第8話(1)バンド名再考

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「おはようっす!」


「おはよう……」


「お、おはよう」


「おはようさん……」


 練習の為に、スタジオ入りした陽炎が声をかけると、既にスタジオに入っていた幻、刹那、三人が返事を返す。


「ん……?」


 陽炎がギターを置いてから気が付いて振り返る。三人は機材の準備をしている。


「……」


「カンビアッソは⁉」


「まだ来ていないな……」


「いやいや、そこはいの一番に来るところだし、そういうタイプだろう⁉」


「『わたくしたち、ミュズィックデレーヴの記念すべきスタジオ初練習の日ですわー!』とかなんとか言ってな……」


「そうそう!」


 陽炎が現の言葉に頷く。


「っていうか、今のモノマネ、結構似ているわね……」


 ドラムをセットしながら、幻が笑う。


「そうか?」


「ええ」


「なんだかんだ付き合いも長いからな……」


 現が顎をさする。刹那が反応する。


「そうなんだ……」


「ああ」


「大変だったね……」


「刹那、大変なことは確定しているのだな……」


「うん、それはもう分かっているつもりだから……」


 刹那が頷く。


「まあ、大分振り回されているからな……あのお嬢様には」


 現が腕を組む。陽炎が尋ねる。


「そういや、こないだもなんかあったんだって?」


「ルールもロクに分かっていない癖に、麻雀のプロに勝っていた……」


「はあっ⁉」


「あまりの強さにコンビ打ちを疑われ、店から出禁を食らいかけた……」


「それはまた……振り回されているわね……」


 幻が苦笑を浮かべる。


「大変だった……」


「まあ、そこら辺がいわゆる『おもしれー女』みたいなところではあるけれどね……」


「傍から見ればな……」


 幻の言葉に現も苦笑気味に答える。


「おもしれーのは否定しねえが……」


「なにかあるのか?」


 現が陽炎に尋ねる。


「バンド名だよ、勝手に決めるのはどうなんだ?」


「ああ、それはまあ確かにな……」


 現が頷く。


「ちょっとどうかと思うぜ?」


「では、考えてみたらどうだ?」


「え?」


「何か提案があれば、耳を傾けるくらいの器量はあるさ」


「う~ん……」


「まあ、それは別に後でもいいのだが……」


「いや、ちょっと待て! せっかくだから今考える!」


「ええ?」


「皆も考えようぜ!」


 陽炎が呼びかける。


「バンド名ね……」


「ふむ……」


 幻と刹那も考え始める。


「おいおい……まあ、ボーカルがまだ来ていないから自由時間みたいなものだが……」


 現が後頭部を抑える。それからやや間を置いて……。


「はい!」


 陽炎が右手を勢いよく挙げる。


「え、これ、挙手制だったのか……?」


 現が首を捻る。


「はい! はい!」


「しかも私が仕切りみたいな流れ……⁉」


 現が困惑する。


「はい! はい! はい!」


「あ~分かった、分かった、陽炎!」


 現が陽炎を指名する。


「はい! ……『サンシャインバーニング』!」


「却下」


「そ、即答! 早すぎじゃねえか⁉」


「陽炎を単純に英語に訳しただけだろう」


「ほう、そこに気が付くとは……なかなかやるじゃあねえか」


「厳密には『陽炎』の英訳は全然違うし、何故にお前個人を押し出したバンド名なんだ……」


「『~&フレンズ』とか付けても別に良いぜ?」


「いい、別に友達にはなりたくない」


「酷えな⁉」


「……はい」


「刹那」


 現が刹那を指名する。


「……『シャッテンウンドリヒト』」


「次……」


「ちょ、ちょっと待って、意味すら聞かないの⁉」


「それはドイツ語だろう? 何か中二病っぽいからな……」


「偏見が酷いな! ちゃんと意味があるから!」


「……意味は?」


 声を上げる刹那に現が尋ねる。


「『影と光』だよ」


「結構単純だな……」


「山陰山陽地方出身者であるということをアピールする為にね……」


「由来を説明するとき、何か恥ずかしいから却下だな」


「ええっ⁉ 今、この時代だからこそ、地元愛というものを押し出すべきだよ!」


「はい……」


「幻」


 現が幻を指名する。


「最近は文章みたいなバンド名が流行っているわよね?」


「前置きをしだした……そうだな」


「……『お嬢様がバンドを組んでみたらわりと良い音楽を奏でるのだが?』はどう?」


「長いな!」


「わりと良いって、謙遜しているところがポイントで……」


「ポイントとかどうでも良い! 大体なんだ、バンド名『のだが?』って!」


「最終的には略して『?』って呼ばれるの……」


「それならば文章にする意味が無いだろう!」


 現の声がスタジオ内に響く。

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