第3話(2)意外な交友関係

「……」


 廊下を歩いていた甘美は教室から一斉に出てくる学生たちに遭遇する。


「ああ、講義終了の時間ですか……ん?」


「ふふっ……」


「ははっ……」


「!」


 甘美は驚く。何に驚いたかというと、自分以外の誰かと話す現の姿があったからだ。しかもにこやかに。甘美は歩調を速め、二人に近づき、耳を澄ませる。


「さすがね……」


「そんなことはありません……」


「知らなかったわ」


「そうですか?」


「すごいわね」


「いえいえ……」


「センスを感じるわ」


「まあ、それは否定しませんが」


「そうなんだ」


「そうなんです……」


「んん?」


 甘美が首を傾げる。


「あ、私、次こっちだから……」


「ああ、はい」


「それじゃあね」


「ええ……」


 現と女性が別れる。


「……随分と楽しそうでしたね」


「うおっ⁉」


 いきなり背後から甘美に声をかけられた現は珍しく動揺する。


「ふっ……」


「な、なんだ甘美か……」


盛り上がっていましたわね……」


 甘美は女性の歩いて行った方に視線を向けて呟く。


「い、一応ってなんだ……あれくらいのトーク力は私にも備わっている……」


「へえ……」


 甘美が笑みを浮かべる。


「……なんだその笑みは?」


「いえ、なんでもありませんわ」


「嘘を吐くな、なんかあるだろう」


「分かります?」


「ああ、それなりの付き合いだからな」


 現が頷く。


「まあ、それはともかく……」


「話を変えるな」


「驚きました」


「なにがだ?」


「まさか貴女にご学友がいらっしゃるとはね」


「人をなんだと思っている?」


「変人よりの奇人」


「散々なイメージだな!」


「だから驚いたのです。しかし……」


「しかし?」


「あのような方、同期生にいましたかしら?」


 甘美が首を捻る。


「いないよ」


「いない?」


「ああ」


「それではまさか……幽霊⁉」


 甘美が開いた口を広げた掌で覆う。


「……何故にしてそうなる?」


 現がジト目で甘美を見つめる。


「だって巫女姿の貴女と話している、本来存在しないはずの学生……幽霊としか考えられないではありませんか!」


「そう、実はお祓いの途中だったのだ……って、そんなわけがないだろう」


 現が珍しくノリツッコミをする。


「違うのですか?」


「ああ、違うといえば、彼女は学年が違う」


「学年が違う……」


「そう、4年生の伊藤夏美さんだ」


「ふ~ん、講義が一緒になって、話すようになったと……」


「まあ、そんなところだ。ある意味お祓いも兼ねているかな……」


「ん?」


「甘美、明日の午前中は事務所に集合だ」


「おっ、お客様ですわね?」


「ああ……」


 翌日、二人は事務所にいた。甘美が時計を見て呟く。


「そろそろ約束の時間ですわね……」


「そうだな……」


 現が机の引き出しをごそごそとあさる。


「……何をやっているのですか?」


「あった、あった、甘美、これをかけろ」


 現は甘美に手渡す。甘美が受け取った物を見る。


「これは……いつぞやのパリピメガネ……何故これを?」


「いいからかけろ……素性がバレるとマズい」


「これでバレないのが不思議でしょうがないですわ……」


 現が派手なサングラスをかける。甘美もぶつぶつと言いながらかける。


「す、すみません……」


「どうぞ、お入り下さい」


「し、失礼します……」


「⁉」


 甘美が驚く。前日現と話していた伊藤夏美が来たからである。


「こちらにおかけください」


「は、はい……」


 伊藤がチェアに座る。現がその傍らに立って、話を始める。


「伊藤夏美さん……お電話などで詳細は伺っておりますので、早速ではありますが、セラピーの方に入らせて頂きます」


「あ、は、はい……お願いします……」


「失礼……♪」


「zzz……」


 現が鈴を鳴らし、伊藤を眠らせる。現がサングラスを外す。


「さて……」


「お祓いも兼ねているとおっしゃっていたのはこういうことですの?」


「ああ、お悩みを抱えてらっしゃるということなのでな……こちらに誘導した」


「学内の占い屋では駄目でしたの? こちらに学生の方を呼ぶのは……」


「実家が太いようだからな……いくらかお代を頂戴しても罰は当たるまい」


「確かにブランド品で固めていますわね……それにしても……」


「もちろん、やることはしっかりとやるさ、行くぞ」


「はいはい……」


 現と甘美は夢世界に向かう。

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