log29...ブラフマー財団排除に向けて(記録者:YUKI)

 さーて、そうと決まれば考えるコトはそう多くない。

 めでたく賜ったユニーク・スキルの洗礼を、あわれカミングアウトしちゃったKANONカノン嬢に、リーダーのムチャぶりターイム。

「……武器は無論の事だが、折角なら反物質ならではのジェネレータとブースタも欲しい。

 頭部や四肢のフレームパーツは、金で解決するとしよう」

 ま、理想を言えばそうなるよね。

 けど、

「流石に、内装面は天権ティエンクァンの設備でも無いと現実的では無い。重々承知ではあろうが」

 と、素っ気なく突っぱねられたね。

 とは言え、ウチのリーダーなら例外があり得るって言い回しでさ。

 で、対するリーダーもリーダーだよ。

 

「……そうだ。君には我々の武装を作った後、天権に鞍替えして貰う」

 

「何と、言った?」

「……向こうのノウハウを取り入れてジェネレータとブースタを作ってくれ。言い値で買い取る」

 アタシは。

 気付けば、腹を抱えて爆笑していた。

「……ゲームそのものに楯突くと決めた。今更、我々が同じ勢力で固まる必要性も無い。

 あらゆる手段を講じる積もりだ」

 呆気に取られたKANONカノンに代わり、笑いすぎて滲んだ涙を拭ってから、アタシが言ってやろう。

「その為のパイプは、ウチにあったよねぇ、TERUテル?」

「はぁ?」

 ブクブクに肥えたメタボ小僧が、この期に及んですっとぼけやがるけどね、

「“羊飼い”。アタシが気付いてないとでも思ったか?

 実害が無いから、今まで黙ってやってたんだよ」

「……はぁ」

「“その他大勢”サマをクレバーに養分にしてたつもりだった? 運営AIがだんまりなのを良いことに」

 突然、脈絡無くこのメタボ野郎を糾弾したアタシに、MALIAマリアKANONカノンも目を丸くして、それは見物だ。

 あのさぁ。

 運営AIが気付いてて手出ししないってコトは。

 大局から見て些事なんだよ、アンタらの暗躍(笑)ってのは。

 その些事で、タールベルクって世界五大勢力が消えた。

 なら。

 それさえも、運営AIの織り込み済みって考えるのが普通だろ。

 で、何より救いがたいのはさ。

 このメタボ野郎、アタシにここまで暴露されても、本心で動じてない。

 動じるだけの、根っこすらも、無い。

 ほらみろ、「だから何?」ってドヤ顔しか出来ないんだよ、コイツ。

 虚しいね。

 ここで狼狽えたり、強がったりされたほうが、まだ見込みがあったよ。

 でもまあ、ここでネタばらししたのは、何もマウント取りのためじゃあない。

「天権を勝たせて、勝ち組(核爆笑)になりたいんだろ?

 ならアンタ、やっておしまいなよ。

 KANONカノンを連れて、あっちで反物質テクノロジーをばらまくんだ。

 そうすりゃ、天権は晴れて独り勝ちだ」

 ヤツは。

 ふっ、と鼻を鳴らすだけ。

 精一杯、かっこつけてるみたいだね。若いねぇ、やっぱ。

「了承と、みなすよ」

 ――でもさぁ。

「別に」

 こんなヤツでも、受け入れられないような世界じゃ、

 あまりに、息苦しいとも思うよね。

 とにもかくにも、これでメタボ野郎も買収っと。

 そしたら、

「アタシはアタシで、高内重工に亡命させてもらうよ。

 言ってなかったけど、元々はあそこが古巣なんだよ」

 反物質ジェネレータとブースタが本当に実現するんなら。

 “アレ”を実用レベルに持っていく事も夢ではないだろう。

 アタシがかつて、若気の至りで作った、あの欠陥品の機体を。

「……了解した」

 どこまで了解してんだか。

 リーダーは、そう言った。

 そして、さ。

 こうも言った。

 

「……最早、所属企業に意味は無い。

 このチームは、このチームでしか無い」

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