第21話 ゴールデンウィーク初日

 校外学習が終わると、あっという間にゴールデンウィークがやってくる。


 つまりは五月を過ぎるということで、中間テストも近いということだ。


 推薦を取りたい俺としては、気合を入れなくてはいけないところ。


 だが……そんな中、俺は久々に病院に顔を出していた。


「母さん、久しぶり」


「あら〜優馬じゃない。随分と久しぶりね、元気だった?」


「まあ、元気ではある。妹やじいちゃんも元気だよ」


「ふふ、それは知ってるわ。二人はよく来るもの」


 俺と違い、妹やじいちゃんは見舞いに来る。

 それこそ、亮一叔父さんも……来ないのは俺だけである。


「ごめん」


「謝ることはないわ。お母さんは、優馬が元気で過ごしてくれればいいから。高校生らしく遊んだり、彼女を作ったりね」


「……無理だよ」


 目の前の母さんを見てると、とてもじゃないがそんな気にはなれない。

 うまく動かない右足、痩せてきた体、自分のしたいことができなくなってしまった。

 それまでは物凄いアクティブな人で、多趣味だったからあちこちを飛び回ってたのに。

 今では病院かリハビリセンターを行ったり来たりだ。


「ほら、暗い顔をしない。笑顔でいれば良いことがやってくるのよ」


「でも、母さんは……親父だって」


「まあ、お父さんは自業自得よ、あれだけ好き勝手に生きた人だから。それに別に悪いことばかりじゃないわ。そりゃ、動きたいし、今でもどうしてって思うし。ただ、新しい趣味もできたし。それは、倒れなかったら絶対にやらなかったことよ」


「そうみたいだね」


 それまでは読書や編み物などを全くしてこなかった母さん。

 しかし病気を機に、やってみようと思ったらしい。

 その辺は相変わらず前向きで、いつも凄いなって思う。


「貴方だって、漫画とか小説を読み始めたんでしょ? それまでは、外遊びや部活ばっかりやってたのに。それは嫌なことだったり、無駄なことなの?」


「それは……違う」


 母さんのことがなければ、俺は剣道を続けるつもりだった。

 ただ、その場合は悟に会うこともなければ仲良くなることもなかった。

 それに漫画や小説も、絶対に読むことはなかっただろう。


「でしょ? だからきっと、無駄なことはないの。人生、なるようにしかならないし。だったら、今を楽しむしかないでしょ」


「……俺も楽しんで良いのかな?」


「当たり前じゃない。何やら、良い感じの女の子もいるみたいだし」


「……美優の奴」


 どうやら、清水のことを話したらしい。

 いつの間か、ちょくちょく連絡とってるみたいだし。


「ふふ、なんだか随分と可愛い子みたいじゃない」


「まあ、顔だけは良い」


「あら、中身も知ってるみたいな言い方。ほんと、顔だけはよく産んであげたんだからもったいないわ」


「あぁー……なんでもない」


 これだ、母さんに会うと見透かされたみたいで困る。

 嫌って事はないが、どうにもむず痒くなってしまう。


「ふふ、あんまり言うと来なくなっちゃうからやめとくわ。ただ、お母さんのことは気にしないで楽しみなさい。子供が楽しくやってれば、親は幸せなんだから。あと、縁は大事にしなさいね」


「……うん、わかった。一応、気には止めておく」


「あら、一歩前進。それじゃ、美優やお父さんのことよろしくね」


「ああ、それは任せて。こんなんでも、長男だから」


「貴方は自慢の息子よ。優しいし、不器用だけど困ってる人を放って置けないし。ほんと、死んだあの人にそっくり」


「……んじゃ、また来るよ」


 どうにも照れくさくなり、急いで病室から出て行く。

 そのまま外に出て、病院内の庭のベンチに座る。


「ふぅ、相変わらず前向きな母さんだ」


 それに比べて、俺は随分と後ろ向きだ。


「ただ、考えさせられることを言ってたな」


 母さんが倒れてなかったら、じいちゃんも一緒に暮らしてないわけで。

 悟とも、そもそも会ってない。

 バイトもすることなければ、新しい趣味にも出会ってない。


「そして、清水とも関わることなかったと」


 ……これも、何か意味があるってことなのかもしれないか。


 俺はスマホを操作し、適当に文字を打っていく。


 そして送信ボタンを押し、青空を見上げるのだった。







……暇ね。


学校がないと、私って本当にすることがない。


勉強は授業を受けてるし、予習復習もしてるから休みまでやることはないし。


そもそも、推薦入試や特待生で大学に行くつもりだから受験もない。


そうなると、音楽を聴くことくらいしかやることがない。


ただ、今は逢沢君が教えてくれた漫画とかあるから助かってる。


「……バイトとかした方がいいかな? 確かにお金は必要になるし」


早く自立して、大人になりたい。

そのためには一人暮らしのお金や生活費がいる。

でも、将来を考えると大学は出ておいた方がいい。

本当は大学に入ってからお金を貯めようと思ってだけど。


「高校生だと、バイトにも親の許可がいるのよね……別に反対はされないと思うけど、連絡とるのがめんどくさい」


お金が足りないのかとか、何に使うのかとか聞かれるだろうし。

その理由を話したくない。


「……でも、新しい趣味を持とうにもお金がいるわ」


逢沢君が教えてくれた漫画とか読んでみたけれど、結構面白かったり。

新しい自分の人生を生きたり、自分の思うように生きたり。

そこでは、現実の私ができないことをしていた。


「でも、よくよく考えてみたら……私ができないと思ってるだけなのかも。初めから諦めたり、自分には無理なんだって」


ファンタジーみたいにはいかないけど、この世界で自分にもできることを考えようかな。

こんなことを考える余裕ができたのは、きっと逢沢君のおかげだ。

彼といると疲れないし、仮面を被る必要もない。


「……でも、いつまで一緒にいてくれるのかな?」


そもそも、これは秘密の共用と貸し借りの関係だ。

それが終わったら、もう話したりもできなくなるのかな?

そう考えた瞬間、胸の奥が少し痛む。


「これは……多分、寂しいだと思う」


本音を話せる人もいないし、本当の意味で友達は一人いないし。

そういえば、カラオケとかいってみたくなったわね。


「最近では一人カラオケっていうのも流行ってるって聞くけど……無理」


あの、お一人様ですかとか聞かれるのがダメだ。

まるで、ひとりぼっちなんですねって言われてるようで。

だから、マッ○くらいしか一人で行くことができない。


「カラオケ……誰か一緒に行ってくれる人いないかな」


もちろん、誘えば誰かが来るのはわかってる。

クラスのラインに書けば、たくさん来ることは。


「でも、男の人ばかりになりそう。女の子も来てくれるけど、結局気を使うし」


その時、ちょうどライン通知が来る。

それは、逢沢君からだった。


「えっ? な、なんだろ? ……嘘」


そこには『明日か明後日、暇ならどっかに遊びに行くか?』と書いてあった。

まるで、私の心を読むように。


「ど、どうしよう? これってどういう意味?」


まさか、デートの誘いだったり……だったら、こんな誘い方しないか。

今までの男の子は、もっとキザっぽかったり、丁寧だったりしたし。

これはなんだか……普通の友達に対する言い方みたい。


「……仕方ないわね、付き合ってあげますか」


そう考えると気が楽になり、私もいつものように軽く返す。


「あっ、着ていく洋服とかどうしよう? ……別にデートってわけじゃないし適当でいいのかな。そもそも、誰かに見られたらどうしよう?」


変装していく? そうなると、帽子とか眼鏡に合う服装を選ばないと。


でも、可愛い格好……って別に関係ないし。


私はクローゼットの中を開けて、これでもないあれでもないと繰り返す。


ただ、寂しい気持ちは何処かにいっていたことに……後になって気づくのでした。






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