ヒロインは恋を知る
自分のクラスに戻ると、話したこともない連中からハイタッチを求められる。
俺はそれに応えつつも、悟のところに行く。
「よう、とりあえず仇はとった」
「あ、ありがとう……ただ、ちょっと密着しすぎというか」
「おっ、嫉妬か」
「そ、そんなんじゃ……ううん、そうかも。ごめんね、僕の代わりに出てくれたのに」
「いや、良いことだ。もしそう思うなら、似たような場面でお前が頑張れば良いさ」
「……うん、次は頑張ってみる」
そうして、俺と悟はハイタッチをするのだった。
そして十分の休憩を挟んで……最後のリレーが始まる。
俺は引き続き、3人と一緒に待機場所に向かう。
そこには、先ほどの横山もいた。
「おっ、さっきぶりだな」
「君も選手? 足が速いとは聞いてないけど」
「まあ、見てのお楽しみって事で」
「いっておくけど、俺は陸上部にスカウトされるくらい速いからね。まあ、そこにいる陸上部は大したことないし問題なさそうだね」
その余裕のありそうな言葉とは裏腹に、言い方には含みがある。
俺からすると、何やら焦っている風に見えた。
「なんだと? おいおい、誰が大した事ないって?」
「ちょっと聞き捨てならないわね。というか、そんなこと言う奴だったの?」
二人が苛立ち、横山に詰め寄る。
すると、清水が前に出た。
「まあまあ、その辺りにしよっ?」
「でもよぉ……」
「そうよ」
「横山君、覚悟してね? 私、負けるのは嫌いなの」
その語気は強く、普段の聖女様状態の清水ではなかった。
それは、俺のよく知る清水の姿だった。
「なっ……! こ、こっちのセリフだ」
「そう? なら、正々堂々勝負しようね」
「あ、当たり前だ」
気まずいのか、横山がその場から離れる。
それにしても上手い言い方だった。
これで、相手は真剣勝負に出ざるを得ないし言い訳もできない。
「ふぅ……これで良いかな?」
「ふぅー! 清水さん言うね!」
「ほんとほんと! 私、びっくりしちゃった!」
すると、清水が俺の方をチラッと見てくる。
その不安そうな表情に、俺は静かに頷く……大丈夫だという思いを込めて。
「……幻滅したかな?」
「そんなことないぜ」
「うんうん、むしろスッキリしたし」
「ほんと? ……私だって、たまにはムカつくし」
「なんだ、清水さんもそういうこと思うんだね。うん、仲良くできそう」
「確かに身近って感じするよな」
二人からあれこれと話しかけられて、清水は少し困った様子だ。
俺はそれを、微笑ましく眺めるのだった。
リレーの準備がと整ったら、それぞれ配置に着く。
一番手が女子の中村、二番手が男子の森田、三番手が清水、アンカーが俺となった。
ひとまず俺は、森田と待機する。
「さてさて、やるとするか」
「あれだよな、清水さんもそうだけど……逢沢も話したらイメージ違うのな。というか、逢沢に至っては違いすぎじゃね?」
「一応、こっちが素の状態だ。訳あって、地味に過ごしてきたんだよ」
「ふーん、そうなのか。まあ、俺としては付き合いやすそうで良いけど」
「それは助かる。んじゃ、いっちょやったりますか」
「おう、絶対に勝ってやる」
清水もそうだが、俺も変わっていければ良い。
新しく友達とかを作るのも良いかもしれないな。
「おっ、始まるみたいだな」
「よし、陸上部の意地を見せてやる」
そして、ピストルの合図でレースが始まる。
中村は女子ながら奮闘し、どうにか真ん中の順位で森田にバトンを渡す。
森田はそこから一人抜き、三番手まで上がった。
「おっ、やるな」
「うん、頑張ってるね。じゃあ、次は私の番かな」
「頑張れよ」
「うん、任せて……最後、任せるから」
「おう、任せとけ」
そして、清水がバトンを受け取り走り出す。
そのタイミングで、俺もレーンに立つ。
隣には、現在一位の横山がいた。
「アンカーはあんたか」
「もう、うちの勝ちは決定だよ。どう頑張っても、一位との差は埋められない」
「それはどうかな? 頑張ったら、どうにかなるかもしれない」
「頑張れば? いやいや、最初から決まってるんだよ。持って生まれた才能とか、そういう風に生まれた者が」
「だったら、あんたはどうして清水に負けたんだ?」
すると、横山の顔色が変わる。
どうやら、痛いところを突いたらしい。
「なっ……あ、あれは、たまたまだよ。テスト期間は、少し体調が悪くてね」
「へぇ、なるほどなるほど……んじゃ、今日はいいわけだ?」
「もちろんさ、今日のために身体を作ってきたくらいだ。勉強だけの男と思われたくないしね」
「じゃあ——言い訳するなよ?」
「なに?」
「ほら、よそ見してていいのか? あんたの方は来るぜ」
俺の言葉を受けて、横山は慌ててバトンを受け取る態勢に入った。
俺も清水から受け取るため、態勢を整えるのだった。
◇
……熱い。
こんなに全力で走るのは久しぶり。
運動神経自体は悪くないけど、いつも何処かで手を抜いてきた。
聖女ってイメージを守るため、あんまりがむしゃらに頑張るのを恐れていた。
ダサいとか、なんか違うって言われたくなったから。
でも、本当はわかってた……そういうことを言う人が本当はダサいんだって。
「はぁ……はぁ……あと一人は抜きたい……!」
「おおっと! 清水選手ががむしゃらに走っております! いつもの感じとは違いますが、これはこれで良きです!」
今、私はどんな顔をしているのだろう?
でも、今はどうでもいい。
とにかく、負けたくない。
性格悪くてもいい、あの男をギャフンと言わせたい。
「よし……!」
「抜いたー! 一人抜いたぞ! これで、二位でバトンが渡されそうです!」
ただ、まだ一位との差は結構ある。
私は最後の直線レーンで、残りの力を振り絞ってかけ抜け……逢沢君にバトンを渡す。
「お願い……!」
「任せろ」
その不敵な笑みに、心臓がキュッとなった。
そして、私が息を切らす中……どんどんと、一位との距離を縮めていく。
「こ、これは息を切らしてるだけ……」
「おっー! 逢沢選手がどんどんと追いつくぞ! これは抜けるか!?」
逢沢君は半周回る頃には、横山君との距離を数メートルに縮めていた。
「別に、なんとも思ってないんだから……」
そして、一周して最後の直線に戻ってきた。
あと少しで抜ける……そう思った時、私は立ち上がってゴールテープ前に行く。
「が、頑張って〜!」
「ウォォォォォォ!」
そして私の目の前でゴールテープが切られ——逢沢君が一位で駆け抜けた。
「おおー! 大逆転だァァァ! 逢沢選手の走りにより、二年のトップに躍り出たァァァ!」
「おおっ! すげえ!」
「やるー! ねっ、清水さん!」
「う、うん! すごいね!」
私の心臓がうるさい。
感じたことない痛みとともに、よくわからない湧き上がる感情がある。
「そっか、これがそうなのかな」
私はきっと——逢沢君が好きなんだ。
~あとがき~
皆さん、本作品を読んでくださりありがとうございます。
作品に集中するためと、多忙により感想の返信を返せずに申しわけありません。
嬉しい感想などは、有り難く見させて頂いております。
ひとまず、これでカクヨムコンテストが終わりとなりますので、二章の作成をしつつ結果発表を待つことになるかと思います。
それでは、引き続きよろしくお願いいたします🙇♂️
目立ちたくない俺、腹黒聖女様に懐かれる おとら @MINOKUN
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