第34話 黒歴史

それぞれ好きな注文を頼んだら、交代でドリンクバーをとりに行く。


俺が後から行って戻ってくる頃には、デザートが届いていた。


「さて、まずは食べるか」


「そうね、まずは食べるわ」


俺はバニラアイスが乗ったホットケーキ、清水はパフェを頼んだ。

それぞれ、勉強など忘れたように食べ始める。


「うめぇな。別になんてことないんだけど」


「うん、美味しい。家でもアイスとかは食べるけど……何か違うわね」


「そういや、うちの店に来る人が言ってたな。帰り道とかに店で食べるのは別とか」


「……確かに特別感があるかも」


そして、あっという間に食べ終わる。

しかも、うとうとしてきた。


「……勉強する気が起きねえ」


「……悔しいけど同意するわ」


「このままダラダラ……わかった、わかったから睨むなって」


「全く、私だってダラダラしたいのに。ほら、ささっと勉強道具を出して」


「へいへい」


仕方ないのでカバンからノートを取り出す。


「ちなみに、貴方は何が苦手なの? 国語が得意なのは知ってるけど」


「数学だな、特に図形やグラフを使うとわけがわからない。国語や英語、歴史系はそれなりに取れる」


「数学なら得意だから何とかなりそうね。となると私は数学を教えて、貴方は国語という感じていい? 後の科目は、お互いに問題を出し合ったり」


「了解、それで行こう。んじゃ、わからないところがあったら質問するということで」


「ええ、それじゃ始めるわよ」


そこからは静かに勉強を始める。

幸いなことに客も少なく、割と集中して作業が捗る。






そして、ちょくちょくドリンクバーに行きつつ、勉強をしていると……。


「ごめんなさい、ここがわからないんだけど。この時の作者の気持ちを述べよってどういうこと?」


「ん? ……あぁ、これ系が苦手なのな」


文章に波線があり、前後の文章などを読み、心情を答える問題だ。

これには文章に明確な答えがなく、読み取る力が必要になる。


「だって、答えが書いてないもの」


「いや、書いてないことはない。きちんと前後の文章を見てればわかるはず。例えば、ここの部分とか……」


「随分と遡るのね……あっ、確かに」


「だろ? あとは自分なりの解釈でいい。そこさえ押さえれば、最低でも△は貰える」


「そっかそっか……ありがと」


「どういたしまして」


そこで清水がテーブルの上に突っぷす。

真面目な清水としては、それはとても珍しい光景だった。


「もう面倒、どうして正解がないのよ」


「いや、正解がないわけじゃない。というか、清水は国語が得意だと思ってた。あれだけ猫かぶって、人の望む姿を読み取ってるわけだし」


「それは……別に読み取ったわけじゃないわ、自然と最適解になっていっただけ。貴方は、人の気持ちを汲み取るのが得意よね」


「そうか? あんまり自覚はないが」


「ふふ、そういうところも貴方らしいわ」


頬杖をついて微笑む姿を見ると、何やらムズムズしてくる。

俺はどうしていいかわからず、手にあるノートを差し出す。


「そ、それより、俺はここがわからん」


「こんなの簡単よ、公式があるからそれを当てはめれば……」


「それでわからんから困ってるんだよ」


「えぇ……仕方ないわね、初めから説明する」


そう言って、席を立ち上がり俺の隣に座る。

……何を今更緊張してんだが。


「聞いてる?」


「あ、ああ」


「ここがこうなって……」


俺はどうにか意識を切り替え、清水の説明を受けるのだった。







……疲れた。


清水の教えもあって、どうにかマシになった。


ふと時計を見ると、既に十八時を過ぎていた。


「実質四時半から始めたから、一時間くらいは集中して出来たってことか。うん、悪くはないな……そういや、清水かいないな」


ドリンクバーにでも行ってるのかと思い、辺りを見回してみると……清水がドリンクバーの前で男二人に絡まれてるのを見つけた。

格好からして、地元の高校生だろう。

俺はすぐに立ち上がり、そいつらの元に行く。


「なあなあ、いいじゃん。このあと、飯でも食おうぜ」


「そうそう、奢るからさ。この辺じゃ見かけない顔だけどめちゃくちゃ可愛いね」


「す、すみませんが、連れがいますので」


「それじゃ、その子も一緒でいい……な、何だよ?」


俺は黙って清水の後ろに立って、男達を睨みつける。


「あ、逢沢君」


「連れだが何か用か?」


「あんだよ、男かよ……随分と生意気な目つきしてんな?」


相手の空気が変わり、不穏な空気が流れる。

さて、やるとしても場所は変えないとか。


「お、おい、待てって」


「あんだよ?」


「この目つきと威圧感……こいつ、どっかで見たことある……あっ! レッドオーガを潰した男だ! 通称鬼殺しのユウマだ!」


「なに?……当時、この辺りをシメていたグループじゃねえか」


「ああ、俺は見てたから覚えてる。ボスである鬼原さんを沈めた男だ」


……ヤメロォォォ! その黒歴史の名前を呼ぶのは!

あの時は親父が死んで荒れていた頃だ。

元々目つきが悪いこともあり、よく変な輩に絡まれていたっけ。

最終的には、グループのボスを倒してしまった。


「……潰すぞ?」


「「ひぃ!?」」


「ささっと消えろ、俺の気が変わる前に」


「す、すみませんでしたー!」


「ごめんなさいぃぃ!」


蜘蛛の子を散らすように、男達が逃げていった。


……おい、この空気をどうしてくれる?


俺は羞恥心から、清水の手を取って急いで席に戻るのだった。





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