白濁
如月 結良
「白濁」
適当な旅。変わらない日常。学校という檻に押し込まれる日々。僕はつまらないと思った。
揃わない海外風景のパズル。かちゃかちゃと音だけがなる、色がばらばらのルービックキューブ。永遠に解けない知恵の輪。僕は無心になった。
コーヒーを飲む。苦くて吐きそうになる。口に含んだコーヒーを辺りにぶち撒ける。これが僕だ。
周りが怖い。僕に浴びせられる視線全てが痛い。だって僕は「近づいてはいけない子」だから。
2歳で初めて実験をした。親は泣き崩れた。止めてと何度もお願いされた。僕は一人首を傾げた。
大事なキャンバスを切り裂かれた。同じことをしてやろうと思った。銀色の物を握った。飛び散った液体は、僕が見た中で一番美しい赤だった。
みんなから避けられるようになった。仲良くなりたくて、家でみんなの似顔絵を描いた。綺麗に描いた後、それを黒と赤と白で塗り潰した。僕は一人笑っていた。
よく分からない所に連れてこられた。ソファがふかふかしていた。ベッドも快適だった。僕は何だか興奮した。
白衣を着た女の人が居た。その人は僕の"センセイ"だと言った。センセイが動くと、いつも甘い香りがした。僕はその香りを永遠に欲しくなった。
白衣に惹かれた。わたげ雲に惹かれた。白いもの全てに惹かれた。僕は美しいキャンバスだと思った。
実験をした。白衣とセーラー服、どちらがより美しいか。柄の入っていない白衣の勝利だった。僕は何だか誇らしくなった。
僕は夜は嫌いだ。赤が見えなくなるから。
僕は昼は好きだ。赤がはっきり見えるから。
僕は雨の日は嫌いだ。雨の香りに、僕が匂いたい香りがかき消されてしまうから。
僕は晴の日は好きだ。優しい風が、僕が匂いたい香りを鼻腔まで運んでくれるから。
僕が一番好きなのは、僕の家の病室だ。顔はみんな違う。でもみんな白衣を着ている。
白衣と比較するために使った子達は捨てた。僕は、自分が惹かれるもの以外に興味がないから。
僕は10年前から毎日日記を書いている。
今日は何と白衣を比較したか。赤の美しさはどうか。"センセイ"と比べて香りはどうか。
もう一つ続けていることがある。
僕は病室へ向かう。100近くの白衣が並べてあるショーウィンドウを通り過ぎて、一番奥の部屋へ行く。
「センセイ、来るの遅れてごめんね。今日ね、僕、センセイとすごく似た香りの子を見つけたんだ。でも、やっぱり何か違ったんだ。だから今日は、いつもより長く一緒に居てもいい?」
僕は10年間毎日"センセイ"とお話しをしている。
「うん、やっぱり"センセイ"の香りが一番だ。」
白濁 如月 結良 @yurayuni
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