第33話 情熱の代償2


 数時間前に、デシルが男爵邸から送り出したサリダが、顔色を変えて戻って来た。



「デシル?! デシル、ケガは無いか?! 襲われたと聞いたが?!」

 自分の部屋でのんびりとデシルがお茶を飲んでいると、サリダが挨拶も無しにドカドカと荒々しい足音を立てて入って来る。


「あっ! サリダ様… 大丈夫ですよ」


「本当にそうか?」

  ハァッ… ハァッ… と荒い息をはきながら、サリダがたずねた。


「本当です!」


「・・・・・・」

 椅子に座り、ティーカップをテーブルの皿のに戻しながら、ニコリと笑うデシルを、頭から足の先まで、サリダは険しい瞳でジロジロと調べた。


 カップを置いたデシルの手を取り、サリダはブラウスのそでを上げて、手首をジッ… と見つめ、何かの痕跡こんせきが残っていないかを確認する。


 乱暴された被害者は、自分を守ろうと顔や胸を、とっさに手や腕でかばおうとするため… 手のひらや腕にあとが残ることを、騎士の経験から、サリダは知っているからだ。


 デシルの手首にフリオが強引につかんで引っ張った、クッキリと残る指の痕を見つけ… サリダは眉間にしわをよせ、凶悪な表情でギリギリと歯ぎしりをした。


「クソッ! フリオの野郎… 殺してやる!!」


「大丈夫ですったら! サリダ様、そんなに怒らないで下さい」

 自分を心配して大あわてで騎士団から帰って来た、婚約者の腕をつかみ、デシルは立ち上がると、ギュッ… と大きな身体に抱きついた。

 サリダの長い腕もデシルの華奢きゃしゃな背中を、包み込むように抱きしめる。



「騎士団に知らせに来た使用人から… デシルが乱暴されたと聞いた時、私は…! 本当に… その、大丈夫なのか?! もし、そうでも私に隠す必要は無いから… 奴にうなじを噛まれていても、私は絶対に、君を放す気は無いし!」


 デシルの耳元でサリダはヒソヒソと、もしかして性的に乱暴されたのではないか? と心配している様子だった。


「心配してくれて嬉しいよ… サリダ様! でも、ほら見て!」

 うわっ…! まさか、ここまでサリダ様が言ってくれるなんて… 胸がぎゅんぎゅんする! 大好きサリダ様!!


 長い腕の中で、デシルはごそごそと身体の向きを変え、うなじにかかる金の髪を手で上げて、サリダに噛み痕が無いことを、確かめさせる。



「ああ… 良かった!」

 サリダは白いうなじにキスを落とし… 背後から細い肩にあごを乗せた。


「ふふふふっ… たぶん… フリオの方が、これから大変だと思うけどね! 僕は本当に、大丈夫だから! 少しだけ手を引っ張られて、膝をついたけど… 大丈夫だよサリダ様!」

 まさか… 僕の膝蹴ひざげりにあそこまで威力いりょくがあるとは思わなかったけど… フリオのバカめ! これでフリオが2度と、僕に変な気を起すことも無くなって、すっきりした!!


 白目をいて玄関前で気絶したフリオを、デシルの父は嫌々、医者にせたら… 大切なお宝が2つとも、みごとにつぶれていたらしい。

父は上機嫌でデシルに… 『上手く去勢きょせいできたな』 …と褒めた。


 領地にいるヌブラド伯爵に連絡を送ってあるので、2,3日中にはフリオの迎えが来る予定だ。

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