第8話 聖女様にお願いをする
……なんでこうなった?
俺は滅多にない妹と買い物に行き疲れ、ようやくメシにありつけるというのに。
何故に、こんなに緊張せねばならん。
「あの、清水さん……お兄ちゃんとどういう関係なんですか!?」
「へっ? いや、別に普通のクラスメイトだよー。今年から同じクラスだし、席が隣だしね」
「やっぱり、そうですよね。お兄ちゃん、ダメダメだし。ちゃんとすればかっこいいのに。せっかく、こんな可愛い人が隣にいるのにねー」
「ダメダメとかいうなし。そして、俺はそういうのに興味ない」
あの後、美憂が騒いで大変だった。
お兄ちゃんの彼女!?とか、こんなに可愛い人が!?とか。
どうにか落ち着かせて、対面の席に着かせたはいいが……この調子である。
「ふふ、仲がいいんだ?」
「今日はたまたまだよ。というか、猫をかぶるの早」
「猫? お兄ちゃん、何を言ってるの?」
「逢沢くん?」
「イテッ!? ……ナンデモナイデス」
美憂に見えない位置から、太ももをつねられた。
いやだってよ……こっちだって笑いを堪えるの必死なんだよ。
もう、本性を知っているわけだし。
「なんだが怪しい……本当は付き合ってるとか」
「んなわけないだろ。美憂、話してないで早く食べなさい。俺は夕方からバイトあるし」
「あっ、そうだった! ごめんなさい!」
ようやく美憂がハンバーガーに手をつけ始める。
……そして、何故か清水は俺の方を見てるし。
「何か用ですかね?」
「ううん、見てるだけ。今日はメガネもしてないし、髪型も普通だね」
「まあ、あれは伊達だし。髪型は起きたままだからだよ」
「あっ、そういうことなんだ」
いかん、この状態の清水と話してると変な感じになる。
俺もハンバーガーを手に取り、黙々と食べ進めることにした。
◇
そうして俺が食べ終わり、美優も食べ終わる。
よし、これでこの場からおさらばできる!
「清水さん、ありがとうございました!」
「ううん、私も一人だったから助かったよー」
「それじゃ、俺たちはこれで……」
そこで、ふと気づいた。
この後、俺に訪れるであろう試練に。
男の俺には荷が重い、かといって身内には女性が少ない。
そして、目の前には……都合よく年頃の女の子が。
「あ、逢沢くん、そんなに見つめられると……」
「もう、お兄ちゃんったら。清水さんが可愛いからって、ジロジロ見ちゃダメだよ」
「そういうんじゃない。清水、この後は時間あったりするか?」
「えっ? べ、別にあるけど……」
「すまんが、俺の頼みを聞いてくれるか?」
俺は頭を下げる。
こればっかりは、完全に俺側の都合だ。
清水には、なんの利点もない。
「お、お兄ちゃん!?」
「ちょっ……頭をあげてよ、逢沢くん。とりあえず、店を出よっか?」
「ああ、そうだな」
他の客の目もあるので、ひとまずマックから出てひと気のない端っこに行く。
なるべくなら、人に聞かれたくないだろうし。
「それで、どうしたの?」
「いや、そのだな……うちには今、母親が家にいなくてな……それで美憂の……だァァァァ!」
「な、なに? 平気かな?」
「すまん、美憂……お前から言ってくれ」
「美憂ちゃん?」
「……あっ! そういうことね! えっと…あの、ゴニョゴニョ」
美憂が耳打ちをして、清水に内容を伝えると……。
「ああ、なるほど……うん、それは大変ね。逢沢くん、それを手伝って欲しいのね?」
「まあ、そうなる」
「もちろん、いいわ」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
「ううん、気にしないで。あとで、お兄さんから借りは返してもらうから」
「……モチロンデス」
その借りが何なのか、恐怖で体が震えてきそうだ。
しかし、背に腹はかえられぬ。
妹の下着選びをするくらいなら、どんなことでもこい……いや、どうだろう? なんか失敗した気もするが。
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