第10話 村人ABCDEFGH

 カイは最初ゴローがニエ村に現れたことに驚いた。だが、食人習性のあるゴローならば当然のことかと納得し、そして次にチャンスだと思った。


(チャンスだ! ゴローの特性を活かせば村人を皆殺しに出来る! ゲームみたいに! それにゴローを安全に倒すための時間稼ぎもできる。一石二鳥だ。よし、そうとなればまずはリオを起こしに――)


「あっちだ! ニエ村の方に逃げろー! エタマタたちを肉壁にするんだ! なに! どうせ生きる価値のないエタマタどもだ! 遠慮することはねぇ! ゴローに喰わせて纏めて贄にしちまえー!」


(っと、その前に)


 カイはクズオの死体と首と剣を引きずってエタ地区とニエ村を隔てる看板の前に立った。エタ村に殺到しようとしていた村人たちが動揺する。


「な! あれはクズオさまの死体!? 世界最強のクズオさまがやられるとは……そうか! 先陣を切って戦ってゴローにやられたのか! あの男、ゴローにやられたクズオさまの死体で俺たちを脅しやがって、許せねぇ!」


「みんなで袋にしてゴローの餌にしちまおうぜ! あのすかしたイケメン面が気に喰わねぇ!」


「殺せ! エタ地区にいるんだ! どうせ俺たちの敵に決まってる! 敵だ! 殺せ! 集団リンチだ! 数の力で蹂躙してやれ!」


 カイへと殺気だった目で殺到する村人たち。カイは冷たい眼で村人たちを睥睨した。


(全く、相変わらずの屑っぷりだ。安心して見殺しに出来るってもんだぜ)


 カイは剣を振り上げる。そして呪文を詠唱しながら横薙ぎに振り下ろした。


「闇啄ム戦慄ノ轍(ダークネス・ハイスラッシュ)!」


 ランク3魔法ソード・ハイスラッシュ、の名前と演出改造版。闇色の衝撃波が地面に巨大な境界線を刻む。村人たちの歩みがピタリと止まる。カイは看板の横にクズオの大刀を刺し、上向いた柄にクズオの首をゴリっと無理やり差して、その傍にクズオの死体を投げ捨て、ケツ穴にカオスロードを突き刺してグリグリしながらドスを籠めて村人たちに言った。


「エタ地区に立ち入ったらこいつと同じ目に合わせる。分かったか」


「……う、うわーっ! 化け物だー! 逃げろー! クズオさまを殺すなんてクズオさま以上の屑男だー! 最悪のモンスターだー!」


「エタ地区とは別の方向に逃げるんだ! 平気で人を殺すなんてあいつは人間じゃねぇ! なんて残酷な奴なんだ! この非人間が! 死ね!」


「このカスが! ちょっと強いからっていい気になってんじゃねーぞ! 所詮テメーは人殺しだ! その罪は一生消えねー! 忘れんなよ! テメーの背には既に消えない十字架が張り付いているッ!」


「エタマタに味方するエタチンポコが! このエタチンポコ! エタチンポコ!」


 思い思いの捨て台詞を吐きながら村人たちを散り散りに逃げ惑っていく。糞みたいな捨て台詞を浴びせかけられ、自分の手で村人たちを殺せないことにムカムカしたものを感じながら、カイはエタマタたちの元に戻った。そしてエタマタたちにゴローを倒すための指示を出す。


「こいつを煎じて粉状にしてくれ。それを纏めて持ってきてくれ。ゴローに効く毒薬になる」


 バストバッグから山盛りのマンドラ草を取り出して言う。明らかにバッグの体積を超過した量。驚くエタマタたちを代表してサチが尋ねる。


「そんなことをしてる暇があるのですか? ゴローから逃げた方がよくないですか?」


「大丈夫だ。ゴローはホモなんだ。だから女しかいないエタマタより男しかいない村人を優先して食う。俺一人しか男がいないエタ区域には村人たちを皆食いしてからやってくるだろう。だから大丈夫だ」


 サチは安心して笑みを浮かべた。


「なんだ。それなら大丈夫ですね。分かりました。カイさんの言う通りにします」


「頼んだ。サンはこっちにこい。お前には別の役目がある」


「え?」


「レベルが上がった今ならソル・オブ・ウォッシュが使えるはずだ。あの小屋にいる魔女は俺の仲間なんだ。でも、月蝕されかかっている。今は俺が気絶させてるからその間に正気に戻して欲しい」


「仲間……なんか納得……分かりました! やります!」


「よし! こい!」


 カイはサンを連れて魔女小屋に向かった。

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