49_再会

「琥太郎はまたこっちに住むのか?」

「いや、連休を使って戻ってきただけで、明後日にはまた東京に戻らなきゃいけないんだ。だけど、今夜と明日は十兵衛爺ちゃんと美澪の家に泊めてもらうつもりでいるよ。」

「おぉ、それじゃあ昔の道場の仲間連中にも声かけて集まらなきゃだな。よし、今夜は十兵衛爺ちゃん家で飲み会だぞ!」


 清吉はそう言って再び堰に飛び込むと、そのまま水中に潜ってどこかに行ってしまった。


「清吉は相変わらず元気だなぁ。」

「清吉、嬉しそうだった。清吉は琥太郎が私達の事見えなくなった後も時々、また琥太郎と勝負してえなぁなんて言ってたからね。」


 そんな話をしながら堰のほとりにある十兵衛爺ちゃんの道場に入ってみる。琥太郎がここに入るのも、約18年ぶりだ。この時間は道場にはまだ誰もいないのだが、特に入り口に鍵などがあるわけでもなく、妖力で作られている結界さえ潜り抜けてしまえば中に入れるようになっている。清吉の話では、十兵衛爺ちゃんも隣町の中島に住んでる濡れ女の婆さんに用事があるとの事で、夕方まで出かけてしまっているらしい。


「うっわぁ~、懐かしいなぁ~!」

「ふふふっ」

「なんかここ、全然変わってないね。あっ、だけど、子供の頃はめちゃめちゃ広く感じたけど、今はちょっと狭くなった感じがするかなぁ。」

「私も今は時々ここで子供達に武道を教えてるんだよ。」

「へぇ、俺も久しぶりに子供達の稽古を見てみたいなぁ。ふんっ、ふんっ!」


 琥太郎も久しぶりに入った道場で、昔習った武道の型の動きをしてみる。


「今日も夕方4時頃から子供達の稽古はあるんじゃないかな。」

「うん、見たい!」


 誰もいない道場を後にした琥太郎達は、そのまますぐ近くにある十兵衛じいちゃんと美澪の家に行く。丘の斜面の中腹に生えた木の裏側に、妖気の結界で覆われた横穴があり、そこが十兵衛爺ちゃんと美澪の家だ。


「お邪魔しま~す。」

「今は誰もいないよ。」

「誰もいなくても、他人の家にあがるんだから言った方がいいんだよ。へぇ、ここも変わってない感じがするなぁ。あっ、昔よりもちょっと荷物が増えてるかなぁ。」


 この家にも琥太郎は子供の頃に何度か訪問した事があった。やはり琥太郎が成長して体が大きくなったせいか、こちらも少し狭くなった感じはする。


「あぁ~、早く爺ちゃん帰ってこないかなぁ。琥太郎は絶対に昔みたいに私達の事がまた見えるようになるんだって爺ちゃんに言い続けてたんだからね。言ったとおりになったでしょって爺ちゃんに言うんだから。」


  十兵衛爺ちゃんは、琥太郎が妖の事を見る事が出来なくなった後も、変わらずずっと琥太郎を慕い続けていた美澪を心配していたそうだ。美澪には、琥太郎はもう元には戻らないかもしれんぞと話していたらしい。

 その後、美澪の部屋で一休みした琥太郎達は、近所のラーメン屋さんで少し遅めの昼食を取った後、久しぶりに訪れた睡蓮堰周辺を散策した。


「この辺って、ところどころ知らない建物も建ってはいるけど、あんまり変わってはいないんだね。」

「田んぼと畑ばっかりだもんね。おかげで水辺の妖は過ごしやすいんだよ。東京の琥太郎の家の近くの川を見たけど、私はこっちの池や川の方が好きだな。」

「この辺って湧き水が多いから水もきれいだって言ってたもんね。あっ、子供の頃によく飲んでた湧き水も飲みに行きたいな。」


 そう言って、琥太郎達は少し回り道をして、近くの田んぼの脇の道端にある湧き水を飲んでから再び道場に戻った。


「「「エイッ、エイッ、エイッ」」」

「あっ、もう子供達の稽古始まってるね。」

「久しぶりに十兵衛爺ちゃんに会うの、なんかちょっと緊張するなぁ。」


 美澪が道場の結界をくぐる。それに続いて琥太郎も道場の結界をくぐって中に入ると、3人の妖の子供達が稽古を行っていた。そして、その奥に見えたのは、昔と変わらず優しい目で子供達を見ている河童の十兵衛爺ちゃんだった。

 その十兵衛爺ちゃんが、道場に入ってきた美澪と琥太郎の方を見た。


「おぉ~、こりゃぁ驚いた。」

「十兵衛爺ちゃん、ご無沙汰してます。琥太郎です。」

「へへへっ、爺ちゃんただいま。連れてきたよ。」


 18年ぶりに見た十兵衛爺ちゃんの見た目は、昔と全く変わっていないように思えた。人間よりも長生きである妖のお爺さんの見た目など、10年や20年程度ではたいして変わらないのかもしれない。十兵衛爺ちゃんは、ニコニコしながら目を見開いて、琥太郎の事を足の先から頭のてっぺんまで何度も見返していた。

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