log04...この世界のシステム・シナリオ設定、それに纏わる我々の役割、他多数※これは事実上の講義である(記録者:KANON)

 このチームや、メンバーに不満は全く無い。

「あっ、そういえばKANONカノンさん。“YUKIユキねーさんが明後日、第二区画でショッピングでも行かないかって言ってました」

 ブリーフィングルームで小休止中、MALIAマリアが沈黙を破った。

 柔和な面差し同様、声も柔らかく穏やかなものだが、この静寂にあっては際立って聴こえた。

「解った」

 私はそれだけ答えた。

KANONカノンさんも、いきます?」

「ああ」

「じゃあ、YUKIユキさんに伝えておきますね」

「頼む」

「わかりました」

 ……。

 …………。

 会話、終了。

 こんなだから、あいつは実は“第一世代強化人間”のNPCなのでは無いか等と陰口を叩かれるのだろう。

 


 では、基本的な世界情勢から言及して行く。

 既にご存知とは思うが、この“オルタナティブ・コンバット”は、大型の人型機動兵器――“スペアボディ(略称:SB)”に搭乗して任務を遂行するゲームである。

 SBそれ自体に明確な規格は無い。

 プレイヤーがパーツを組み合わせ、思い思いの自機を組み立てる。

 パーツは、メーカー企業が流通させている品を購入するか、チーム内に私のような開発要員が居れば自作する事も出来る。

 自機が完成したなら、クエストを受注する等して交戦地帯に参加する。

 このゲームの主要コンテンツは対人戦であり、大抵は両陣営数十人規模のプレイヤーがぶつかり合う事となる。

 量産されたパーツで組み立てられた専用ワンオフ機のみの軍勢だ。それを構成するパーツも開発者プレイヤーの数だけ無数に存在するから、意図して揃えない限り、どれ一つとして同じ機体は存在しない。

 

 次に、その様な戦いが無数に行われて居る“ゲームシナリオ面”での説明に入る。

 この“オルタナティブ・コンバット”の世界は、国家では無く企業が支配している設定だ。

 各国の最大手企業が天下統一を目指して争って居る。

 我々プレイヤーは、いずれかの企業に所属する形でテストパイロット・或いは開発者としてゲームに参加して居る。

 企業の経営やインフラ、その他の生産活動を行って居るのは全てNPCだ。

 テストパイロットか開発者。我々プレイヤーは、そのどちらかさえ選べば、市民権が認められるのだ。

 テストパイロットとは言うが、それは「軍隊を保有しない」と言う形骸化した建前の名残に過ぎず、私達は事実上、企業のSB開発部門に就職したていの私設軍隊である。

 希望する企業の系列施設、何処でも良いので入社手続きを行えば直ぐに受理され、居住スペースや必要な設備が与えられる。

 配属等も指図はされない。

 他ゲームで言う“パーティ”や“ギルド”の要領で「同じ部署」と言う事を当人同士で勝手に決めて、徒党を組んで良い。

 戦国時代よろしく、覇権争いに負けた企業は併呑され、歴史から姿を消す。

 現在、五つの企業が生き残っては居るが、戦争は最後の一企業になるまで繰り返される。

 そうなると、このゲームの“ゲームシナリオ”は終わってしまう筈なのだが。

 恐らく、最後の企業が世界統一を果たした後の時代としてシナリオが進むのだろうと目されて居る。

 また、勝者となった勢力の所属プレイヤーには“世界の支配者層”としての身分が約束されて居る。

 VR世界とは言え上流階級の生活が一生保障され、次回作がどうあれ、有利な立場からスタート出来るには違いない、と言う事だが。

 ……メーカーや運営AIは、ゲームの“寿命”に頓着して居ないのでは、と言うのも我々プレイヤーの大多数が抱く懸念だ。

 その辺りの私の考えは、別の機会にご披露するとして。

 現在、世界を五分割している、それぞれの企業について。

 各企業の主要産業も併記してご紹介しよう。その理由は後述。

 

・タールベルク社……武器、火器管制システムFCS

天権ティエンクァン公司……ジェネレータ、ブースター、冷却機構

・タイニーソフトウェア社……頭部、コンピュータ、脳波接続システム、パイロット強化手術全般

・高内重工業株式会社……ボディ、装甲

・トゥルビネ・インダストリー……各種脚部&腕部

 

 奇しくも頭文字が“T”の企業ばかり生き残った事から“5T”と言う呼ばれ方もして居る。

 尚、私達のチームが所属するのはドイツ系企業のタールベルク社。

 武器と火器管制システムを主要産業とする。

 その中でもエナジー武器に特化した部署だ。

 アルバス・サタンのビームマシンガンと、アーテル・セラフのレーザーサイズ“ムーンライト”は私が具体的な設計を行った。

 実弾武器だが、可変アサルトライフルも私の作だ。アーテルについては、今後も軽量化と高火力の両立を突き詰めて工夫する事になるだろう。開発者の立場として、やり甲斐のある機体とパイロットだと思う。

 話を戻す。

 このゲームを始めるにあたり、どの企業に所属するかは重要だ。

 現状、何処が有利かと言う勝馬乗りの話では無い。

 所属する企業が得意とする分野が、そのまま、我々開発者の開発環境に影響するからだ。

 つまり私の例で言えば、武器を重要視して居るからタールベルクを選んだと言う事。

 裏を返せば、我々タールベルク所属のプレイヤーは、武器は安く潤沢に手に入るが、ボディや脚部などのボディパーツの入手が困難であると言う事。

 パイロットは、敵性企業の物を高値で売り付けられるか、旧式の型落ち品で妥協するのが殆ど。

 我々開発者としても、ノウハウが回って来ないので、他企業の得意分野を開発しようとしても勝ち目はない。

 また、開発者とは言うが、私達は飽くまでもゲームシステムのサポートを受けて、このオルタナティブ・コンバットの世界限定で兵器を造れるに過ぎない立場だ。

 このゲームの知識を現実に持ち帰ってSBのパーツを開発する等は出来はしない。

 そんな事が出来れば、とっくにガンダムやエヴァンゲリオンが現実世界を闊歩する事になる。

 また、ゲーム内に於いても、直接生産するのは私では無い。

 私が命令を下した、タールベルク製造ラインのNPCや無人設備だ。

 無論、中途で所属企業を変えるのは自由だが、持ち逃げした元所属企業の技術を、新天地のNPCがまともに扱えないので、例えばタールベルクの技術を高内重工に持ち込もうとしても、机上の空論に終わる。

 至極当然だが、戦勝寸前の企業に土壇場で寝返ったとしても、世界統一後の待遇は所属期間の長さできっちり差が付けられる。

 

 とは言え。

 全勢力共通、所属企業がカバーして居ないパーツの入手性について、救済措置は用意されて居る。

 先程ご紹介した、主だった五企業“5T”以外の勢力の存在である。

 一つは、完全中立勢力であるインド系の“ブラフマー財団”である。

 この財団はSB開発に於いてあらゆる分野の系列企業を擁するが、それは5Tとの融和にってそれぞれの前世代の技術を共有して居るに過ぎない。

 所謂“広く浅く”と言う慣用句だ。

 の物を全勢力のプレイヤーに供給して居る点では、世界ゲームに欠かせない中立勢力と言えよう。

 ……現実リアルに存在したなら、死の商人と言うほか無いが。

 兎に角、ブラフマーに頼れば、自軍の得意分野の範疇外であっても、それなり以上のパーツは無理の無い出費で揃う。

 もう一つ、5T外の勢力に“各国家奪還省連合”と言うの存在がある。

 略して“奪還省”。

 企業に実権を奪われた“国家”の末裔が、復権を目指すべく世界規模で手を組んだ「官軍と言う名のテロリスト」であり、システム的には敵性NPCの勢力と言う……何ともブラックユーモア溢れる勢力だ。

 この奪還省が何らかの事を起こす事で、クエスト発生だったり五勢力の均衡を乱すカンフル剤となる事が多い。

 まあ、企業が支配する世界での反企業勢力となると、基本的に物資面で絞られた立場ではあるが……反面、腐っても官軍ではある。

 ネームドのSB乗り等からは、思わぬ良品を鹵獲出来る事も珍しく無い……と言うか他ゲームで言う所のレアドロップの機会は、この奪還省との戦いでしか望めないのも事実だった。

 

 最後に、私がこのゲームに思う、物理演算への所感。

 まあ、とんでもなくと言うのが本音だ。

 例えば、レーザーのような光学兵器。

 現実世界でもレーザーによる金属加工の技術は存在するが、その切断能力は、レーザー設備そのものの出力は勿論だが、対象物への“照射時間”にも比例する。

 工場の大掛かりな設備を用いたとして、厚み10ミリ程度の鉄を、100センチ角に切断するだけでも数分は掛かる。

 これを踏まえて、先程のアルバスとアーテルの模擬戦を思い出して欲しい。

 そう、私の作ったビームマシンガンと、レーザーサイズの事だ。

 一瞬でSBの装甲を貫通し、コックピット内を跡形も無く破砕するあの威力を実現するのに、現実では一体どれだけの出力を要する事か。

 機体を動かすエネルギー等に回す余裕も無いだろう。

 その辺を馬鹿真面目に演算してしまうと、そもそも巨体ロボットを駆ると言うこのゲームの存在意義が脅かされるので、VRならでは、非現実を力ずくで押し通す物理演算が行われて居る次第だ。

 そもそも、何もかも現実に倣ってしまうとアルバスの様な二足歩行機体の存在すら怪しくなる。

 全プレイヤーがアーテルのようなタンク型かフロート型しか選べないのでは、やはりゲームが売れなくなる。

 そして。

 現実にこんな機動兵器をフルスロットルで走らせたなら、致死量のGによって、パイロットは交戦前にお陀仏だ。

 

 今回の講義はこんな所だ。

 初回と言う事もあり、手短に済ませた。

 後は、我がチームの実戦を直に見て貰うのみだろう。

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