魔王様は平和に暮らしたい 〜勇者に敗れた魔王が姫に転生!?今度こそ平穏な暮らしを手に入れてみせるそうです〜

物部ネロ

第1話 プロローグ

吾輩は燃え盛る魔王城の中で倒れていた。そうだ、我が吾輩は憎き勇者に敗れたのだ。体の感覚はもう無く、意識も朦朧としている。


「魔王様、逝かないでください」

「我々はまだ貴方様に恩返しが出来ておりませぬ」


吾輩の周りで部下である四天王たちが、自分の為に涙を流していた。奴らの体は勇者一味の戦闘でボロボロだった。1人の部下が吾輩の体に縋る。震える手でその部下の頭を撫でる。


「吾輩こそ貴様らに謝らなくてはならない。我々の理想を実現出来なくてすまぬ」

「そんなのは良いのです!立場のない我々に居場所を下さった...暖かい言葉をかけてくださった。それだけで十分なのです」


部下は吾輩の手を優しく包むと、その手に頬ずりをする。

吾輩達はただ、人間どもに虐げられていた魔族を救いたかっただけだったのだ。人間達と平等な権利が欲しかった。しかし、その声は人間に届くことはなく、人類の敵として排除されてきたのだ。


燃えた魔王城の天井が我々に向かって崩れて落ちてくる。


「うわぁぁぁぁ...えっ」


吾輩は感覚のない腕を掲げて、四天王たちを覆うように結界を張った。体はもう限界なようで、口から血がとめどなく溢れる。


「死ぬのは吾輩だけで良い。貴様らは生きてくれ」

「駄目です!魔王様、結界を解いてください」


四天王たちが涙を流して結界を内側から叩く。吾輩がまだ魔王でなかった頃から支えてくれた彼らに最後の笑顔を見せる。


「不甲斐ない魔王ですまなかったな...。『転送魔法』!」


吾輩は最後の力を振り絞りそう叫ぶと、結界をその中身ごと魔王城の外部に転送した。どんどん魔王城は崩れ落ちていく。とめどない揺れの中、吾輩は四天王達を外に脱出させられたことを確認すると、目をゆっくりと閉じた。




「魔王、魔王よ」


吾輩はふわふわとする心地の中、誰かに名を呼ばれて目を覚ました。重力もない白い空間の中、目の前に翼の生えた巨大な美しい女性が宙に浮かんでいた。


「貴様は誰だ」

「私は輪廻を統括する女神です」


彼女はふわりと微笑むと、水を掬うように優しい手つきで吾輩を手に乗せる。


「おめでとうございます。貴方の転生が決まりました」


吾輩はその言葉を聞くと、咄嗟に反論する。


「嘘を言え。吾輩は人類の敵だ。魔王だぞ」

「確かにあなたは人類の敵だったかもしれない。ですが、あなたは同時に魔族の光だった」


女神は手を広げると、周りに沢山の大きな泡が現れた。そこには、部下や魔族達が吾輩のために泣いている情景が映り込んでいた。


「転生の基準は生前での他者への貢献です。貴方は多くの者に希望をもたらし、彼らの心を救ったのです」


今度は泡に次々と彼らの笑顔が映りはじめた。吾輩に感謝を言っているようだ。


「貴方の死後、勇者によって魔族に対して平等な権利が認められたのです。貴方の信念が彼をそう動かしたのです」

「そう...だったのか」


吾輩は嬉しさから涙を流した。吾輩は彼らの理想を叶えることができたのだ。女神は指で優しく吾輩の顔を撫でる。


「貴方は自身の人生を棒に振ってまで彼らを導き続けた。今度は貴方の新しい人生を自分のために生きてください」


女神はそう言うと、突然眩い光を放ちはじめた。吾輩はその眩しさから目をきつく閉じた。体が引っ張られるような感覚がし、最終的に意識を手放してしまったのだった。

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