第11話(1)女子大のおしゃれなカフェテリア
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「トロイメライ、あいつらは何者なんだ……?」
現が顎に手を当てて呟く。
「そんなに気になる?」
幻が問う。
「いや、それは気になるだろう……」
「そうかしら?」
幻が首を傾げる。
「気にならないのか?」
「そうね……」
「ええ?」
首を縦に振る幻に現が驚く。
「だって気にしてもしょうがないでしょ」
「い、いや、しょうがないということは無いだろう」
「でも考えてもごらんなさいよ」
「え?」
「現状はどうしようもないじゃないの」
幻が両手を広げる。
「どうしようもないって……」
「こちらから接触する手段はあるの?」
「そ、それは……無いな……」
「そうでしょう」
幻がうんうんと頷く。
「で、ではどうするんだ?」
「ほっとく」
「ほっとく⁉」
「そうするしかないでしょう」
「だ、だからと言って放っておくというのはどうなんだ?」
「……何かしら手がかりでもあればね」
「手がかりか……」
「そういえば何か言ってなかったっけ?」
「いや、どこかで見かけたような気がするんだが……」
「ような気がするか……やっぱりどうしようもないわね……」
幻が苦笑する。
「ううむ……」
現が腕を組む。
「う~ん……」
現と幻が話し合う横で陽炎が考え込む。
「しかし、あらためてだけど凄いよね。構内にこんなおしゃれなカフェテリアがあるなんて、さすがは有名女子大だな……」
刹那が周りを見まわしながら感心するように呟く。
「う~む……」
「迷うよね、スイーツだけでも何種類もあるし……」
刹那が微笑む。
「うん?」
「え?」
「セットゥ―ナ、何を言ってんだ?」
陽炎が首を傾げる。
「い、いや、何を注文するかで迷っていたんじゃないの?」
「んなもん、とっくに決まってるよ」
「き、決まっているの?」
「ああ、焼肉丼一択だよ」
「や、焼肉丼なんかあるの?」
刹那が戸惑う。
「あるよ、ほれ」
陽炎がメニューのある部分を指差す。
「ほ、本当だ……女子大に似つかわしくないような……」
「そうか?」
「う、うん……」
「逆じゃねえか?」
「逆?」
刹那が首を傾げる。
「女子大だからこそ需要があるんじゃねえの?」
「ああ、そう言われると確かに……」
陽炎の言葉に刹那が頷く。
「こういう女子大に通うお嬢様は一人で焼肉屋とか行けないだろうからな」
「それは別にお嬢様に限ったことじゃないと思うけど……」
「まあ、それは良いんだよ。しかし……」
陽炎が腕を組む。
「何を悩んでいるの?」
「決まっているだろうが、ライブのことだよ」
刹那の問いに陽炎が答える。
「ああ、この大学の講堂でライブをさせてもらえることになったんだよね……」
「そうだよ、だからこうしてここに集まったんだろうが」
「いや、女子大の雰囲気に呑まれちゃって……忘れていたよ」
刹那が恥ずかしそうに自らの後頭部を抑える。
「そんなことあるか? 大丈夫かよ?」
陽炎が苦笑する。
「適度な緊張感も必要よ」
「大事なことをど忘れするのは問題だと思うぜ?」
幻の言葉に陽炎が両手を広げる。
「今日で雰囲気に慣れておけば大丈夫だろう……」
現がコーヒーを一口飲んで呟く。
「でもさ、ここの講堂って結構由緒あるんでしょ?」
「大学創立時からあるそうだな。もちろん、改修工事などは度々しているが」
刹那の問いに現が答える。
「う~ん、そんな場所でライブするなんてなんだか畏れ多い気がするな……」
「バンドとして箔がつくじゃないの」
刹那の呟きに幻が優しく微笑む。刹那が頷く。
「そうか、そういう考え方もあるか……」
「む~ん……」
「陽炎、手洗いなら店の中から廊下を通ってすぐだぞ?」
「ウットゥーツ、誰も尿意を我慢してねえよ」
「いや、さっきから唸っているからな……」
「悩んでいるんだよ」
「悩んでいる? ああ、ライブのセットリストのことか?」
「いいや……っていうか悩むほど曲数ねえだろう」
「それもそうだな……じゃあ何に悩んでいるんだ?」
「ライブの物販で何を売ろうかって思ってさ……」
「何を悩んでいるんだ……」
「それも大事なことだろうが」
「今から用意するんだったら、バンドTシャツとかが無難だろう」
「ウットゥーツよ……無難っていうのが実は一番難しいんだぜ?」
「皆さん、お待たせいたしましたわ」
「甘美……遅かったな、何をしていたんだ?」
「今度のライブに向けての新曲を作っていて遅れましたわ」
「はあっ⁉ 新曲⁉」
甘美の言葉に現が驚く。
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