第23話 卒業2 サリダside


 卒業パーティーの会場に入ってすぐに、アオラのエスコートをしながら、サリダはデシルを捜した。


 デシルは婚約者のフリオとともに、すぐに見つけたが… 隣にいるアオラのことを考え、サリダは接触するのはもう少し後にしようと、その場で立ち止まる。

 



 公爵邸へアオラを迎えに行くと… 支度が整っていないと待たされ、その間サリダは公爵夫人と2人っきりで話す時間があった。

 恐らく… 公爵夫人がサリダと話をしたくて、アオラの支度をわざと遅らせたのだろう。



『サリダきょう、アオラを3年ほど伯爵家で預かってください… 後は私が離婚できるよう、王弟殿下お兄様を説得しますから』


『公爵夫人、それは…?! アオラ嬢との、契約結婚の提案ですか?!』


『そうです、サリダ卿… それならレセプシオン伯爵家は王弟殿下の命令を、拒んだことにはなりませんし… 実は公爵は、アオラが他の殿方と“つがいちぎり”を交わしたことを知りません!』


『それなら、公爵夫人はいつからアオラ嬢の… その…』


不貞ふていに関しては… あの子が“番の契り”を結んですぐに、本人から聞かされて聞きました… アオラはそうすれば、この婚約が白紙に戻ると思ったようです… ですが、夫は… 公爵は… 厳格げんかくな方ですから、あの子を修道院へ送ろうとするでしょう! ですから…』


『ああ、つまり夫人の独断で考えたのですね?』


『愚かな娘のための恥知らずなお願いだと、重々承知しております! 双方が傷つかないためには、それしか方法が無いように思えるのです! サリダ卿、どうかお願いします! どうか!』


『考えておきます』

 サリダはその場で、公爵夫人にそう答えるしかなかった。

 



「・・・・・・」

 最初から、公爵夫人の計画を聞いていれば… 私も了承していたかもしれない。

 だが、もう遅い! アオラは私を挑発し、レセプシオン伯爵家を侮辱ぶじょくして… アオラ自身がその機会をつぶしてしまった。 

 

 私はデシルと出会い、彼こそが運命の相手だと感じている。

 だからデシルをフリオから救うために、アオラを見捨てることになっても、私は少しも迷わないし、後悔しないだろう。



 隣に立つアオラの顔を見下ろすと… フリオを見つけたらしく、頬を赤らめうっとりと見つめていた。


 3ヶ月ぶりに自分の“番”の姿を見たアオラは… サリダの目には少し興奮気味のように見える。



「アオラ! 最後に君と愛人に話す機会をやるよ!」


「何… 何ですって?!」

 アオラはキッ…! とサリダをにらむ。


「公爵に君の不貞の証拠を見せたら、君を田舎の伯爵領に死ぬまで幽閉することを許可してくれた! 公爵は結婚を止めさせて、修道院へ送りたがっていたが? それよりは良いだろう? だからこれで最後だ!」


「でも、私はあなたが“番”だと言うわ!」


「君と結婚したくて、自分が“番”だとフリオが公爵に告白したのさ! だから君の嘘は、公爵にも王弟殿下にも通じない!」


「そんな… 嘘よ、信じないわ! お母様が絶対に許さないから!」


「君がフリオと会うのは、これで最後だ! 君が話さなくて良いなら、私は別にどうでも良い、後は公爵邸に戻るだけだしな…」 

 公爵夫人にはきっと恨まれるだろうが、構わない! 私はいくらでも、嘘ぐらいつくさ! 私もおどされたのだから、脅し返して何が悪い?!


 アオラの細い手首をつかむと、サリダは面倒そうに、会場の入り口へ向かって歩き出す。



「…嫌っ!!」 


 夢中でアオラはサリダの手を振り払い、フリオに向かって走って行く。


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