log02...とある白黒対決、その後半戦について(記録者:MALIA)
ふわりと、機体が軽くなったのを感じます。
操縦桿とかの固さや重さはまったく変わってないのですが。
とにかくビームと実弾の入りまじる横殴りの雨あられからジグザグに走って逃げているのですが、戦車形態だった時にはくっきり見えていた外の景色が、これまでの倍速くらいに過ぎ去っていきます。
そして、コントロールの難度も激増の勢いです。
一歩踏み込んだつもりが、四歩ぶんくらい引っ張られる感じです。
さっきまでのキャタピラ脚部と、この
まあ、自分で考案したギミックなので、自業自得なのですが。
アルバスから放たれる弾幕のうち、蒼いビームのほうが途切れました。
銃口が赤熱しています。ジェネレータ直結型のエネルギー兵器の場合、基本的に弾切れと
ビームマシンガンの放熱とチェーンガンの弾切れ、双方の弱点を補うための装備構成なのでしょう。さすがです。
けれど、二丁同時に撃っていたときより弾幕が薄くなった感は否めません。
チャンスです。全速前進で畳みかけましょう。
ブースタ点火。
浮遊感。わたし自身の身体がふわりと浮いて、後ろに引っ張られるような錯覚がします。
超音速の世界に入って、景色が完全にミックスされています。
さて、脚部の操作だけでも正直いっぱいいっぱいですが、腕部をとめるヒマもありません。
わたしの操作に応じて、アーテルが背中のウェポンハンガーにかけていた武器を取りました。
一見してとても細長い、棒状の装置です。
グリップ部分と、それを握りしめるマニピュレーター――の人間でいえば手のひらの部分――にジョイントポイントがあるので、操作パネルにお願いして接続。
スイッチオン。
ジェネレータから棒状のそれにエネルギーが送られます。
棒の先っぽから、横向きにのびた蒼い光が三日月のかたちに固定されました。
個人的に、ファンタジーゲームをやっていたころから、こういう長柄武器を愛用しておりまして。
ロボットの操作はまだまだわかりませんが、少しでも馴染みのある武器がいいと思い、このオルタナティブ・コンバットでも、導入した次第です。
一見して全く関係のないゲームの経験も、次のゲームで活きるのが、VRMMOのいいところだと思いますね。
さて。
リーチが長いとはいえ、近接武器は近接武器。
距離をつめる分、チェーンガンが機体を叩く威力も強くなってきます。
装甲がゴリゴリ削られる感触がコックピットにまで伝わってきます。
まあ、わたしの目算では最接近までは保つと思います。
さきほども申しましたが、タンク脚部だった部分は折り畳まれ、今は胴体の追加装甲としておさまっています。
心臓部であるコックピットさえ守られれば、どうにかなるでしょう。
ならば、と、彼なら頭部か脚部に狙点を変えてくるはずです。
そして、ここまでの彼の動きを見た感じ、命中させる腕前もある。
そのわたしの予想どおり、アルバスは火線をこちらの頭部に向けました。
見事命中。不規則でいやな振動が伝わります。
ビームマシンガンはともかく、チェーンガンのほうは反動と集弾率の劣悪さで弾道がブレまくっているはずなのですが、さも当然のように当ててきます。
敵に回した相手の腕前に気が遠くなっているあいだに、コックピット内の映像が、あちこち乱れてきました。頭部に内蔵された、カメラの制御系統が壊れてきたのでしょう。
頭部コンピュータがしてくれていた、姿勢や動作の補正も少しずつ不親切になってきて、機体を動かす感覚がズレてきました。
けれど。
彼が機関砲の位置を変え、狙いがわずかにそれた、このほんの一瞬がチャンス。
今です。
腱鞘炎になりそうなくらいキレッキレに手首を動かして操舵。
わたしの機体がとてつもない鋭角のヘアピンカーブを描いて、アルバスの背後を取りました。
そして、すれちがいざま、レーザー大鎌を横なぎにスウィング。
三日月型の光刃が、アルバスの背中から抵抗なくもぐり、その背中を灼きえぐりました。
ブースタ噴射の通り道となる分、背中の装甲はどうしてもうすくなるはず。
わたしのアーテルもそうなので、予想は的中しました。
レーザー大鎌は彼のコックピット内にまで達して破壊したことでしょう。
とたんに操作を失ったアルバスは片膝をついて、沈黙。
コックピットとジェネレータを中心として機体の全体がショートをおこし、五体のあちこちで誘爆、内部から破砕されていきます。
……。
…………ん?
わたし、“五体“という自分の言葉に違和感をおぼえました。
その理由はすぐにわかりました。
アルバスの五体がそろっていない。
正確には、右腕が、ありません。
壊れたのではなく、
最初からなかったかのように、
そう、
たとえば、意図的にパージしたかのような。
機体ではなく、自分の身体を後ろに振り向かせると。
ビームマシンガンを握りしめた、アルバスの右腕が飛んでいて。
「――あっ」
それが、この場での、わたしの最後の発声になりました。
アルバスの腕が、本体から最後に命じられていたことを実行したようです。
無防備なアーテルの背中に、至近距離からビームマシンガンの集中砲火。
機体を突破した光弾だとか逆流してきたエネルギーの奔流だとかが、たちまちコックピットを満たして、わたしを飲みこみました。
【げきつい されました】
【とれーにんぐもーど しゅうりょう】
【おつかれさまでした】
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