオルタナティブ・コンバットのゲームシステム開発元は、現実でもインド系の企業だ。
その関係かブラフマー財団まわりの設定もヒンディー語が良く使われてて、真っ当にお勉強してりゃ、嫌でも語彙が身に付くもんだ。
居住区には旨いカレー屋が露骨に多く配置されていて、そういう店ではメニュー表に豆知識よろしく神サマの蘊蓄も書かれてる。ろくに読んでないつもりが、いつの間にかヒンドゥー教知識が頭の片隅を占拠してたりするんだ。
このゲーム固有の、プレイヤー病のひとつだね。
アルダーナーリーってのは、破壊と再生の神“シヴァ”と、その嫁さん女神“パールヴァティ”が一つになった姿ってトコかね。
何となく、あの異様なフレームのデザインにも得心がいったよ。
で、ブレードの“クンダリニー”
――端的に言えば生命エネルギーを現す。シャクティと言った方がアタシら日本人には馴染み深いか――
はともかく、トリシューラ、ダマル、ピナーカは、シヴァの持ち物である三又槍、太鼓、弓矢がモチーフだろう。
一方で内部武装であろう他三種は、いずれもパールヴァティの別名だったり変化した姿だったり。
親切なウマー。
近寄りがたいドゥルガー。
狂暴なチャンディー。
合体ユニットってのがイマイチわからないが、ウマーとドゥルガーは、武装の字面と安直なまでに適合してるね。
ふーむ。
二、三ほど引っ掛かる所はあるけど。
素直に機体名:シヴァ、じゃあダメだったの? とか。
武装もめちゃくちゃ強いのはわかるんだけど、どこか“ヘンテコ”な所が散見される。
まあ、どの疑問も、今考えるべきコトではない。
攻略のヒントにでもなりゃいいが、コイツはゲームマスター機。
これまでのシャールク・ジャバダとかのように“攻略可能”なように設計はされてないだろう。
そして。
双方、アタシも含めた全機体がついに動いた。
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