第2話(1)思わぬ来訪客
2
「ふう……」
甘美が大学の廊下を歩いていると、現を見つける。
「……」
「現」
甘美が現に声をかける。現は立ち止まって振り返る。
「ん? なんだ、甘美か……」
現は再び歩き出す。
「なんだとはご挨拶ですわね」
甘美が並びかける。
「何の用だ?」
「用が無ければ声をかけてはいけないのですか?」
「つまり用が無いんだな」
「こんなところを歩いているなんて意外ですわね」
「大学の学生が大学内を歩いているのが意外か?」
「今日はインチキ占いはやらないのですか?」
「インチキとはご挨拶だな」
「事実を申し上げたまでです」
「インチキ呼ばわりは心外だ」
「まあ、それは置いといて……」
「置いとくのか」
「占いは?」
「……私は占い師ではない」
「え? そうだったのですか?」
甘美が目を丸くする。
「なんだ、そのリアクションは……」
「てっきり占い師だとばかり思っていましたわ」
「占いはニーズがあるからやっているまで……」
「ほう」
「本業はあくまでも学生だ……今も講義終わりだ」
「へえ、学生さんですか……」
「ああ」
「最近の学生さんはこういう服を着られるのですね」
甘美は現の巫女衣装の袖を指で掴む。
「……服装は人の自由だろう」
「それにしても目立ちますわよ」
「そうでもないぞ」
「え?」
「世の中変わった奴が多いからな、この程度では案外目立たないものだ」
「そうでしょうか」
「そうだ」
「ふ~ん……」
甘美が目を細めて現の姿を見る。
「大体だな……」
「なんですか?」
「お前と歩いている方がよっぽど目立つ」
「そうですか?」
「ああ、ジロジロと視線を感じてしょうがない……」
「それは確かに……」
「自覚はあるんだな」
「はあ……有名人は辛いですわね……」
甘美はため息交じりで髪をかき上げる。
「辛いね……言葉とは裏腹に嬉しそうだが」
「ええ?」
甘美がわざとらしく首をすくめる。
「誤魔化すな、注目されて悪い気はしないだろう?」
「まあ、否定はしませんわ」
「やはりな」
「ただ、もっと注目されるのが目標ですから」
「目標ね」
「いいえ、目標と言うか、夢ですわね」
「夢か」
「ええ」
「実現すると良いな」
「随分と他人事ですわね」
「それはもちろん。他人だからな」
「貴女も一緒ですわよ」
「なに?」
現が立ち止まって甘美に視線を向ける。
「わたくしたちは音楽で有名に……世界的なスターになるのですから」
「……本気で言っているのか?」
「わたくしはいつだって本気ですわ」
「ふっ、そうだな、お前はそういう奴だ」
現が笑って、再び歩き出す。
「というわけで今月はスタジオ練習をもうちょっと増やしますわよ」
「う~ん……」
現が首を傾げる。
「あら、なにか都合が悪いのですか?」
「私は特に問題ないが、お前だ」
「わたくし?」
「ゼミの田中教授……知っているだろう」
「ええ、それはもちろん」
「課題などもかなりの量を出すようだぞ。自分の研究発表の時だけ一生懸命やっていれば良いというわけではないらしい」
「ふむ……」
「よっぽどのことがなければ、休むのも認めないそうだ。かなり気難しい方みたいだな。よってバンド練習にばかりかまけてもいられん」
「それとこれとは話が別でしょう」
「スターが留年していて良いのか?」
「ぐっ……な、なあに、かえって箔が付くというものですわ」
「このご時世、だらしのない人間というイメージを持たれるだけだと思うがな……」
「ぐぐっ……と、とにかく、スタジオ練習はしますわよ」
「まあそれは構わんが、スタジオ代だって馬鹿にならんだろう」
「それなのですわ、問題は……」
甘美が腕を組む。
「家には頼らないんだな」
「それでは意味がありませんわ!」
「ならばアルバイトでもするか?」
「そうなると、時間が足りなくなるのですわ……やはり夢世界攻略が一番、効率が良いですわね……事務所の方に来た依頼は?」
「そうそう来ない……と言いたいところだが、来ているぞ」
「! 本当ですの?」
「ああ……続きは事務所でな……」
二人は事務所に移動する。大学からほど近い雑居ビルの一室だ。特別なつてによって、安く借りることが出来た。そこに中年男性が尋ねてくる。
「失礼……」
「田中教授⁉」
思わぬ来訪客に甘美は驚く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます