log27...アンドセーフティとの決戦、その壮絶なる一部始終(記録者:KANON)

 目標の宇宙ステーション“サイファー”をバックに、生き残った前線部隊が合流した、高内重工の全軍が出撃した。

 この期に及んで特筆すべき事は無い。

 前半戦と同じく我がチームは最前線を突き進み、“サイファー”に降り立ち……その時が来たようだ。

 艶の無い、深緑とウォールナットを思わせる焦げ茶色を基調とした、重厚な鋼の巨人。

 まさにビリヤードを想起させるカラーリングの“アンドセーフティ”が来た。

 ご丁寧にも、対実弾のプライマリ・対エナジーのセカンダリ、二層のシールドが色分けして可視化されて居る。

 不可視にした方がより有利だろうに。運営AIが指定したゲームバランス周りの事情か。理由は解らないが詮索する時でも無い。

 武装は概ね事前情報の通り、実弾ライフルに推進機付きスレッジハンマー、左肩にリーズン式実弾オービット二基と……右肩の装備だけが予想外だった。

 強いて当て嵌めるなら、レールキャノンの様な……これも、不確定要素として割り切るしか無い。現場に生き残って居るあの三人であれば、今更幻惑もされないだろう。

 こちらのアルバス・サタン、アーテル・セラフ、UMGPアンマークド・グッドプロダクトが先鋒の様に突出。

 アンドセーフティも同程度の戦力を率いて突撃して来る。

 仲間と足並みが揃わなくても頓着しない様な、大胆な突貫だ。

 二層シールドを得た今現在、奴の恐ろしいポイントの一つとして「牽制に気兼ねしなくて良い」事が挙げられる。

 怯まないと言うのは、此方こちらの抑止力やストッピングパワーの大半を無視される事をも意味する。

 守備が堅牢なだけでは済みそうに無い。

 その結果、アンドセーフティはアルバスとアーテルを、他の二機は逆にUMGP一機を相手取る構図となった。

 互いに横槍の行き来は多少あろうが、絵的に解りやすい状況に落ち着いてくれた。

 

 当然、アンドセーフティは、此方の武装の有効射程を目視計算済みだろう。

 アルバスの有効射程距離に入るや、絶影の加速で宙を舞った。陳腐な表現だが、瞬間移動と見紛う。

 しかも、そんな超音速の世界で、奴は無感動なまでに冷静な所作でライフルを撃った。

 アルバスもまた、全身のブースタを総動員して回避。ほぼ同瞬に、アルバスの立って居たサイファーの外壁が大きく捻じ砕けた。

 これを捕まえた上で、ようやくシールドに負荷を掛けられる段階に過ぎない。気が遠くなって失神したくもなる事実だが、そうは言ってられない。

 視界の外、UMGPが早速一機撃破した。

 その余った手で彼女がマシンガンの弾幕をアンドセーフティに浴びせると同時、アルバスもチェーンガンを断続的に叩き込み。

 集中砲火から抜け出したアンドセーフティへ、アーテルが最接近から、ショットガンに変形させた銃撃を浴びせる。

 逃げるアンドセーフティへ、スイッチし直したアサルトライフルとバズーカを有らん限り叩き込んだ。同瞬、アルバスがオービットを全基発射。

 惜しくもアーテルの砲撃そのものは直撃を逸らされ、或いはガードされたが、アルバスが手早く展開していたショットガンウイングが無数の火玉を放出。

 アーテルの砲撃から逃げたアンドセーフティにクリーンヒットした。

「プライマリ・対実弾シールド消失!」

 幸先が良い。

 アルバスが惜しげ無く飛び立たせていたオービットが、光速の集中砲火を浴びせ、駄目押しにUMGPのビームライフルも命中した。

「セカンダリ・対エナジーシールド消失!」

 行ける。

 思ったより順調に勝てるかも知れない。

 アーテルは更に両手の武器を咆哮させる。学習されたので、仮にシールドが貼り直されれば、実質もう使えない武器だ。この後のパージに向けた無駄の無い判断でもある。

 乱射の結果、無防備になったアンドセーフティへ命中したのはアサルトライフルが数発のみ。

 アンドセーフティは、はやぶさの様に鋭い軌道で飛び回り、再び距離を取る。

 アルバスの火線も空を切った。

 流石に、そう易々とは取らせてくれないか。

 二層シールドが、再び展開されてしまった。

 シールドに学習された此方の武装は以下の通り。

 

 ・チェーンガン(アルバス)

 ・ショットガンウイング散弾(アルバス)

 ・オービット(アルバス)

 ・アサルトライフル(アーテル)

 ・可変ショットガン(アーテル)

 ・バズーカ(アーテル)

 ・マシンガン(UMGP)

 ・ビームライフル(UMGP)

 

 シールドダウン後であれば無意味では無いものの、たった一回目でこれだけの武装が事実上喪失した。

 逃げから一転、アンドセーフティがアーテルへ肉迫。

 解りやすくスーパースレッジを駆動させて居る。

 対するアーテルは胸襟きょうきんを開き、マイクロミサイルの群れを解き放ち、全速力で後退。

 だが、彼我ひがの機動力は絶望的な差だ。

 スレッジハンマーが遂にアーテルを捉え、振り下ろされ――アーテルは、凄まじいドリフトターンを描いて辛くもこれを躱した。

 行き場を失ったハンマーヘッドが殴打武器にあるまじき爆轟の間欠泉を噴き上げ、サイファーをかなりの広範囲で破砕した。

 SBスペアボディに直撃すれば、原型を留めないだろう。

 そして、苦し紛れに身を捩って逃れたに過ぎない。  

 アンドセーフティは悠々と、返すハンマーを横に構え――アーテルのタンク脚部が遂に変形、速やかにボディアーマーとして畳まれ、露となったフロート脚部で大きく飛翔した。

 アンドセーフティも流石の判断、スーパースレッジを振らずに止め、実弾オービットにアーテルを追わせつつ、自らはライフルを構えて撃つと言う所業を一瞬でこなす。

 特に、リーズン式をコントロールしながらの狙撃と言うのは、最早人間業と思えない。

 だが、アーテルの突然の豹変に対する奴自身の驚愕と、MALIAマリアの反応が僅かに勝ったのだろう。

 ライフルはアーテルに命中せず、アーテルが先に放っていたマイクロミサイルの大半がアンドセーフティの背中から命中し、同時多発的に爆裂。

 同時に、アルバスのウイングから放たれた一粒スラッグ弾も綺麗に命中した。

 ここまでの物量が集中すれば、プライマリシールドがダウンするのも一瞬だった。

 其処そこへアルバスがビームマシンガンを集中させ、アーテルがお得意のレーザーサイズ・ムーンライトを起動。

 アルバスに抉られるように揺らぐシールドに、ムーンライトの切っ先が振り下ろされ、セカンダリシールドもダウン。

 貫通した光学大鎌とフルオートのビームがアンドセーフティのボディにまで到達。

 胴体の装甲が閃光と共に爆ぜた。

 しかしアンドセーフティも諦めない。

 実弾オービットでアーテルを退け……いよいよ例の“謎の右肩武器”を動かした。

 アームのようなものが伸びて、先程破壊したサイファーの外壁の一部を瞬時に取り込むと……事もあろうに砲身からアルバス目掛けて、残骸を射出。

 アルバスは、直撃こそ免れたものの、衝撃で大きく機体を吹き飛ばされ、距離が離れてしまった。

《へぇ。“ジャンク・シュート”をマジで作ったとはねぇ》

 YUKIユキが、愉しそうに言った。

《あれだ。を何でもかんでも弾丸にしちまう、万能投石機カタパルトってヤツだね。

 弾丸は現地調達で、経済的にも積載的にもエコノミー。常に“弾”に目星をつける気転は要るが、エナジー兵器じゃないから省エネな上に事実上、弾切れもナシ。

 キャッチコピーをつけるんなら“もしクマのぬいぐるみで敵を倒したコトがなければ、お楽しみはこれからだ”ってトコかね。

 いやはや、ヤツらの開発者ってのはジョークの通じないタイプなのだろう》

 何を言ってるのだろう。

 私としては寧ろ、こんな武器を考える様な人間は、冗談交じりでやって居るとしか思えないのだが。

 兎に角、不味い状況だ。

 この隙に、アンドセーフティのシールドが復旧してしまった。

 

 ・ビームマシンガン(アルバス)

 ・ショットガンウイングスラッグ弾(アルバス)

 ・レーザーサイズ(アーテル)

 ・胸部マイクロミサイル(アーテル)

 

 もう、剥奪された武器より残された武器を挙げた方が早い気もする。

 後は、まともな武装が、UMGPのグレネードランチャーとアーテルのオービットしか無い。

《……YUKIユキ、何も言わずに自分を信じてくれ》

 この場合の“自分”とは、彼の一人称だろう。

 そして、MALIAマリアに対してその言葉は向けられ無かった。

《オーケイ》

 YUKIユキも、それだけを返答しつつ、残った一機の敵を片手間のように始末した。

 アンドセーフティは、その残骸を抜け目無く取り込んではUMGPに射出して牽制、近付かせない。

 さて、アンドセーフティが、唯一決定打となり得るエナジー兵器を残したアーテルを付け狙うのは必然。

 再びスーパースレッジを振りかざし、彼女へ目掛けて飛翔した。

 レーザーサイズの“圧”を事実上失ったアーテルへ、恐れの無くなったアンドセーフティが殴り掛かる。

 フロートとなっても、瞬発力ではアンドセーフティが勝るように見える。

 アルバスも全速力でアンドセーフティを追い掛けるが、幻惑される気は無いようだ。

 アンドセーフティは飽くまでもアーテルを追い掛ける。

 そして、UMGPがグレネードランチャーを発射。

 シールドで受ける気であるらしいアンドセーフティは、回避せず。

 事実、隔絶された空間の中で爆炎を散らしながら、アンドセーフティは無傷。シールドもまだ辛うじて健在――員数外に扱われていたアルバスが、背後から、何と蹴りを叩き込んだ。

 高機動重量二脚の質量と速度が乗った打撃だ。

 見た目以上に馬鹿にならない威力だ。

「プライマリシールド、消失!」

 だが、此処ここから如何どうする気だ。次はエナジー兵器しか通じない。

 当然、アーテルはこのタイミングでリーズン式オービットを飛ばした。

 だが。

 一基を、あろう事かスレッジハンマーで迎撃、漏電の火花を上げながら墜とされて消えた。

 ほぼ間髪入れず、実弾ライフルがもう一基を撃ち抜き、これも破砕した。

 絶句。

 オービットを迎撃、それもこの一瞬で二基。

 これは漫画やアニメでは無いのだが、私は夢でも見ているのか。

 私の試算では――二基ではセカンダリシールドの負荷限界に届く前に、プライマリシールド再展開の方が速い。

 そして実際に、アーテルのオービットが放たれた。

 彼女も脳反応を最速にして撃たせて居る事だろうが。

 やはりだ、シールドのダウンまで後一息だが、このままでは再展開され――アルバスがチェーンガンを突き出した。

 その先端、銃口の下から伸びたのは、弾切れ時用に備えた非常用のビーム銃剣バヨネットが。

 久し振りに見たそれがセカンダリシールドに突き立てられ、遂に、

「セカンダリシールド、消失だ! 畳み掛けろッ!」

 シールドを消失したアンドセーフティへ、アルバスのチェーンガンとビームマシンガンが奴の心臓に幾千と注ぎ込まれる。

 背後から、アーテルが奴の背中をムーンライトで抉る。

 そして。

 コロッセオ最強の王者は、飽和した光の中で、

《とても、強い。まるで、アネさんみたいな人――》

 ノイズ混じりの不可解な遺言を残した後、爆発四散した。

 

 勝った……。

 アンドセーフティに、彼と彼女が……。

 心臓が早鐘を打つ勢いで脈動して居る。

 こんな感覚は、生まれて初めてだった。

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