第32話 情熱の代償


「クソッ…! 何でお前までサリダなんだよ!!」 


「僕とサリダ様のことよりも、君が一緒にけ落ちした、アオラ様はどうしたの?!」

 お前まで? サリダ様が何なの? 本当に、フリオは何を言っているんだか?!



「お… お前には、関係無いだろう?!」


 カッ… と腹を立てていたフリオだが、アオラの名前が出たとたん… デシルの目には、急激に怒りの熱が下がったように見えた。



「僕をすてて、アオラ様を選んで駆け落ちした人が、よくそんな言いかたが出来るね?!」


 自分が着る上着のエリを乱暴につかまれ、興奮して怒鳴り散らすフリオを見るうちに… デシルは長い間、まりに溜まった怒りと屈辱くつじょくが、胸の奥からきあがり抑えられなくなる。


 

「お前だってサリダと、キスしていただろう、デシル?!」


「フリオがアオラ様を選んだからね! 僕には新しい婚約者が必要だったし、せっかくできた婚約者とキスをして、何が悪いんだよ?! 自分は散々、他人の婚約者とキスして、セックスして“つがいちぎり”まで交わしておいて… そんな奴が僕を責める権利、本当にあると思うの?!」


 今まで、ずっと我慢して言えなかったことを、全部言ってやるからな!! このフリオの、ゲス野郎に―――っ!!



「う… うるさい!!」


「それに僕は卒業パーティーで、アオラ様と抱き合ってキスをする君を、止めなかったけどね? 覚えてないの?! 彼女が“運命の番”だと、フリオは大騒ぎしていたでしょう?!」


「黙れデシル!! 生意気なまいきだぞ!」

 さすがにフリオの頬が赤くなった。


「同じ年で、僕が生意気だって?! 君こそ口のききかたに注意してよ! 僕は君の婚約者ではないし! コンドゥシル男爵家は、ヌブラド伯爵家と共同事業も止めた! 僕とフリオは何の関係も無い―――っ!!」

 生意気で、うるさいのはお前の方だ、フリオ!!!


 フリオに負けないよう、デシルは大声で怒鳴った。



「お… お前は昔から、オレのモノなんだよ! お前だってオレに夢中だったじゃないか!! サリダなんかに渡すかよ! オレがお前を“番”にして、可愛がってやるよ!」


「今さら、何をバカなことを言っているんだ!! お前は―――ッ!!」

 僕を“番”にするだって?! このバカがこの僕を?!


 だんだん、怒りの熱はあがって行き、デシルの心は野蛮やばんな気持ちでいっぱいになり… 思いっきりフリオの頬を、バリッ!バリッ!バリッ! …とつめを立てて引っかいた。


「痛ててっ…!! 痛てっ! この野郎!! デシル!!!」

 顔を引っかかれ、フリオはあわててデシルの服を放して、引っかかれた自分の頬に触れる。



「僕を“番”にして可愛がるだって?! 冗談じゃないぞ!! このゲス野郎―――っ!!!」


 顔を引っかかれて動揺したすきを狙い、デシルは怒りに任せて、思いっきりフリオの股間こかん膝蹴ひざげりをしかけた。



「うぐっ…!! ぐうっ…ふぅぅっ……!!」

 その場でフリオはくずれ落ち、地面の上で転がると… しばらくピクピクしていたが、白目をいて動かなくなった。

 


 フリオとの身長差が、ちょうどデシルの膝蹴りに適していたらしく… 

 フリオのお宝は、フリオの本体よりも一足先に、天にされた。



 ちなみに… 相手がサリダの場合、身長差があり過ぎて、デシルの膝蹴りは成功しなかっただろう。





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