第7話 妹とお出かけにて

翌日の土曜日、久々の朝寝坊をしてしまった。


叔父さんのバイト終わりに家に帰ると、一時近くになるからなぁ。


だから、学校のある日はいつもしんどい。


ただ、自分から頼み込んだしやるしかない。


「ふぁ……おはよう」


「お兄ちゃん、おはよう。十時だけど、ご飯とかどうする?」


「うーん……少し早めにお昼ご飯でいいかな」


「うん、わかった」


「じいちゃんは仕事行ったのか?」


うちのじいちゃんは定年退職してるし、他県からこっちに越してきた。

本来は働く必要はないけど、お金と健康のために週に何回か働いている。

元々庭師さんだったので、どこにいても仕事ができるし。


「うん、昨日依頼があったみたい。午後もいくから、好きに過ごしてなさいって」


「そっか。お前はどうするんだ?」


「お母さんの面会は行ってきたから、午後はどうしようかなーって。今日は部活もないし、あんまり遊ぶのもお金かかるし」


「……なら、俺と出かけるか? 好きなもん買っていいから」


正直、この歳で妹と出かけるのは少々気恥ずかしい。

しかし、俺は母親の面倒まで妹に見させている情けない兄だ。

それくらいのことはしないと。


「えっ? ど、どうしたの?」


「いや、今日は夜まですることないしな。それに来週末のゴールデンウィーク始まる前に、洋服とか靴が欲しいとか言ってだろ? とりあえず、なんでも好きなの見ていいぞ」


「お兄ちゃん……確かに、もう四月の第三週だったね。えへへ、仕方ないなぁ〜彼女もいない可哀想なお兄ちゃんに、可愛い妹がデートしてあげましょう」


「へいへい、ありがとうございます」


その後、着替えを済ませた妹を親父が残したバイクに乗せ、近場の商店街に向かう。

十分ほどで到着し、駐車場に停めたら総合デパートの中に入る。

まずは約束通りに、洋服や靴を見ていく。


「うーん、あんまり高いのはだめだし」


「たまにならいいさ。俺のバイト代から出すし」


「もう、だからダメなの。お兄ちゃんが、夜中まで頑張って働いてるお金だもん」


「あらま、しっかりした妹だこと。まあ、たまにはお兄ちゃんらしいことさせてくれ」


「……ん、わかった」


俺はお決まりのポニーテールをしている、美優の頭を優しく撫でる。

中二の時に親父が死んでから、美優には苦労ばかりかけている。

まだ小学生だった美優は、俺なんかより大変だったはず。



その後、どうにか服か決まり購入する。


幼いとはいえ、女子というのは買い物が長い。


店に来る女性も、数時間は余裕でかかるとか言ってたしなぁ。


「つ、疲れた」


「お兄ちゃん、そんなんじゃ彼女ができた時に大変だよ?」


「そんなものは作らんから心配ないさ。んで、他には何が見たい?」


「あと下着とか……」


「妹よ、流石に下着は勘弁してください……」


「むぅ…だってお母さんは買い物行けないし、身内には男の人しかいないんだもん。友達とかは、少し恥ずかしいし」


「……そうか、もうそういう年頃なのか」


じいちゃんの奥さんであるばあちゃんはとっくに死んでるし、母さんは一人っ子で親父には弟しかいない。

そうなると、妹には頼れる女性がいないのか。

……ここは兄が恥を飲み込んで頑張るしかないのか。


「お兄ちゃん、なんでも言えって言ったもん」


「ぐ……それはそうだ。とりあえず、飯を食ってからでいいか?」


「確かにお兄ちゃん朝から食べてないもんね」


「そういうことだ。さて、マッ○でいいか? 好きなの頼んでいいから」


「ほんと!? シェイクとかも!?」


「……」


その可愛い発言に、思わず頭を撫でてしまう。

もう中学生だというのに、シェイク一つで喜んでくれるとは。


「な、なに?」


「いや、なんでもないさ。ほら、一階に行くぞ」


「うん! 早く早く!」


「へいへい、元気なことで」


荷物を持って一階に行き、先に一番奥にある端っこの席を取る。

俺は荷物を見てる間に、妹が注文を済ませに行った。


「ふぅ、さて……どうするかね」


「なにがどうするのかしら?」


「……ふぁ!?」


「ププ、変な顔」


「なんて失礼なやつ……というか、何でここにいる?」


振り返ると、そこにはトレイを持った清水がいた。

私服姿は大きめの白のニットセーターに、赤いスカートをはいていた。

立ち姿は綺麗で眼鏡をかけていて、まるでドラマか映画のワンシーンのようだ。


「何でって、ここは私の家の近くだし。当然、お昼を食べにきたのよ」


「へぇ、そうなのか。にしては、地元の俺はお前を知らな……いや、悪い」


「本当に律儀な人なのね、それくらい詮索してもいいわよ。別に大した理由じゃなくて、私は高校に上がる前に引っ越してきたから」


「ああ、そういうことか。そりゃ、知るわけがないわな」


こんな女の子がいたなら、中学時代に有名になっていたはずだ。

というか、俺の耳に入ってこないわけがない。


「……と、隣に座ってもいい?」


「はぁ? どういう意味だ?」


「ほ、本当なら、そこは私の定位置なの。そこだと外からも見られないし壁際だし、トイレも遠いから人が来ないし」


「うんうん、その気持ちはわかる。やっぱり、目立ちたくないから端っこは必至だよな……だが断る」


「はい? いやいや、そこは退くか許可するか……そもそも、貴方の許可なんかいらなかったわ」


そうして、許可なく俺の隣に座る。


そして、恐れていたことが起きた。


トレイを持った妹が……目を見開いて俺達を見ていた。







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