鈍感力
俺が朝起きてすぐやることは歯を磨くこと。食事をする前に、口内の細菌を掻き出した方がいいというのが今の医学の常識らしい。その時、暇だからスマホでYouTubeを流す。大体、英語のドキュメンタリーなどの聞き流しをやっている。今朝、たまたま流れて来たのがジョン・トラボルタの生涯についてだった。ファンではないけど、なぜか見ようと思った。
十代の頃は映画が大好きだった。ハリウッドにも憧れていた。その後、ほとんど映画を見なくなったから、ジョン・トラボルタというと「サタデーナイトフィーバー」のイメージで止まっている。この人は「パルプフィクション」で復活するまでは、時代遅れの俳優といういう位置づけだったと思う。
ジョンは「サタデーナイトフィーバー」に出演当時は二十歳くらいの若者だったが、十八歳年上のシングルマザーの女優と交際していたそうだ。世間からは冷ややかな目で見られていたが、二人は交際を続け、結婚しようとまで思っていたらしい。しかし、相手の女性は末期の乳がんが見つかり、一年後くらいに死去してしまう。その後、ジョンは長らく悲しみに沈んでいたが、仕事を再開。やがてミュージカル映画などに出演し明るさを取り戻して行った。
そして、新しい女性と出会い結婚。
その後、三人の子どもを授かるが、長男が二歳の時に川崎病にかかり、十六歳の時に、卒中を起こし死亡。実はこの長男は自閉症で、時々、てんかんの発作を起こしていたということだったということだ。事故当時は、両親が息子に薬を飲ませていなかったからと言われたいたが、薬が効かなくなったせいで、飲んでいなかったというのは本当のようだ。
「子どもを亡くすというのは、人生で想像しうる最大の悲劇だ。今を当たり前と思わずに、できるだけ家族との時間を過ごしてください…」という趣旨のコメントを出していた。
その後、悲劇はさらに続き、妻も十年後、乳がんで亡くなってしまった。まだ五十代後半だった。
ジョン・トラボルタと言えば、トム・クルーズと同じサイエントロジーという宗教に入信していることでも知られている。それから、飛行機マニアでジェット機の操縦免許までも取得している。彼は飛行機を操縦した時に、空の上にとどまって、天国の家族と対話しているそうである。
こういう話を聞くと、俺は本当に愛する人をまだ失っていないと思う。
両親は亡くなったが、ショックで立ち直れないということはなかった。薄情だと思うかもしれないが、どちらも持病があったからだ。少しづつ弱って亡くなって行ったから受け入れられた。しかも、もともと両親と不仲だったのである。それに、これまで、ひどい失恋を経験したこともない。人に思い入れがないからというのもある。今まで何人かに遠回しに鈍感だと言われたことがある。
今までさんざん嫌な人間と出会って来たけど、そういう人の方が実は様々な悲しみを抱えて生きているのかもしれないと思う。(正直言って、不幸でいてほしいと心から思っている)
俺がその人たちを今でも恨んでいたとしても、その人たちの記憶から俺は完全に消え去っている。誰も俺のことなんか思い出さないし、思い出したとしても、いい意味ではない。
俺はもっと豊かな人生を送らなくてはいけないし、今ある幸せをかみしめなくてはいけないのかもしれないと、今日思った。今までそう思っていなかったとは、本当に俺の精神は薄っぺらすぎる。幸せというのは物質的な尺度では測れない。仕事があるとか、家があるとかではない。どちらもあの世には持って行けない。
しかし、愛する誰かと過ごした幸せな記憶というのは、あの世でも消えることはないだろう。
例えば愛する人がいるとして、その人が〇んだり、いなくなってしまうのに比べたら、会社に嫌な人がいて…というのは、正直どうでもいいことのように思う。そのせいで精神を病んでしまう人もいるのが現実ではあるが。
話はそれるが、俺だったら、そいつに徹底的に復讐してからやめる。今ならパワハラで訴えるとかだ。やり返さなかったら次に進めないと思う。泣き寝入りしてはいけない。
俺は発達障害だから不幸とは思わない。集団で孤立していても孤独ではない。俺には、興味のない相手との関わりなんて全く意味がないからだ。誰だって内心ではそうだろうけど。一人でいるとキモイ人という烙印を押されるから、集団にいると同化しなくてはいけないような気がしてしまう。俺も昔はそうだった。
しかし、今はもう、人からどう思われても、失敗しても、別に恥ずかしくはない。外では表面だけ合わせているし、家に帰れば自分の空間があって、一緒に過ごしてくれる誰かがいる。それで十分だと思う。
人間、年を取ると、物忘れがひどくなるけど、脳がさび付いて行くのは毎日同じことを繰り返しているかららしい。それが結果的に痴ほうにつながる。誰もが年を取るにつれ感情が無くなって行く。そうでないと辛すぎて生きていけない。親族や身近な人の〇に直面する機会が増えるからだ。
毎日、新しい経験をし、新鮮な感情を自分の中に生み出して行くようにすれば脳は若くいられるらしい。昨日、精神科医の和田秀樹氏の記事で読んだ。
発達障害の人が生まれながらにして、他の人にはない重たい荷物を背負っているとしても、視線を上げて、もっと先を見た方がいいのかもしれない。俺は自分の人生がずっと空っぽだったと思っていたし、今もそう感じている。何の本で読んだか忘れたけど、発達障害にはこういう人が多いらしい。
普通の人は友達や恋人と会って話したり、本を読んだり、趣味に没頭したりするのかもしれない。そしたら、充実した人生と言えるのか。空っぽでない人生とは何なんだろうか。少なくとも、ネットをやって一日終わる生活ではない。俺はストレスがたまるとネットを見てしまう。ゲームをしたり、ネット小説を読んだり、映画を見ているわけではない。今は多くの人がそうかもしれないけど、それよりはやはり他のことをした方がいい。何をしたか説明できない時間を無駄というのかもしれない。
自分を含め、発達障害の人は、自身の内面や過去にこだわり過ぎなければ、これからもっと豊かな人生を送れる気がする。とりあえず今日は外に出かけて、相方のために、初めて行くレストランで食事をしてみることにする。やつは魚介アレルギーなのに、魚を食べてみたいそうだ。ちょっと不安ではある。
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