第11話 腹黒聖女様の罠

週が明け、四月の三週に入る。


いつも通りに席に座り、悟と話してるとホームルームの時間になる。


「さて、今日も休みはいないと……うんうん、良いことだ。さて、来週には林間学校がある。それで、今日中に班を決めて欲しいそうだ」


「せんせー! 急すぎませんか!?」


「すまん! 先生が先週言い忘れてた!」


「正直すぎて怒れねぇ!」


「ったく、しょうがないなぁ〜」


あまりの正直さに、生徒達が怒らずに呆れていた。

なんというか、三浦さん……礼二さんは、昔からああいうところあるよなぁ。

叔父さんの後輩でもある礼二さんとは、小さい頃からの知り合いだ。

そのおかげもあって、俺のバイトの許可も出たし感謝してる。


「……そういや、そんなこと言ってたな。というか、ゴールデンウィーク直前ってどうなんだ?」


「僕も、すっかり忘れてたや。やっぱり、あれじゃない? そこで仲良くなった人と遊ぶとか」


「まあ、そうなるよな……サボろっかなぁ」


そんな会話をしていると、清水に睨まれる。


「ダメだよ、逢沢君。こういうのは、内申にも響くんだから」


「そうだよ、優馬君」


「……それは困るな」


出来れば、推薦を取りたいところだし。

面倒なことをせずに、内申点は欲しい


「そういえば、二人は班はどうするの?」


「どうだろ? 男女四人グループだっけ? 悟、俺達で組んで余った女子と組むか」


「た、助かったよぉ〜。僕一人だったら、絶対にぼっちになってたから」


「それはお互い様ってやつだ」


少子化によりうちのクラスも、三十二人だから八グループに分かれる感じか。

まあ、それ以上多いと色々とめんどくさい事になるしな。

意見が割れたり、そこの人間関係で揉めたり……あぁ、めんどい。


「じゃあ、私も入れてもらおうかなっ」


「……はい?」


「えっ? 清水さんと?」


「うん。二人共、私と組まない? といっても、組む女子は決まってないんだけどね」


その時、クラス中の男子から射殺すような視線を感じる。

それはお前ら如きが聖女様と組むだと!? と書いてあった。

そして、身の程知らずが早く断れとも。

……皆さん、随分と顔芸が上手いこと。


「い、いやぁー、俺達は恐れ多くて……清水さんなら、他に組みたい人いるだろうし。なっ、悟?」


「えっ? そ、そうかもしれないけど……断っちゃうの? 可哀想じゃないかな?」


「いやいや、そんなことないだろ」


悟ぅぅ! この鈍感! お前には、この視線を感じないのか!

そんなんだから、変な輩に絡まれるんだって!

……そういや、悟と出会った時を思い出す。

この天然さんは、そのせいでガラの悪いのに絡まれた。

そこを通りかかった俺が、仕方ないから助けたんだっけ。

それから話をするうちに、友達になった。


「そ、そんなことないよー。私、誰からも誘われてないから。それに、せっかく席が近くなったんだから親睦を深めたいかなって。二人って、あんまり話さないでしょ?」


「し、清水さん……やっぱり、聖女様なんだね。優馬君、ここまで言ってるんだし」


「あぁー……」


俺は視線だけで伝える……どういうつもりだと。

すると、一瞬だけ不敵な顔で返してきた。

そこには私に意見が言えるとでも?と書いてある。

悔しいことに……逆らえねぇ。


何より、今の一言で男子のヘイトが俺に向いた。

逆に、俺が断ったら承知しねえという。

腹黒聖女様、おそるべし。


「わかったよ。それじゃあ、よろしくお願いします」


「やったぁ! それじゃあ、当日はよろしくね!」


「あ、ああ……よろしく」


すると周りも、諦めたのかそれぞれ班ぎめについて話し出す。

今の清水の立ち位置は、ぼっちになりそうな可哀想な男子を救ったって感じか。

相変わらず、怖い女子だこと。



その日の昼休み、俺がいつものように倉庫にいると……。


「あら、こんにちは」


「あら、こんにちはじゃねえし。一体、アレはなんだ? しかも、脚立を持ってるし」


「別にいいじゃない。脚立は使ってないのを借りてきたの。とりあえず、上に上がるわね」


すると、脚立を使って上に登ってくる。

どうやら、ここ専用に持ってきたらしい。


「んで、説明はしてくれるのか?」


「大した理由じゃないわ。私を班に入れるかで揉めるのが面倒なのよ。女子達は牽制し合うし、男子は取り合うし。時間もないし、それで険悪になっても嫌だし。だったら、あの流れに持っていけば楽かなって」


「はぁー、色々とめんどくさいことを考えてんだな。というか、俺は面倒なのだが?」


「貴方に拒否権があると思って? 私に……あ、あんなことしておいて」


すると、清水の顔が段々と赤くなってくる。

それは、どう見ても演技には見えなかった。


「それは悪いとは思ってるが、自分で言って赤くなるなよ」


「っ〜!? う、うるさいわね! ……とにかく、貴方には拒否権はないのよ。たくさん、貸しがあるんだから」


「へいへい、そうですね。喜んで、男子からのヘイトを買うとしますよ」


「ふふ、光栄でしょ? もしかしたら、私が逢沢君を好きとか勘違いする人もいるかもね?」


「……勘弁してください」


すると、清水が不敵に微笑む。


聖女と呼ばれる笑顔より、こっちのが魅力的だなと思ったが……言わないでおこう。









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