第31話 お弁当
家のことや勉強にバイトをして、残りのゴールデンウィークもあっという間終わった。
火曜日になり、平日の学校が始まる。
眠い目をこすり、電車に揺られていると……隣に見知った顔が座る。
「よう、優馬」
「おう、アキトか。この間は悪かったな」
「良いってことよ、俺とお前の中じゃんか。先払いしておいたが、結局誰と来たのかは謎だったわ」
「そこは突っ込まないでくれると助かる。まあ、そのうちな」
こいつは言いふらすような奴ではない。
現に俺のことも、今の高校では言いふらしてないし。
「ふーん、わかった。ただ、お前が最近はいい顔をしてるようで安心したぜ」
「……そうか?」
「ああ、武志や亜里沙も言ってたし。もちろん、他校に行った健二や小百合も心配してたぞ」
その四人は同中で仲よかった連中で、武志と亜里沙は高校も一緒の奴らだ。
変わってしまった俺と、今でも友達と言ってくれる貴重な人達だった。
同じ高校の二人は目立つので、アキト同様俺のことは放っておいてくれている。
「……ありがたいな」
「何がお前を元に戻してくれたのかわからないが……ダチとしては嬉しい限りだ。そのうち、話を聞かせろよ?」
「ああ、約束する。とりあえず、中間と体育祭終わったあたりで遊ぶか? 話とは別に、この間約束したしな」
「そいつはいいな。んじゃ、楽しみにしてるぜ。おっと、そろそろいくわ」
そう言い、席を立って離れていく。
すると駅について、同じ制服を着た生徒達が入ってくる。
俺はアキトに感謝をしつつ、目を閉じて休むのだった。
◇
昼休みになり、俺がいつも通りにパンを買いにいこうとするとスマホのバイブの音がする。
急いでいるのに、なんだと思って見ると……そこには清水の文字が。
俺は思わず、隣に座ってる清水に視線をやる。
すると、清水はもじもじしながら睨んできた。
「は、早く見て……」
「はい? ……なに?」
ひとまず、そこを見ると『購買所に行かずに、例の場所にきて』と書いてあった。
俺が再び視線を向けると、コクリと頷く。
仕方ないので、俺はそのまま校舎裏に向かうのだった。
一足先に着いた俺が、待っていると……とことこと清水がやってくる。
その手には、何やら大きな風呂敷があった。
「何となく予想はついてたが……お弁当か?」
「そうよ。その……あなたの分もあるから」
「……何が狙いだ?」
いきなり弁当とか普通のことではない。
別に付き合ってる彼女ということでもないし。
「別に狙いなんて……ないこともないけど。普通は、男の子は喜ぶものじゃない?」
「普通の男子ならな。俺からしたら怖いのだか?」
「むぅ、失礼ね。まあ、確かに……ああもう!」
何やら、らしくない感じで乱れている。
「とりあえず、時間も勿体ないし上に行くか」
「……そうね、そうしましょう」
せっかく脚立があるので、俺もそれで先に上がり、清水を引っ張り上げる。
俺は用意していた毛布を敷いて、そこに清水を座らせた。
「さて、とりあえず手短に説明を頼む」
「大した理由じゃないわ。貴方、いつも不健康な食事をしてたから。あれじゃ、妹さんやおじい様が心配するわ。妹さんが言ってたけど、自分がお弁当作るって言ったら、それは負担になるから断られたとか」
「あぁー、それはよく言われる。美優にはただでさえ、負担かけてるしな。というか、それが清水が作る理由になるのか?」
「そ、それは……ただのお礼よ。昨日、カラオケ楽しかったから」
「別に俺も楽しかったからお礼はいらないが?」
「ふぇ? い、良いから食べなさい! もう作ってきちゃったんだから!」
「お、おう……まあ、捨てるのは良くないな」
半分押し切られる形で、弁当を受け取る。
中を開けてみると、そこにはきちんとした具材が入っていた。
大きな唐揚げと下に敷いたネギ、スパゲティ、プチトマト、卵焼きにミートボール。
二段目には明太子が入った海苔弁がある。
「おおっ、美味そうだ」
「も、もう……もっと上手くやるはずだったのに」
「おい、不穏なことを……やっぱり、何か狙いがあるんだな? 怖いから教えてくれ」
「……またカラオケに行きたいわ。私、一人じゃいけないもの。あと、一人じゃいけないところに付き合って欲しい。それに一人でいると、声をかけられるし」
「なるほど、そういうことか。わかった、前もって言ってくれれば空けるよ」
ふむふむ、すっきりした。
つまりはぼっち回避と、護衛とナンパ避けか。
お弁当を作る理由になるくらい、一人で出かけるのが大変ってことだ。
「……いいの?」
「別に構わない。清水も苦労してんな」
「多分、意味が伝わって……とにかく、前払いってやつよ。二人分作るのも手間じゃないし、むしろ楽だったりするから」
「だが、お金は払うぞ。そこはきっちりしないと」
「……ほんと、律儀な人ね。可愛い女の子が作って来たんだから素直に受け取ればいいのに」
「自分で可愛いとかいうなし」
「うるさいわね、冗談に決まってるじゃない」
理由がわかった俺は、安心して弁当にありつく。
唐揚げはカリッとして美味いし、他の味付けも濃いめで俺好みだ。
心地よい日差しと青空の下、夢中になって食べ進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます