第9話(1)ライブ決めてきた
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「四人揃ってコーラスの練習とは感心ですわね」
「違う、驚いたんだよ」
現が呆れ気味に応える。
「何を驚くことがあるのですか?」
甘美が首を傾げる。
「いや、来週って……気が早すぎるだろう」
「善は急げというでしょう」
「急過ぎる!」
「そうでしょうか?」
「そうだ、五人揃っては今日が実質初練習だぞ?」
「大型連休もほとんどぶっつけで、三人、四人のステージをこなしたではありませんか」
「そ、それはそうだが……しかし、幻はどうなる?」
現が幻を指し示す。
「幻さんならやれば出来ますわ」
「そんな無茶な……」
「よく分かっているわね」
幻が笑みを浮かべる。
「いいのか⁉」
現が驚く。
「しょうがないんじゃないの?」
幻が両手を広げる。
「しょ、しょうがないって……」
「じゃあどうするの?」
幻が問う。
「い、いや、今回は見送ってだな……」
「一度決まった仕事を断るのも印象悪いでしょう」
「しかし、五人揃って最初のステージは万全を期して臨みたい……」
「今から万全にすれば良いでしょう」
「い、一週間しかないんだぞ?」
「一週間もあると考えれば良いでしょう」
「そ、そんな……」
「ダメなバンドなら一ヶ月間あろうが、一年間あろうがどうせダメよ」
「良いことを言いますわね、幻さん……」
「イヤねえ、アタシって基本良いことしか言わないわよ」
幻は感心した様子を見せる甘美に対してウインクする。
「ふ、二人はどうなんだ⁉」
現が陽炎と刹那を見比べる。
「ん?」
「ん⁉」
「え?」
「え⁉」
「……いや、オウム返しされても困るぜ」
陽炎が苦笑する。
「ラ、ライブに出演するつもりか⁉」
「出ない選択肢が無えだろう」
陽炎がギターを軽く鳴らす。
「きゅ、急な話だぞ⁉」
「ロックンロールって感じで良いじゃねえか、初ライブは練習をほとんどしませんでしたなんて、後々伝説になるぜ?」
「で、伝説とかじゃなくてだな……」
「じゃあ、武勇伝」
「言い方の問題じゃない!」
「まあ、良いじゃねえか。せっかくカンビアッソが決めてきてくれたんだ。ライブに出たくても出れない奴だっているんだぜ?」
「そ、それはそうだが……」
「腹くくって行こうや」
「せ、刹那は⁉」
現はあらためて刹那に視線を向ける。
「いや……別に良いんじゃないの?」
刹那は顎をさすりながら答える。
「て、適当過ぎないか?」
「場の流れ的に反対してもどうにもならなそうだし……」
「あ、諦めるな……」
「仮にボクが反対に回ったとしても2対3だよ?」
「うぐ……」
「決まりだな、多数決は絶対だぜ!」
「くっ、ロックンロールがどうとか言っていた癖に……」
現が陽炎を恨めし気に見つめる。
「……よろしいですか?」
「……分かったよ」
現が甘美の問いに対し、若干不貞腐れ気味に頷く。
「で? チケットノルマは?」
「50枚ですわ」
幻の問いに甘美が答える。
「い、一週間で一人十枚?」
幻が目を丸くする。
「そ、それはちょっと多いかも……」
刹那が困った顔になる。
「連れの予定が空いているかな……」
陽炎もさすがに困惑する。
「ご心配なく!」
「?」
全員が視線を甘美に向ける。
「今回はわたくしが全て売ってきますわ!」
「そ、そんなこと……」
「もちろんご都合がつくようでしたら、何枚かは残しておきます」
甘美が刹那に向かって告げる。
「い、いいのかよ?」
「ええ、皆さんには練習に専念して欲しいですから」
甘美が陽炎の方に向き直って答える。
「……というか、大丈夫なの?」
「問題ありませんわ」
幻の問いに甘美が頷く。
「そうは言っても……」
「いや、大丈夫だ……」
「ええ?」
口を開いた現に対し、幻が首を捻る。
「こいつがちょっと大学の構内で声をかければ、それくらいはすぐに捌ける……」
「顔が広いもので」
甘美が胸を張る。
「なるほどね……」
「リア充の本気……」
幻が頷き、刹那が眩しいものを見るかのように目を細める。
「じゃあ、チケットはカンビアッソに任せるか……よし、問題ないな! 飯行くか!」
「良いですわね!」
「良くない! 練習だ!」
陽炎と甘美に対し、現が声を上げる。
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