激甘革命!マジパティ
夜ノ森あかり
誕生編
第1話「マジパティ爆誕!その名はミルフィーユ」
様々なスイーツをモチーフとした家屋や建造物が立ち並ぶ世界・スイーツ界。その世界の大国・シュガトピア王国の北西部では、今まさに相容れぬもの同士の衝突が起こっていた。金属同士がぶつかり合う音、魔力の波導が地面をえぐる音…その音の中で、1人の勇敢な18歳ぐらいの少女が大剣を片手に巨大な黒い影と戦っていた。
彼女の名は「シュトーレン」。赤く長い髪を肩の上で結い上げ、白を基調とした甲冑に身を包むその少女こそ、現在のスイーツ界で「最強」と言われる存在だった。
「でやああああああああああああ!!!!!」
シュトーレンの大剣が黒い影を真っ二つに切り裂くと、黒い影はみるみるうちに光へと溶けていく…誰もがシュトーレンの勝利を確信した。
「ドォンッ!!!!!!!!!!」
黒い影が存在していた場所から爆発が発生し、その爆撃が勇者シュトーレンを包み込んだ。
「勇者さまっ!!!!!」
爆撃はシュトーレンの全身を包み込むや否や、跡形もなく消え去ってしまった。シュトーレンの仲間…シュトーレンを慕う人々や精霊達は、勇者の突然の失踪に心を痛め、悲しんだ。
5年後、人間界―
埼玉県
「いらっしゃいませー!」
小洒落たカフェ「ルーヴル」の扉を、金髪で20代の青年が扉を開ける。一見チャラチャラしているような青年ではあるが、元々彼はスイーツ界の住人で、勇者シュトーレン行方を追って人間界にやって来た獣人・トルテである。彼は「
開店したばかりのカフェにそれなりの客が出入りするうちに、時刻は昼頃になりつつある。そんなカフェ「ルーヴル」の前に、1組の中学生の男女がやってくる。ブラウンに白のラインが入ったブレザーに黒のスラックスの少年は、まだ小学校高学年と見間違えるほどの体格ではあるが、ネクタイの色が赤であることから、木苺ヶ丘の高台にある学校・サン・ジェルマン学園中等部の2年生であるという事がうかがえる。彼の隣にいる少女もまた、サン・ジェルマン学園中等部の制服姿で、赤に白いラインの入ったピンクのセーラージャケットがとても可愛らしい。
「ったく…何様のつもりだよ…
彼の名は「
「新学期早々、また氷見くんに何か言われたの?1年生の時からずーっとだね…」
一悟の愚痴を聞いている少女は「
「俺のことはまだいいとして、みるくのことを罵倒した以上、今日という今日は絶対に許せねぇっ!!!」
2人は交際しているのかと思ったら、そうではない。この2人は赤子の頃から家が隣同士で、家族ぐるみでの付き合いが現在も続いている。単なる幼馴染同士である。
「でも…いちいちいっくんが突っかかるから…」
幼馴染の愚痴に、みるくは呆れた表情を浮かべながらため息をついた。
「お前も「米沢はいつも千葉の隣でおめでたい奴だな」って言われて悔しくねぇのかよっ!!!」
「そ…それは…でも…」
幼馴染の言葉に、みるくは少々戸惑うが…
「あたし…いっくんの傍に居られるなら、何を言われても気にしないもんっ!!!」
顔を真っ赤に染め上げながら、みるくは幼馴染に向かって叫んだ。
「大体…あたしは氷見くんのこと苦手だし…氷見くんはいつもいっくんに意地悪ばっかり…」
幼馴染に悟られぬよう、みるくは心の中で本音を呟くと、一件のカフェが目に留まった。
「だから、ちょっとカフェでお喋りしよっか?ここのカフェ、今日オープンしたんだって?」
そう言いながら、みるくはカフェ「ルーヴル」の看板を指さすが…
「コーヒーは飲みてぇけど、今日はやめとくわ。時間に遅れちまうし。」
一悟は申し訳なさそうな表情で幼馴染の提案を断ってしまった。
「そっか…今日は極真空手の練習があるんだったね?それじゃあ、また今度にしようか。」
みるくがそう言うと、一悟は少し申し訳なさそうに頷き、そのまま道場のある方向へと行ってしまった。
そんな2人が後にカフェ「ルーヴル」の面々と関わることになるとは、この時は誰も予想していなかったのである。
夕刻になり、練習を終えて木苺ヶ丘の極真会館を出たばかりの一悟は、ぐんと背伸びをした。
「やっぱり、空手はプロから教わるに限るぜーっ!!!」
サン・ジェルマン学園では中等部のみ部活動が強制なのだが、一悟は部活に入っていない。というのもサン・ジェルマン学園の空手部が高等部にのみ存在している上に、一悟自身が極真空手以外にやりたいものがなく、小学生時代から通っている極真会館の面々を一悟が気に入っているからである。その部活動に消極的な姿勢が、クラスメイトで、生徒会のメンバーである氷見雪斗に目を付けられる一因なのであるが。
「ぁぁぁぁあああああああああ」
一悟が自宅へ帰ろうとするや否や、一悟の頭上から声がした。一悟がふと空を見上げると、空から白髪でツインテールの少女が降ってきた。少女は一悟が避けるスキを与えないほど急降下し、一悟の顔面にぶつかった。
「んがっ…」
一悟が辺りを見渡すと、そこには小さな白い無傷のマグカップが落ちているだけだった。
「何でこんなトコにマグカップが…てゆーか、何で割れなかったんだ?」
「あたた…」
突然、マグカップの方から声がした。一悟はそっとのぞき込むと、マグカップの中から白髪でツインテールの少女が顔を出した。
「女の…子?」
「ぶ、ぶつかってごめんなひゃい…勇者さま捜しに人間界に降りて…」
ご丁寧にも少女の鼻のあたりには、バツ印の絆創膏が貼られている。
「勇者…さま?」
その時だった。一悟は自身の背後から、邪悪な気配を感じ、咄嗟に振り向くと、そこには藍色のシルクハットを被った、やや緑がかった白髪に両耳を尖らせた紳士が立っていた。
「困ったちゃん精霊…ラテ!勝手に勇者さまを捜しに人間界にやってくるなど…」
「ムッシュ…エクレール!!!」
マグカップの中に入った少女は、「ラテ」と言った。そして、紳士の名は「ムッシュ・エクレール」。そんな2人を見て、一悟はどうすればよいのかわからなくなり始めるが、彼はムッシュ・エクレールの右手にこげ茶色のマグカップに入った小さな少年の姿を見つけた。
「一体…どういう事なんだ?」
「少年よ…その白いマグカップを私によこしたまえ。大人しく渡せば、危害は加えん。」
ムッシュ・エクレールは、きょとんとした表情で首をかしげる一悟に向かってそう言うが、一悟は…
「そう言って、「ハイ、そうですか」で済むワケねーだろっ!!!潔く渡すかってんだ!!」
この非現実的な状況が何なのかわからないながらも、ラテ達にとって危険な状況である事を感じ取った一悟は、そう言いながら走りだす。そんな一悟の言葉に憤慨したムッシュ・エクレールは、左手をたまたま居合わせた通行人に向け、黒いオーラを放った。
「少年よ…この私に歯向かった事を公開するがいい!!!出でよ、我が下僕・カオスイーツ!!!!!」
黒いオーラを受けた通行人のサラリーマンは、断末魔の叫びをあげるや否や、みるみるうちに姿を巨大なショートケーキの化け物へと変化を遂げた。
「な、なんじゃありゃーっ!!!!!」
「あれはカオスイーツです!!!人間の負の感情を引き出し、スイーツと合体させたモンスター…」
ラテは一悟に説明するが、一悟は突然の非現実にイマイチ状況が飲み込めていない。ショートケーキカオスイーツは、ラテを抱えて逃げる一悟を追いかける。
「うわあああああああああああ!!!!!」
そんな一悟の叫びに、こげ茶色のマグカップの中に居る少年は目を覚ました。
「…!?お、おっぱいデカい子、はっけーん!!!」
少年はマグカップごとムッシュ・エクレールの手から飛び出した。彼の目の前に見えたのは、クリーム色とオレンジ色のワンピース姿のみるくだった。
「いっくん!!!どうしちゃったの?」
「逃げろ、みるく!!!」
偶然通りかかった幼馴染に向かって一悟はそう言うが、みるくは何が何だかわからず、幼馴染の背後の化け物を見るや否や、言葉を失うと同時に硬直してしまった。
「ちょうどいい!!!カオスイーツ、その少女を捕らえなさい!!」
「きゃああああああああああ!!!」
「みるく!!!!!」
ムッシュ・エクレールの言葉に反応したショートケーキカオスイーツは、みるくを白いホイップクリーム状の触手で、いとも簡単に捕らえてしまった。
「ニャロー…ココア様の可愛いおっぱいちゃんに何てことしやがんだ!!!」
今までムッシュ・エクレールに捕まっていた少年は「ココア」と言った。ココアの言葉に、ラテは少々機嫌が悪い。
「くらえ、必殺の追いカカオファッサーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
ココアはココアパウダーをショートケーキカオスイーツに振りかけようとするが、カオスイーツは身体から新たなホイップクリーム状の触手を伸ばし、ココアを弾き飛ばした。
「んがっ!!!」
ココアはマグカップごと地面にたたきつけられ、それと同時に気を失ってしまった。
幼馴染が捕まり、その幼馴染を助けようとした小さな少年の姿を見て、一悟の心の中に何かが芽生え始める。
「みるくを縛り上げて…こんな小さい子にまで…許さねぇ…ぜってー許さねぇっ!!!!!」
一悟の叫びに呼応するかのように、桃色の光が放たれ、彼の前にピンク色のハート型の宝石と羽根の形をした飾りのついた銀色のティースプーンが現れた。
「こ…これは…」
「それは、ブレイブスプーンですっ!!!」
突然現れた銀色のティースプーンを見るや否や、ラテは一悟に向かってそう告げた。
「カオスイーツを浄化させられるのは、今…あなたしかいないんですっ!!!今すぐそのスプーンを空高く掲げて下さい!」
「な、何だかよくわかんねぇけど…」
ラテの言葉に、一悟は戸惑いつつも銀色のティースプーンを空高く掲げた。
「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」
一悟は脳裏によぎった呪文を叫んだ。
「でっかくなれば…みるくを守れるんだ…」
ブレイブスプーンを空高く掲げた一悟の頭にはそれしか考えられなかった。一悟の全身は桃色の空間に包まれ、ほぼ同時に一悟の身体は白く発光し、童顔低身長の一悟の身体は、太ももにまで達するほどのピンク色のロングヘアーで背の高いスレンダーな少女の身体に変わった。スレンダーな身体には肩から腰にかけて、ピンクを基調としたコルセットのついた白いパフスリーブのトップスに覆われ、お尻は赤紫色のスパッツと、白いフリルのついた赤紫色のプリーツスカートで覆われる。さらに麗しい脚線美を赤紫色のハイソックスとトップスと似たような色調のショートブーツで足元を飾る。長身の少女の身体になった一悟は後方に飛び上がると、両手は赤いリボンにショートブーツと同じ水色のハートに羽根の飾りのついたフリルの手袋が現れ、更に髪はポニーテールに結われ、結び目は水色のハートに羽根の飾りのついた赤のリボンで飾られる。両耳はリボンの飾りと同じようなイヤリングが付けられ、もみあげの毛先はくるんと丸まった。
腰には水色の宝石のついたチェーンが現れ、その中央にブレイブスプーンが付けられる。それと同時に、一悟の瞳の色はオレンジから紫色へと変化し、変身完了の合図となる。
「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」
ハイキック、正拳突きなどを決めながら、一悟は長身の少女・ミルフィーユへと変身を遂げた。
「や…やっぱり、伝説は本当でしたっ!!!勇者さまのピンチに現れる勇者さまの能力を受け継ぐ者たち…マジパティ…」
感激するラテの言葉に、一悟はハッとした。確かに目の高さは普段より違う。だが、普段より声が高い上に、白とピンク系の衣装を見て、驚かずにはいられない。
「な…なんだよ、これーっ!!!!!」
「説明はあと!戦ってくださいっ!!!」
恥じらいを感じる一悟を尻目に、ラテはミルフィーユに戦うよう促す。
「勇者さまの能力を受け継ぐ者…マジパティ…えぇいっ!カオスイーツ、マジパティを倒しなさいっ!!!!」
ショートケーキカオスイーツは、ミルフィーユの足元に向かって攻撃をするが、ミルフィーユは咄嗟によけた。
「わわっ!!!」
攻撃を避けたミルフィーユだが、勢い余って夕焼け色に染まる木苺ヶ丘上空へと飛び上がってしまった。
「うわっ!!!飛びすぎたーっ!!!!!」
そう言いながらミルフィーユは急降下するが、ただ急降下するだけでなく、化け物相手にキックを決めようとする辺りが彼女(今は)らしい。
「ミルフィーユスクリューキーーーーーーーーーーーーーック!!!」
回転を加えた激しいキックで、ショートケーキカオスイーツは思わずみるくを白いホイップクリーム状の触手から解放してしまった。
「みるく!!!」
ミルフィーユはみるくを優しく受け止め、電柱の影に避難させた。
「ミルフィーユ!マジパティの力を使ってカオスイーツを浄化させてくださいっ!!!」
ラテの言葉に応えるかのように、ミルフィーユは右手を前に突き出し、ピンクの光から脳裏に浮かんだ武器を生成した。
「ミルフィーユグレイブ!!!」
ピンク色の棒に白銀の装飾と刃が付いた薙刀…これこそが、ミルフィーユの専用武器である。薙刀を手に取ったミルフィーユは、目の前のカオスイーツに向かって飛び上がり、薙刀を振りかざす。
「ミルフィーユパニッシュ!!!!!!!!!」
その叫びと同時に、ショートケーキカオスイーツの断末魔の叫びが響き渡る。
「アデュー♪」
カオスイーツに背を向けた状態のミルフィーユは、カオスイーツに挨拶をすると、カオスイーツは怪物の姿から本来の姿へと戻っていく…
「くそっ!!!覚えてなさい、マジパティ!!!!!私の下僕を真っ二つにした代償は必ずや…」
カオスイーツを失ったムッシュ・エクレールは、ミルフィーユにそう吐き捨てるや否や、「フッ」と音を立てつつどこかへ去っていった。
「流石ですーっ!!!」
白いマグカップに身体を入れたまま、ラテはミルフィーユの所へと駆け寄った。
「もう無我夢中だけどな…ところで、男の子の方は…?」
「ココアならあの通り…」
めちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしながら、ラテはミルフィーユの問いに答える。彼女の指さす先には無傷のこげ茶色のマグカップに身体を入れたココアの姿がある。
「はぁ~…おっぱいちゃんが無事でよかったぁ~…」
「コ~コ~ア~~~~~~~」
ラテから放たれる殺気に、ココアは咄嗟に身の危険を感じ取った。
「何はともあれ、お前もみるくも無事でよかった。俺、千葉一悟!よろしくな!!!」
「改めまして、スイーツ界の精霊のラテです!こっちにいる変態精霊はココアと言います。」
「うわっ…さりげなくひでぇこと言うなぁ…」
ミルフィーユとスイーツ界の精霊が互いを紹介しあう光景を、あんず色のセミロングの女性が見つめる…
「千葉一悟が勇者の力を受け継いだマジパティ…ミルフィーユ…面白い事になってきました…大至急マスター達に報告せねば。」
その女性は急いで白いポルシェに乗り込むと、カフェ「ルーヴル」のある方角へ車を走らせたのだった。
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