幽霊が出たので本棚を買った話
藍内 友紀
第1話 新居
今でこそ、実話怪談を書いているわたしですが、幼いころは幽霊など気に留めたこともありませんでした。
不思議な体験をしたり、存在するはずのない誰かと話した記憶があったりと、よく考えればなにかしら視ていたようにも思うのですが、それを怖いと感じたことがなかったのです。
母ひとり子ひとり、親類縁者ナシ、という環境にいたわたしにとっては、母に見捨てられるかも知れない、という恐怖以外は些事でした。母以外を気にかける心の余裕がなかったともいえます。
わたしが初めてソレを意識したのは小学校三年生のころ、それまで住んでいた賃貸住宅から一軒家に引っ越してからでした。
その家は以降、壁の向こうからオルゴールの音が聞こえたり、局所的にお線香のにおいがしたり、と不思議なことが続くのですが、事故物件ではないはずです。
なんの変哲もない、小さな家でした。一階にはキッチンとリビングダイニング、風呂とトイレ。二階には和室が二間あるだけです。
それでも、わたしはひどく安心したのです。
母は、わたしのことはともかく、ローンを払っている持家を置いて消えたりはしないだろう、と思えたからです。
ソレに気がついたのは引っ越しからひと月ほどが経ち、荷ほどきが落ち着いたころでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます