第15話 拒絶反応


 報告書を見せられてから、デシルはフリオの裏切りに衝撃を受け、そのことで頭がいっぱいになり… フリオの浮気相手の公爵令嬢アオラの婚約者、サリダのことまで考えが行き届かなかった。


 だが、サリダに慰められた気持ちが、少し落ち着くと… デシルの心にも余裕ができ、急にサリダのことが気になり始めた。


 頬に触れるサリダの大きな手に自分の手を重ね、もじもじとデシルはたずねてみる。



「あの… サリダ様はこれから、アオラ様と婚約を破棄されるのですか?」

 どれだけ嫌でも、僕は契約があるからフリオと婚約解消も、破棄も出来ないけれど…


「うん… 君に見せた不貞ふていの証拠が詰まった、調査報告書を見た時、私もそのつもりだったが……」

 そこまで言うと、サリダは難しい顔をして黙りこんでしまう。


「サリダ様?」


「私の方も簡単には破棄できない、事情が出来てしまったんだ…」


「事情とは?」


「・・・・・・」

 黙り込んだまま、サリダはうつむき、苦しそうな顔をした。


「あ! 僕が聞いてはいけない事情でしたか? すみません、今の質問は忘れて下さい!」

 そうか! レセプシオン伯爵家の、何か深い事情かあるのかも知れない?!


「いや… 私個人の事情と言っても、良いことだが…」

 顔をあげたサリダは眉間にしわを寄せて、ジッ… とデシルの顔を見つめる。


「無理に言わないでください… 僕の好奇心から、ついサリダ様にたずねてしまっただけなので…」


 

 サリダはフゥ―――ッ… と大きなため息をつくと、いっきに話す。


「アオラには“つがい”がいる! 私はそのことで彼女を問いつめて、そのまま婚約破棄に持ち込もうとした… だが、逆におどされてしまったんだ!」


「え?!」

 “番”…? アオラ様の“番”? それって… まさか…? まさか…?!


 ドクッ…! ドクッ…! ドクッ…! ドクッ…! とデシルの胸の中で、心臓が暴れだす。

 頬に触れるサリダの手を、ギュッ… とデシルは強くにぎりしめた。



「私がアオラの愛人、フリオに嫉妬して… 無理矢理アオラを、私が“番”にしたと… そう公表すると、脅されたんだ!」 


「フリオが…? “番”……?」


「そうだ!」


「・・・っ!」

 ガリッ…! 強く噛みしめた、デシルの奥歯が鳴った。


「デシル…?!」


「あの… あのゲス野郎は… フリオのゲス野郎は! それでも… 僕と本気で、結婚する気だと… サリダ様は思いますか?!」

 ぶるぶると怒りで身体を震わせながら、デシルはサリダの意見を聞いた。


「私はフリオ本人とは、まだ話したことが無い… だから予想の範疇はんちゅうを越えないが… アオラは婚約破棄を阻止しようと、私を脅したから… 恐らくはフリオも、そのつもりだと思う!」


「絶対にそんな奴を… 僕は受け入れられない!」

 気持ち悪い!! 自分の“番”がいるのに、フリオは僕と結婚する気だって?! 吐気はきけがする!!


 性交渉だけなら、契約通りにデシルも泣く泣くフリオを受け入れるつもりだったが… “つがいちぎり”をすでに他の人間と交わしているなら、話は変わる。


 “番”以外の人間をその身に受け入れれば、死の危険があるほどの、強い拒絶反応がオメガには出る。


 そういう身体のオメガだからこそ、“番”以外の人間を妻にしようとするフリオが理解できず、心が拒絶するのだ。


 デシルはそれほど嫌悪感を抱き、フリオに拒絶反応を示しているのに… 契約を破らないかぎり、結婚から逃れられない。



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