log23...HARUTO達が宇宙へ行くと言う(記録者:強化人間INA)

 先の宇宙港撃墜競争について。

 また負けた。

 完膚なきまでに。

 殆ど一矢も報いれなかった。

 しかも、あたし達をまとめてボコボコにしたのが、HARUTOハルトとあたしの宿命に全く関係無い女だった。

 けれど。

 何故だか今回は、とても気持ちが晴れた気がする。

 自分でも、意外に感じながら、あたしの足取りは軽かった。

 VRの世界に住み始めた時から、あたしは大きく変わった積もりでいたけれど。

 また大きく、何かが変わったのだろうか。

 

 タールベルク社の統合後、ガレージでHARUTOハルト達と出くわす機会がそこそこあった。

 自機の格納場所が結構近くなった為だ。……と言っても人間サイズで言えば隣町くらいの距離はあるのだけど。

 今も、MALIAマリアの車椅子を押した彼とばったり。

 今から、アーテル・セラフに彼女を乗せてあげる所だったようだ。

 非戦闘時の快適性を投げ捨ててまで、彼女が何を考えているのか。解らないが、何も言う気は無い。

 彼女もまた、あたしにとっては二つの世界ゲームを共にした間柄でもあるから。

「ちょっと、宇宙いってきます」

 今居る場所の世界観が世界観とは言え、軽く言うものである。

「訓練は受けたの」

 あたしだって、宇宙空間が地上と全く勝手が違うであろう事は想像出来ている。

「……座学講習と、シミュレータによる模擬戦闘を一回、戦闘を伴わないテスト動作を一回行った」

 彼が、相変わらず無駄も過不足も無い説明をしてくれたが。

「たった、それだけ?」

 あたしの率直な感想は、その一言に尽きた。

「あとは、まぁ、実戦に飛びこんでおぼえようかなーと。

 模擬戦もたった一回ではありましたが、すごくいい先生がふたりもついてくれましたし」

 MALIAマリアMALIAマリアで相変わらず、呑気な言い種だが。

「……時は金だ。立ち止まって居ては損をする」

 何とも……らしくないような、らしいような事を言う。

「……君は、サイファー攻略戦に参加しないのか」

 以前までのあたしなら、彼への対抗心剥き出しで宇宙に直行しただろう。

「あたしは、宇宙に挑戦するにしても、もう少し地上戦を極めてからかな。

 機体構築アセンブルの反省点も多いから、色々と改良もしたいし」

 馬鹿正直にHARUTOハルトの後を追えば、却って回り道をさせられる。過去三タイトルのゲームで散々に思い知らされた事でもあった。

「あんた達が次に地上に降りて来て、宇宙ボケした所を瞬殺出来るくらい、差を付けておく」

 彼は「……そうか」とだけ、素っ気なく返して来た――、

「……楽しみにしておく。先の撃墜競争では、一本取られたからな」

 ……。

 …………。

 と思えば、意外な事を言った。

 彼が明確にあたしを認めるような発言をしたのは、これが初めてでは無いだろうか?

 あたしは。

 色んな思いや感情が入り交じる中。

 漠然と、一抹の不安のようなものを感じた。

 何だろう。

 別に、あの二人は宇宙で一戦して帰って来るだけだ。

 それも、宇宙と言ってもVRゲームで作られた、架空の空間。

 別に、本物の戦争に出兵しようと言う訳でも無い。

 地上と宇宙で操作感がまるで違う不安とかは、行かないあたしが感じるべき事でも無い。

 何だろう、

 この胸騒ぎは。

 明らかに、あの二人と話して、何かが引っ掛かったからだ。

 けれど、ここで答えが出るものでは無いのは解り切っている。

MALIAマリア!」

 半ば苦し紛れに、何か言わなければと、出た言葉は彼女を呼び止めるものだった。

「帰って来たら、また、少し奮発したお店で食事しよう」

 一人の男を付け狙うしか無かったあたしが、こんな“普通”の事を言えるようになったのは、彼女のお陰でもあった。

 殊更、それを思った。

「はい。絶対ですよ」

 彼女は、目を弓にしていつもの笑顔を見せた。

 

 あたしは。

 結局二人についていって、アルバス・サタンとアーテル・セラフを乗せ、上昇する宇宙艦を見送った。

 風が、あたしの長い黒髪を踊らせた。

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