第10話 それぞれが抱えてるモノ

その後、三人でジュースを飲みながらお喋りをする。


と言っても、俺は聞き役に徹して、主に二人が話をしていた。


家には年上の女性がいないし、きっと楽しいのだろう。


「あっ、もう時間かな?」


「そうだな、俺はバイトに行く」


「私もそろそろ帰るね」


「うぅー、残念ですけど我慢します。そういえば、お兄ちゃんは連絡先とか知ってるの?」


「はい? いや、知ってるわけがないが」


ちらりと清水を見ると、何やら考え込んで……一瞬、ニヤッとする。

その瞬間、物凄く嫌な予感がした。


「……教えておこうかなー」


「わぁー! ですです! お兄ちゃんってば、高校に入ってから女の子の知り合い全然いなくて!」


「ほっとけ……どういうつもりだ?」


「んー? なんのことかな? そっちの方が面白いかなって。それに、借りを返してくれるんでしょ?」


その笑顔の裏には、俺をからかう意図が感じられた。

まあ、確かに連絡先を知らないといざ借りを返すときに困るか。

……学校で話しかけられるよりはマシだし。


「わかったよ。それじゃあ、交換しとくか」


「わたしも良いですか!? その、別に連絡とかはしないので……」


「うん、良いよー。ふふ、たまになら平気だよ」


「わぁ……ありがとうございます!」


そうして俺たちはLINE交換を済ませて、その場で別れる。

俺は美憂をバイクに乗せに、家へと向かう。


「お兄ちゃん! 清水さん、めちゃくちゃ可愛い人だったね!」


「まあ、顔だけはな」


「ええー? 中身も可愛い人だったけど……あれは多分、緊張してたとみた」


「はい? なんの話だ?」


「なんか、お兄ちゃんと話すときに違和感というか……もしかして、お兄ちゃん脈アリだったり?」


……鋭いのか、思い込みが激しいというか。

それは多分、俺が秘密を知ってるから猫を被り辛いだけだろう。


「そんなわけはないし。そもそも、俺にはそんな暇もない」


「……別に彼女くらい良いと思うけどなー」


「……みんなして同じことを言うんだな」


「だって、お兄ちゃんは頑張ってるもん。大学の学費を貯めたり、自分のお小遣いとか稼いだり……わたしのことだって」


「今までがダメだったから仕方ない。その分くらいは、やらないとな」


中学の俺は酷かった。

親父が死んだというのに、部活に遊びと好き放題にやってきた。

悲しかったのを忘れようとした面もあったが、母さんがそう願ったからだ。

だけど、そのせいで母さんは無理をして倒れてしまった。

俺がしっかり、家のことや母さんのことを見ていたら……倒れなかったかもしれない。


「それをいうなら、わたしだってそうだもん。だから、お兄ちゃんだけが責任を感じるのは違うと思います」


「お前は妹だし、まだ小学生だったから仕方ない」


「むぅ……頑なだなぁ。ほんと、死んだお父さんにそっくり。お父さんも、頑固だったもんね」


「そうだな……よく殴り合いの喧嘩してたっけ」


「そうそう、その度にわたしとお母さんが止めて……懐かしいね」


俺の親父は口より手が出るタイプの、いわゆる昭和の男という人だった。


母さんや妹には甘かったけど、俺はかなり厳しく育てられた。


当時は、それが嫌だったけど……今となってはいい思い出だ。


……親父が生きてたら、今の俺になんて言うのだろうか?






……っ〜!?


誰もいない、自分の住むマンションに帰った私は玄関なのに頭を抱えてこむ。


「さ、触られた……いや、わざとじゃないってわかってるけど」


恥ずかしさで、顔から火が出そうになる。

当たり前だけど、触られたことなんかない。


「あと、隠してるのがばれちゃったかな」


中学の後半に入ってから、私の胸は大きくなった。

と言っても、そこまでって訳じゃなくてCかDとかそれくらい。

だけど男子からは清楚系に似合わないとか、女子から胸まで大きいのとか陰口を言われてきた。

いつも、みんな好き勝手に私のイメージを決めつけてくる。


「だから、なるべく体型が隠せるニットを着たり、学校ではサイズの合わない下着を着けてるんだけど……」


どうして、私はこんなに不自由なんだろ?

再婚した父さんにはマンションの部屋を与えられたし、お金には不自由してない。

でも、心と生活が不自由なまま。


「……いつまで我慢しなきゃいけないのかな? 早く自立したり、良い子でいれば良いのかな? 大学に行ったりすれば変わるのかな? でも、これ以上親の世話にはなりたくない。かといって、自分を出して嫌われるのは嫌」


思わず涙が出そうになると、LINEの通知が来る。

それは、先程交換した逢沢君からだった。

すると、どうしてか涙が引っ込んだ。


「……ほんと、愛想のない人。でも、律儀で優しい人」


そこには『清水、よろしくな。あと、貸しが多すぎるから何かあれば遠慮なく言ってくれ』と書いてあった。

端的というか、要件だけっていうか……男の人からのLINEってラリーとか質問が多いんだけど……本当に変な人。


「……頼っても良いのかな? でも、彼氏とかでもなければ、好きってわけでもないし」


……好きじゃないよね?


そもそも、好きとかよくわからないし。


私は悶々としたまま、ベットにダイブする。


ただ……逢沢君のおかげで、泣かなくて済んだのは確かだった。






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