第28話 清水を家に招く

ひとまず、自転車を引きながら、清水をうちまで案内する。


家に行ってから説明すると気まずくなるので、今のうちに説明しないとか。


「あぁー清水」


「どうしたの? 苦虫を噛み潰したような顔して。というか、メンチをきると厳ついのね」


「人相の悪さはほっとけ。じゃなくて……うちは父親が死んでて、母親が入院してんだ」


「……えっ?」


それを聞いた清水の目が、徐々に見開いていく。

そして、少し申し訳なさそうにする。

俺はこれが見たくないから、新しく親しい人を作るのをやめたんだっけ。


「まあ、結構前のことだから気にすることはない。母親も入院はしてるが元気だしな」


「そ、そうなのね……私だけじゃないんだ」


「うん? 何か言ったか?」


「う、ううん、何でもない! あっ……私が行くって言ったから……」


まあ、聡いこいつのことだから気づくわな。

確かに、家に呼んだら説明しないと面倒だし。


「いやいや、そこに責任を感じる必要はない。清水には知りようがないことだし」


「それはそうだけど……謝らない方がいい?」


「ああ、そうしてくれると助かる。別に、それで不幸ってわけでもないし。同情されるのが一番嫌かもな」


「……うん、そうよね。わかった、そうするわ」


「ありがとな。んじゃ、さっさといくとしますか」


清水に事情を説明したことを美優に知らせ、家路を急ぐのだった。






幸い、そこまで遠くないので18時半には到着した。

すると、音に気づいた美優が玄関から飛び出してくる。


「清水さん! いらっしゃい!」


「こんにちは、美優ちゃん」


「うわぁ……相変わらず可愛いですっ!」


「ふふ、ありがとう。美優ちゃんも可愛いわ」


「えへへ、褒められちゃった」


……そうか、俺はこの状態の清水といなきゃいけないのか。

いや、別に嫌ってわけではない。

それに猫をかぶっていようと、この状態の清水が嘘をついてるというわけではない。

これはこれで、清水の一部分なのだと最近は思う。


「ほら、良いから中に入るぞ」


「はーい、わかってますー」


「では、お邪魔します」


清水を連れて玄関に入り、手洗いうがいを済ませたらリビングに案内する。

そこではじいちゃんが、優雅にお茶を飲みながら待っていた。


「ほう、これはこれは……随分と可愛いらしい子が来たものだ」


「お邪魔いたします。初めまして、清水綾と申します」


「ご丁寧にありがとう。ワシは優馬の祖父で哲夫と申す。学校では、優馬がお世話になってるそうで」


「いえいえ、私の方がお世話になってます。彼には、色々と助けられてます」


「ほほ、それは良かった。女性には優しくしろと口を酸っぱくした甲斐があったというものだ」


……なんか、全身がむず痒くなってきたな。

いや、恥ずかしいのか……別に彼女ってわけでないし。

とりあえず、俺はいつも通りでいいか。


「じいちゃん、別に普通でいいよ。女の子だけど、ただの友達だし」


「そうなのか? それは残念だ。まあ、こんなに可愛らしいのでは引く手数多でしょうな」


「ふふ、そんなことはないですよ」


「ほら、ささっと作るなら作ってくれるか?」


「こら、優馬」


「いいんです、哲夫さん。それじゃ、美優ちゃん何かあるか教えてくれる?」


「はいっ! こっちですっ!」


清水が美優についていき、キッチンで作業を始めた。

オープンキッチンなのでエプロン姿がよく見える。

セミロングの髪を後ろでまとめて、バレッタらしきもので止めた。

うなじが見えて首が細いのだなと、どうてもいい感想が浮かぶ。


「これ、ジロジロ見るものでない」


「わかってるよ。というか、見てないし」


「まあ、あれだけの器量なら仕方がない」


「だから……まあ、いいや」


じいちゃんの対面に座り、俺もお茶を飲む。

何というか、清水がうちにいるとか違和感しかないわ。

そもそも、知り合ってからは三週間くらいなのだが。


「それで、どうだった?」


「どうってことはないよ。普通にカラオケ行って……俺がお金を払ったら、その貸しを返したいってさ」


「ふむふむ、律儀な女の子ってことだ。見た目は大和撫子のようだし、しっかりしてそうだな」


「見た目はまあ……中身は、しっかりはしてるが抜けてるところあるよ」


「ほほう、それは益々いいではないか。うんうん、ああいうお嫁さんならじいちゃんも安心だ。いつでも、大歓迎しよう」


「っ〜!? ゲホッゲホッ! な、なにを……」


あぶねぇ……! 思わず、飲んでたお茶を吹き出すところだった!

お嫁って……まだ付き合ってもねえ! そもそも好きってわけでもないし!

すると、布巾を持った清水が駆け寄ってする。


「な、なに? 大丈夫なの?」


「……すまん、平気だ。ちょっとむせただけだ」


「そう? ならいいけど……すぐにできるから待ってね」


ささっとテーブルを拭いて、キッチンに戻っていく。


「……じいちゃん」


「ワシは何も悪いことは言っとらんよ?」


「くっ……クソジジイ」


「ほほう、久々に聞いたわい。どれ、軽く揉んでやるか」


「はっ、後悔するなよ」


俺とじいちゃんは畳にいき、取っ組み合いを始める。


……結果からいうと、完膚なきまでに叩きのめされた。


剣道もそうだが、この人は合気道も達人の域に達してるし。


とっくに還暦を迎えたというのに、相変わらずの化物じいさんだった。







~あとがき~



ただいま、ラブコメ作品のオスメメレビューを書くと図書カードも当たるらしいので、面白いと思った方はよろしければ書いてくださると嬉しいです(*´∀`*)


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 中には仕組みも知らない方もいるので、お見苦しいですがご了承の程よろしくお願いいたします🙇‍♂️
















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