飴玉は口の中で転がって甘く溶けて

雨宮踏葉

「ん?『わころねです!ろねりすになって今日で5年目です。僕にとって転音ころねちゃんは天使です。愛してます!これからもずっと推し続けます‼︎』ありがと〜!転音を推して5年も⁉︎嬉しいな〜。転音も“ろねりす”のこと、愛してるよっ❤︎これからも転音のこと、ずっと見ててね〜‼︎」


「『こんばんは。初見です。』…初見さんいらっしゃい!ゆっくりしていってね〜。もし良かったらあとでサポート、通知の登録、それとTwitterフォローの3点セット、よろしくねっ♪私のこと、推してくれたら嬉しいなっ」


私はごえ系配信者“飴玉あめだまころ”。転音は活動名で本名は倉本くらもとあま。私は自分のリスナーさんのことを“ろねりす”って呼んでる。この活動を始めて8年。Twitterのフォロワー数は3000人をつい数日前に越したくらい。配信の同接数は今で37人。…自分でも人気のない配信者なのは分かってる…どんどん才能がある新人さんやグループ系の配信者さん、歌い手さんに抜かされて……それでも辞めるに辞められなくてずるずるとこの活動を続けている。ただ、最近は特に新規のリスナーさんが増えないのに既存のリスナーさんはだんだんと離れて私の配信に来てくれなくなってしまって、、、閲覧を増やすためにどうにか初見さんをここで上手くつかんでおかないと…‼︎


〜30分後〜


「それじゃ、おやすみなさ〜い❤︎おつろねっ‼︎」

       [配信終了]

         ↖︎ カチッ


はぁ、、これでも前は楽しかったんだけどな…

2年前は……










𓈒 𓏸 𓐍 𓂃 𓈒𓏸 𓂃◌𓈒𓐍 𓈒 𓏸 𓐍 𓂃 𓈒𓏸 𓂃◌𓈒𓐍 𓈒 𓏸 𓐍 𓂃


〜2年前〜


「『初見です。声可愛いですね。』ありがと〜!

はじめまして。飴玉転音です。普段配信では雑談枠とか歌枠とかやってみんなとワイワイ楽しんで、私の声で私のリスナーさん、ろねりすのことを癒す活動をしています。よろしくねっ!」


「“ろねりす子”、お茶爆50ありがとっ!コメントもたくさん、ありがとね。」


この頃の私は数字なんかあまり気にしないで、のびのびと純粋に楽しんで活動をできていた。充実感もあった。


「今日も私の配信に来てくれてありがとう。楽しかったよ‪‪❤︎‬それじゃあ…おつろねっ!おやすみなさい。」

      [配信終了]

         ↖︎ カチッ


それに、活動以外のことも充実していた。私には“ろねりす”にも言っていない、プライベートでは彼氏もいて……


「みんな、今日もボクの配信、見に来てくれてありがとね。おやすみっ‼︎おつリク〜」

      [配信終了]

         ↖︎ カチッ


「ふぅ〜、配信終わったー、今日も疲れた……

あれっ、甘音の方が俺より先に配信終わってたんだ。おつ〜」


今リビングに入ってきた彼はリク。本名は更級さらしなりく。彼は私と同業者。活動歴は私の方が少しだけ長いけどほとんど同じくらい。リクは今波に乗って伸び始めている女性に人気な新人歌しんじんうたグループ“Magical Trip”りゃくして「まじりぷ」のベビーピンク担当、ショタボが売りの末っ子キャラで活動している。


「おつかれ陸斗。そういえば陸斗のチャンネル登録者数、5万人越したね。おめでと〜!次は目指せ10万人、だね。本当にすごいよ〜‼︎」


「ありがと〜、今俺が今度のグループのライブに向けた準備で忙しいけど、それが終わって一段落ひとだんらくしたら籍を入れたりとか結婚式の準備とかさ…本格的に始めたいと思ってるんだけど、どう?」


「そうだね。私は陸斗のスケジュールに合わせるよ。私なんかより陸斗の方が普段から忙しいんだし。ってゆーか私はなんで陸斗と同じくらい…なんなら私の方が長く活動してるのに伸びないんだろ、、、私ももっと人気になりたいな〜」


「甘音は今のままで全然いいだろ。十分努力してるし。向上心があるのは偉いことなんだけどさ…“ろねりす”増えたら俺も嬉しい、嬉しい…んだけど、、‼︎ 俺、けちゃうかも。俺だって甘音のガチ初期の頃からの古参こさんろねりすだし!」


…あぁ〜、私は陸斗のこういうところ、好きだなぁ…普段はおもてでショタボのあざと可愛いキャラで売ってるけど、私といる時はいつも自分のことって言ったりしてて、、たしかにカッコいいんだけど可愛いなあ…

陸斗は私がこの活動を始めたばかりの頃からよく私の配信に来てくれていたかなりの古参ろねりす。たびたび私にファンとしてDMを送ってくれて、転音さんのファンです、転音さんの声が好きです、って言ってくれた。私のチェキ会とか、ライブにも来てくれてた。その後、彼もこの活動を始めた。私は彼のことをろねりすとして認知にんちしていたから、彼が活動をはじめてすぐの頃、同業者としてうらで彼とは連絡をとっていた。そこから仲良くなって、通話をしたり実際に会ったりして、最終的には付き合うことになった。


「…でも陸斗だって女の子のリスナーさん多いし、リアコの子だって沢山たくさんいるでしょ?私より大手おおてなんだからしっかり自分のファンの管理はしてよ?」


「分かってるよ。お互い、籍を入れるまでは特に気をつけて上手うまくやっていこうな。」


互いのリスナーにかくれて付き合うこと5年。転音とリクは一度もコラボ配信をやったり、同じイベントで共演したりしたことはない。配信でも互いの話題を出したことすらない。それに私とリクでは人気に大きな差がある。だからそれぞれのリスナーたちは表でのからみが一切ない私たち2人がまさか付き合っているなどとは思っているはずはなかった。当然、うわさになったりさわがれたりしたこともない。





だが、そんなある日、私の元にある一件のDMが届いた。

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