第8話(3)ロクでもない出会い

「……え?」


 現が首を傾げる。


「いや、こっちがえ?だから!」


 陽炎が声を上げる。


「何か気になったか?」


「いや、気になっているのは甘美ちゃんといつ仲良くなったのかってことよ」


「あ、ああ……」


 幻の言葉に現が頷く。


「その一点だけよ」


「うん、まさしくそうだね」


 幻に刹那が同意する。


「それ以外は正直どうでもいいわ」


「ど、どうでもいい⁉」


 幻の発言に現が驚く。


「さ、さすがにどうでもいいってことはないけれど……」


 刹那が苦笑する。


「要はカンビアッソとウットゥーツの馴れ初めを聞きたいんだよ!」


「な、馴れ初めって……」


 陽炎の言葉に対し、現が少し恥ずかしそうにする。


「セッツ―ナからも何か言ってやれよ!」


「え、ええ……?」


 刹那が戸惑う。


「興味あるだろう?」


「そ、それはね……」


「じゃあ、もっと行け!」


「い、行けって……」


「ええい!」


「うわっ⁉ ぶ、物理的に⁉」


 陽炎に背中を押された刹那が前に出る。


「……刹那も気になるのか?」


「う、うん……」


 現の問いに刹那が頷く。


「そんなにか?」


「まあ、それは……バンドの中心とも言える二人の出会いというのはね……」


「う~ん……それが……」


 現が腕を組んで首を傾げる。


「それが?」


「今ひとつ思い出せないんだよ」


「ええっ⁉」


 刹那がびっくりする。


「なんかこう……頭にこう、もやがかかるというか……」


 現が頭を抑える。


「思い出せないということはないでしょう。超のつくお嬢様と巫女服を着た摩訶不思議女子の邂逅よ? 色物アベンジャーズのオープニングみたいなものでしょ? それを当人が覚えていないなんて……」


「マ、マボロシッチ……結構なことを言ってんな……」


 幻の発言に陽炎が戸惑う。


「う~ん……」


 現が首を捻る。


「もしかしてあれじゃないの? 電車内の痴漢を逮捕しようと手を伸ばしたら、お互いの手が偶然触れ合って……」


「ほ、本屋とかでの出会い……⁉」


 幻の考えに刹那が困惑する。現が答える。


「甘美は入学時から車通学だ……」


「ほう……」


「ウットゥーツがやっているっていう、怪しげな占い屋に客として来たんじゃねえのか?」


「断じて怪しげではないが……あいつは占いの類を好まない……」


 陽炎の発言を現が冷静に否定する。


「大学での出会いなんて、後は学食くらいしかねえぞ?」


「そ、そうかな? もっとあると思うけど……」


 陽炎の呟きに刹那が首を捻る。


「ひょんなことから大食い対決をすることになって……っていう流れかしらね?」


「ど、どんな流れ⁉」


 幻の呟きに刹那が驚く。


「それか早食い対決だな」


「えっ⁉」


「その二択よね」


「ええっ⁉」


「どっちだ……」


「難しいところね……」


「い、いや、絶対そのどっちでもないよ……!」


 陽炎と幻に現が思わず突っ込みを入れる。


「ええっ?」


「えっ?」


 幻と陽炎が刹那を見る。


「じゃあ何食い対決だというの?」


「そうだよ」


「しょ、食から離れて!」


「それじゃあ、刹那ちゃんに聞くけれど……」


「え?」


「なんだと思うの?」


「な、なんだと言われても難しいな……」


 幻からの問いに刹那が首を傾げる。陽炎も刹那に声をかける。


「セッツ―ナからも何か出してくれよ」


「そ、そう言われても……」


「これはバンド存続の危機だぜ⁉」


「ま、まだちゃんと始まってもないのに⁉」


「いや、大げさじゃなく、それくらいの問題だぜ?」


「う、う~ん……大学生らしいことと言えば……」


「言えば?」


「ご、合コンで狙っていた相手が被って、殴り合いになった!」


「ま、まさかの肉食⁉」


「食から離れるというのは⁉」


 刹那の発言に、陽炎と幻が驚く。


「その殴り合いの末に仲良くなった……これだよ!」


「昭和のヤンキー?」


 幻が首を傾げる。


「合コンの類には、私は顔を出したことはないな。甘美は分からんが……少なくとも、二人揃って参加したことはない」


「ち、違うのか……」


 刹那が肩を落とす。


「……少し思い出した。酒の飲めるようになる前には知り合いだったな……」


「ん?」


「そうだ、一年の時の試験だ……二人とも試験を途中で抜け出して……」


「ああ、問題を解き終わって……」


「いや、ヤマが外れて、ヤケクソになって、白紙で提出したんだ。それで意気投合して……」


「ロ、ロクでもない出会いだな⁉ ロックだけど!」


 陽炎が愕然とする。

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