幽霊が出たので本棚を買った話

藍内 友紀

第1話 新居

 今でこそ、実話怪談を書いているわたしですが、幼いころは幽霊など気に留めたこともありませんでした。

 不思議な体験をしたり、存在するはずのない誰かと話した記憶があったりと、よく考えればなにかしら視ていたようにも思うのですが、それを怖いと感じたことがなかったのです。

 母ひとり子ひとり、親類縁者ナシ、という環境にいたわたしにとっては、母に見捨てられるかも知れない、という恐怖以外は些事でした。母以外を気にかける心の余裕がなかったともいえます。


 わたしが初めてソレを意識したのは小学校三年生のころ、それまで住んでいた賃貸住宅から一軒家に引っ越してからでした。

 その家は以降、壁の向こうからオルゴールの音が聞こえたり、局所的にお線香のにおいがしたり、と不思議なことが続くのですが、事故物件ではないはずです。


 なんの変哲もない、小さな家でした。一階にはキッチンとリビングダイニング、風呂とトイレ。二階には和室が二間あるだけです。

 それでも、わたしはひどく安心したのです。

 母は、わたしのことはともかく、ローンを払っている持家を置いて消えたりはしないだろう、と思えたからです。


 ソレに気がついたのは引っ越しからひと月ほどが経ち、荷ほどきが落ち着いたころでした。


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